才能 4/4
確認を始めて、静かな部屋で皆に見守られること数十秒。
「確認が終わりました。少し足りない項目はありますが、十分に信頼できるデータが得られるものだと思います」
まあ予想通りというか、"そのままを"使ってやがりました。あとで連絡をしておきましょう。
「もう終わったの?」
「綺麗に編まれた情報体でしたからね」
綺麗に編まれた情報体は無駄な情報があまり存在しないため読み解くのも楽で、"知識さえあれば"時間はかからないことが多いでしょう。
まあ怪しいものであった場合は未知の作用も考えて深く調べるのですが、出処もわかっていますから。
「それではサリアからですね」
そう言いつつ情報アクセサリーをサリアの方へ差し出せば、サリアは銀色のアクセサリーを胸元から取り出し慣れた様子で触れさせてきます。
転送許可もすぐにされたようで待ち時間はほぼなく、情報体はサリアのもとへ送られていきました。
「ついでに説明書も回しておいてください」
「あ、これってイナバちゃんが今、作ったの?」
「解析のついでです」
「そっか。一緒に回しておくね」
ワクワクした様子を隠す気もないサリアはそう言って床へと腰を下ろし、目を瞑りました。
見た感じというか、おそらくサリアは適正がとても高いでしょうね。"魔法適性も高く"、情報体の適性も高い。楓までとはいかずとも、強くなる素質があります。
そしてあの性格ですから、世が世なら勇者として名を馳せていたかもしれません。
まあ今のサリアは勇者というよりも、むしろ――
「わわ、これってどうなのかな?」
考え事を中断して、送られてきたサリアの適正情報を仮想ウィンドウで開きます。
総量 :9+
出力 :8-
適合性:4+
目を通している僅かな間に件の情報体は凛に送られたようで、立ち上がったサリアが心配そうな顔で覗き込んできました。
「情報体だけでも十分に戦えそうな適正ですね。適合性も十分にありますし、四葉にでも情報体の作製と調整を頼んでみてはどうですか?」
「え、情報体だけで戦うのって難しいの?」
「臨機応変に対応するためには、やはり魔法もあったほうが都合がいいのです。ただこの適性ならば力押しも可能、ということですよ」
時雨ほどの適合性があれば別ですが、強い魔物になれば手持ちの情報体だけでは対応しきれない相手がでてくることもあります。一度引いて、再び準備してこれるのならばいいのですが、それが許されない状況がないとは限りません。
特にサリアの性格では置いて逃げるなどできないでしょうから、十分に予測できる状況といえるでしょう。
それでもこれだけの適性があれば、苦手な情報を持つ相手であっても力押しが可能となる場面が多い。ながもんのように『万能の情報体』を得られればほぼすべての状況を"捨てなくて"よくなります。
「情報体にも魔法があるけど、それじゃあダメなのかな?」
声は変わらずとも、私だけが見えるその表情は少しだけ悲しそうに感じました。
「情報体では適合性で引っかかりますが、魔法ならば使うこと"は"できますから」
「そっか~、適合性が引っかかるんだね」
顔を上げたサリアはそれだけを呟き、「ありがと」と告げてから凛達へと振り返りました。
まだ凛の測定が終わっていないようですが、触れ始めた期間を考えれば遅いくはないでしょう。ただサリア達の世界には"情報アクセサリーが存在していて"多少は慣れている。その差でしょう。
「凛、あなたの測定結果は楓に送ってください。戦力を組み立てる上で良い練習になるでしょうから」
「ああ、そうするよ」
この言葉による変化は、きっと私に送られるかどうかしかないのでしょうね。
もとから楓の意見こそ聞きたかったでしょうから。
「ね、ねえ。サリアちゃんはどんな適正だったのかな?」
「なんだか時雨ちゃんが欲しがってた『どか~ん』、『ば~ん』みたいな適正だったよ」
「いいな~」
「私はのんびり農業とかしたいから、時雨ちゃんのなんでもできる適正が羨ましいかな。天は望むものを与えず、だね」
「え、そうなんだ? 魔物がいる世界って聞いたからてっきり戦えるほうがいいのかなって思ってたよ」
「現実ならね。でもここはゲームの世界だから、夢の中くらいは望みの生活を満喫したいかな」
「……そうだね。それを思えば、ボクも自分の適性を好きになれそうだよ」
楓達の様子を見つつも交わされる小声を聞けば、それは嘘だろうと思ってしまいます。
本当であり、嘘であり。重要な場面で手が届かず、悔しく過ごす。サリアは十分に予想できているでしょうから、いらないなどとは思えないでしょう。
魔物がいる限り、完全な安全など望めないと知っているのですから。
それでものんびりした生活を望んでいるのは知っていますから、嘘でも本当でもないと思えるのです。甘くない優しさを持っている彼女だからこそ、そうだと思えるのです。
「イナバ」
「はい、どうしましたか?」
そんなことを考えていれば、楓に名を呼ばれました。
「このデータってさ、どうみてもスリーサイズが含まれてない?」
「はい」
「はい、じゃなくて。データ全体が1つの塊になってるから取り除けないし、どうすればいいのかな?」
これが召喚者を思う気持ちから付け加えられた機能だとは思わないでしょうね。私も聞いていなければ首を傾げるような機能ですから。
それにしても……。
「なにを気にすることがあるのですか? はっきりいえば、スリーサイズどころか身体情報すべてを伝えるべき相手にこそ渡す情報ですよ?」
「ふむ、それは一理あるな」
凛が私の言葉に納得した様子で頷けば
「凛ちゃんは黙ってて」「あれ、ボクのスリーサイズも……?」
「わかった」「あはは、そうなるね」
楓が口を挟み、凛はそれにも頷きました。
「まあ一点ものですから、その情報は参考程度に考えて誰にも渡さないようにすればいいのですよ。そもそも、私はその情報を消したくありません」
想いが乗せられた機能なのですから。
「……イナバにとって、これは必要な情報なのですか?」
「私には必要ありません。私のパートナーはユウですから」
今まで黙って成り行きを眺めていた翠の言葉を聞き、即座に否を返します。
私は必要であればプライバシーなど考慮しません。溝を作ってしまった2人だったからこそ、必要な機能なのですから。
「私が楓の情報体を加工する際、あったほうが便利だと思いますか?」
「そんなものに頼らず、すべてを知るべきでしょうね」
「ええ、私もそう思います。だから楓、その情報は心に秘めておきましょう」
翠は嬉しそうな笑顔を浮かべ、楓に向かいそう言いました。
「で、でも。これがあれば何かわかるかも……。私じゃあわからないことも、イナバや四葉なら……」
迷い彷徨うような楓は、翠の言葉にも応えられずにいます。
それだけの可能性をあれに見てしまったのでしょう。
「情報を投げてもらってもかまいませんが、なにかわかっても伝えるつもりはありませんよ」
「な、なんで!?」
嘆くような、それでいて縋るような表情の楓を見て、かなり心が揺らぎましたが首を振ることでふるい落とします。
あの子が放置しているのですから、それは急ぐ必要のないことなのでしょう。なにより私は凛の問題を何も聞いていません。その状況で答えるなど、してはいけません。
「助けようと思えないからです」
「だからなんで!」
楓が近づいてきながら声を荒げて抗議しますが、考えは変わりません。
「言葉通りの意味です。私は越えようとする者の、それも一部の者にしか手を出しません。助けることが必ずしも救いに繋がるとは思っていませんし、なにより私は対価を求めるのですよ。凛はそれを向けてくれそうにない。だからなにもしたくありません」
「……なんでよ」
楓は私の胸に両手を軽く打ち付け、そう呟きました。
涙で溢れているだろう顔は俯いていて、どのような表情を浮かべているかわかりません。
「楓、やめてくれないか」
静かな部屋に、凛のひんやりとした声が響き渡ります。
「私はイナバに何も言っていないんだ。イナバは何も知らないんだ。私の知る楓は感情に任せて、何も知らぬ相手に求めるような人ではない」
「……」
黙っている楓にかまわず、凛は続けます。
「この夢のようなひとときですら、私には過ぎた状況だ。だから、私のひとときを壊さないでくれ」
悲しそうに言い終えた凛は部屋を出ていきました。
「ぅぅ……なんで、なんでよ……」
私の胸に両拳を当てたままの楓は、そのままの状態で嘆きます。
天才と謳われた彼女は、きっと何もできなかった。要らないことはすべてできたのに、要ることはすべてできなかった。
その結果がユウなのでしょう。
だから楓を抱き上げて
「葵、あとをお願いしますね」
それだけ言い残し部屋をあとにします。
誰もが彼女にもたれかかってしまった。
丈夫で力強く、とっても大きな柱だったから大丈夫だと、誰もが思ってしまう。そんな柱なのに『光の声』で呼びかけてしまう柱だったのだからしかたがない。
実際は脆く、今にも崩れ去りそうだと知らずに。
楓の部屋から出てみれば、壁に背を預けた凛が待っていました。
「すまない。迷惑をかけてしまったな」
「あなたは場をおさめただけでしょう。気にすることはありません」
そう。楓が無駄な質問をした時点で、私に解析を期待しているのだと気づくべきでした。普通を装った探りなど、跳ね除けるべきでした。
「いや、実際のところ原因は私だからな。私が止めるべきだし、君には迷惑をかけたと思っているよ」
「そうですか。では謝罪は頂きましたから、もう気にしないでください。明日には元通りになってると嬉しいですね」
まあ楓は気にするでしょうし、凛も気にするでしょう。
それでも、あれは積もり積もったものが崩れ落ちただけ。絶妙なバランスで保たれていた木組みが崩れ落ちただけ。
いつかは訪れていたそれが、今だったというだけなのです。
「……聞いてくれないのだな」
そういった凛は苦笑いを浮かべました。
「なにを聞いてほしいのですか?」
「いや、忘れてくれ。気の迷いだ」
首を横に振った凛はそう言い、壁から背を離します。
「お詫びにはならないかもしれないが、何か手伝おう。今日はこれから暇なんだ」
「それなら、ちょうど私も暇ですし……皆の実力を見ておきましょうか。なぜか別室に居座っているアリサも連れて」
いや、何をしに来たかは知っているのですけどね。
楓があの状況では意味を成さないでしょうから、暇潰しに誘いましょうか。
「ああ、なぜかこちらに着いてきていたな。もしかして楓に話があったのか?」
「どうでしょうね。どちらにせよ、誘ってみればわかることです」
「それもそうか」




