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いっぱんじん してん 4/x

********************

 

 

 

 心臓が跳ねるのをやめてくれない。きっと背中を通じて背にもたれかかっている彼に聞こえてしまっているだろう。

 そのことを意識すれば、ことさら胸が高鳴っているように思えてくる。

 

 背にもたれかかられ抱きしめられ、『暇だから話し相手になってくれ』と言われて頭をフル回転させて。

 続く言葉を待ちながらも伝える言葉を考えながら、少しだけわくわくした時間を過ごしていれば……耳が微かな音を拾ってしまう。

 いつもはこんな小さな音、聞き逃すのに。これだけ慌てていれば気づかなことがほとんどなのに。

 

「もしかして……寝てる?」

 

 ボクの問いに答える音はない。

 直前まで、そんな様子はなかった。普段通り元気に不思議に動き回って話していたはずだった。

 

「時雨。すみませんが、少しだけそのまま眠らせてあげてください」

 

「私からもお願いするわ。それにしてもよほど心地良いのか……良い表情してるわね」

 

 イナバが、楓ちゃんが、続けて頼んでくる。

 2人の表情が、声音が、その"眠り"を望んでいたのだと言っているようにも聞こえた。

 

「ああ、話はそのまま続けてください。あの子への音はほぼすべて遮断してあります」

 

「魔法ですか?」

 

「魔法と情報体の複合ですね」

 

 ボクの問いに答えなかったのは、イナバが音を遮断していたから。そうであれば胸の高鳴りも聞こえていないだろうから、一安心だ。

 これだけ可愛い容姿をしていても男の子。同年代の異性に胸の高鳴りを聞かれるというのは、どうにも恥ずかしいものがある。

 

「時雨、少し場所を代わってくれないか」

 

「私はむしろ、ユウくんと代わってみたい」

 

「じゃあサリアちゃんが凛ちゃんに後ろから抱きつけば?」

 

「「っ!?」」

 

 2人が楓ちゃんの提案に目を見張っているが、それどころではない。

 同年代の男の子に抱きつかれたことなど、それもそのまま眠られたことなど1度も無かった。一緒に遊んだりなどはあったが、やはり男女の壁があったのだ。

 それにそんなことをすれば翌日どころか当日直後から、からかわれるのが目に見えている。それを面白い、楽しいなどという器の小学生や中学生は中々いないだろう。

 ……そもそもユウくんはどうして抱きついてきたのだろうか。別にボクの気を惹きたいとは思っていないだろうに。

 彼ほどの容姿があれば男女問わず選び放題であり、性格も悪くはない。ボクのような普通の女の子を選ぶことはないはずだ。

 

 ……いや、普通ではないか。

 そう思えば胸の高鳴りが少しだけ落ち着いてきた。

 ……まさかとは思うが、ボクは"可能性"に期待していたのだろうか。まず無いだろうし、あっても本当を知れば離れていってしまうだろう。

 

「ユウくんってさ、いつもこんななの?」

 

 気を紛らわせるために質問をしてみる。

 背中の彼が起きた時に落ち込んだ表情をしているのは良くないだろうから。

 

「普段はそんな眠り方はしません。あなたの音がよほど心地良かった、ということでしょう」

 

「え、ボクってそんな音を出してるの!?」

 

 つい大きめの声を出してしまった。

 しかしボクも年頃、自分から特殊な音が出ていれば気になってしまうのはしかたないと思う。

 

「音とは言っても直接、聞こえているような単純なものではありませんよ。私も詳しくはわかりませんが、人の今を音に変換して聞いているようなもの、らしいです」

 

「ごめん、まったくわからない」

 

 音に色を感じられる人もいると聞いたことがある。それに似たものだろうか。

 

「それにしても、ねぇ。イナバ?」

 

「だから私には期待しないでくださいと言ったでしょう」

 

 楓ちゃんのジト目が向けられれば、イナバは苦そうな表情で答えた。

 

「気になりますが、問題ないというのなら話を進めますよ。ほら、サリアと凛。首を傾げてないで、離れて話を聞いてください」

 

「ああ」「は~い」

 

 ボク達と同じ状況を再現していた2人が離れるのが見えたが、なんだか納得がいっていない様子に見える。というか本当にしているとは思ってもみなかった。

 大丈夫、翠ちゃんと葵ちゃんは普通側のはずだから。

 

 

 

 アリサさんが折れることで話は再開し、その後は特に詰まることなく順調に進んでいった。

 まずはアリサさん、イナバ、そして背中で寝ているユウくんの3人と他全員による少数の領土戦を擬似的に体験するための練習試合。そのあとで個別に指導が行われるらしい。

 しかし

 

「起きませんね」

 

 困り顔のアリサさんが言った通り、ボクの背の少年はまだ起きていない。微かに聞こえる、いつもなら聞き逃すだろうほど小さな寝息をたてて眠り続けている。

 時間は限られているのだから揺らして起こしてみればいいとは思うだが、誰も実行してくれない。背負っている状況のボクからは表情が見えないけど、きっととても気持ちよさそうに寝ているのだろう。起こすのを躊躇うほどに。

 まあ背負っていながら起こさないボクが言えたことではない。

 

「楓、起こしてくれませんか?」

 

「え~、いやですよ。アリサさんが起こせばいいじゃないですか」

 

 楓ちゃんが楽しそうな声で、少し笑いながら告げた。

 アリサさんが近寄ってきて1度だけ手を伸ばしてきたが、その手は来た道を戻っていく。

 

「やはり気が引ける表情をしていますから……姉のあなたなら、うまく起こせるのでは?」

 

 アリサさんの縋るような視線を引き剥がすように首は横に振られれた。

 この中で最も長く過ごしてきたであろう楓ちゃんにもできないのなら、しかたがないと納得できる。そう、ボクにもできるはずがないと。

 

「しかたがありません。時雨、少年を背負ったままこちら側で参加してください。あなたの戦力分析はあとで個別にやりましょう」

 

「え……それって参加する意味あるのかな?」

 

「もし途中で起きれば、放り出して前線に来てください。楓達と戦ってもらえればある程度はわかります」

 

 この時間を外で過ごすものだと思ったが、どうやらボクの思い通りには進まないらしい。

 でもとりあえず安全な場所で起きるのを待っていればいいのだから、気楽なもの……かもしれない。

 

「わかったよ」

 

「助かります」

 

 ボクが頷くことで方針は決まり、アリサさんは仮想ウィンドウの操作を始めた。


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