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才能 1/4

良い切り目が見つからず、大雑把に分割しました。そのため3日分を今日、投稿します。

********************

 

 

 

「イナバ、魔法を教えてほしいんだけど……いい?」

 

 領土館の一室。多目的部屋と名付けられた、実際は皆でくつろぐだけの場所。そこに置いてあるソファーの上で寝転がって掲示板に目を通していたところ、時雨の声が聞こえてきました。

 可愛らしく覗き込んでくる姿を見て、こういうところは年相応の子供らしいと頬を緩ませてしまいます。

 

「別にかまいませんが、あなたには魔法よりも他のものが向いていると思いますよ?」

 

 そう言いながら掲示板を映していた仮想ウィンドウを消して起き上がります。

 

「え、そうなの? まさかボクにも隠れた才能が!?」

 

 頬に手を当て嬉しそうにしている時雨を見て真実を伝えるかどうか検討してみましたが、やはり伝えるべきと結論を出して口を開きます。

 

「私ほどではないですが、魔法の才能がありません。補助程度ならかまいませんが、決め手にするものならば他を、ということです」

 

「え……」

 

 私の言葉を聞いた時雨は一転して顔を曇らせ、動きを止めました。

 まあ才能がないですよと言われればしかたのない反応です。それでもいずれは伝えなければならないことなので、遅いよりは早いほうがいい。

 特に分岐点を見出そうとしている状況では。

 

「で、でも……練習すれば隠れた才能が開花したりとか……ない、かな?」

 

 私の言葉だからでしょう。否定することはせず僅かに震える声で可能性を探るように聞いてきました。

 

「そうですね……翠、手は空いていますか?」

 

「ええ」

 

 座椅子に座り何もない空間を眺めていた翠に声をかければ、すぐに返事をしてくれました。そして立ち上がり、こちらへと近寄ってきます。

 

「どうしましたか?」

 

「窓を開けて、空に向けてファイアボールを撃ってください」

 

「……? ええ」

 

 私の頼みを聞き終えた翠は疑問満点の顔で、それでも窓へと向かって移動しました。そして窓を開け放ち空に手を向けて詠唱を始めます。

 その間に時雨も窓の外が見える位置へと移動すれば、詠唱はすぐに締めを迎えました。

 

「ファイアボール」

 

 詠唱の締めとなる魔法名を告げたところで、翠の手のひらから橙色の不定形な玉が発生しました。それは手のひらが向けられている方向へ移動を始め、急激な加速を経て空へと駆け上がっていきます。

 時雨と翠が見つめる中、少し離れたところで消えていった玉の大きさは1メートルを超えない程度、といったところでしょうか。

 

「……ボクのより、だいぶおっきい」

 

 空を唖然と見つめる時雨の呟きは、既に諦めを宿しているようにも聞こえました。

 

「これが1つの判断方法ですね。次いでアルファの人族は魔力総量が少ないので、そもそもアルファ出身の時点で向いてないともいえます」

 

 もちろん例外もありますが、教える必要はありません。

 

「ですがイナバ、私のものも小さいと評価されましたよ?」

 

 振り返りこちらを向いた翠が問いかけてきました。

 

「翠も才能が無いと判断されるでしょうね。まあ本人が強く望んでいるのならまだしも、別の才能を伸ばす時間を利用してまで伸ばすのかということです」

 

「ふむ……。それはあの魔法1つで判断されていいものなのですか? 時雨さんの言うように未知の伸び代が存在している可能性は?」

 

 口元に手を当て少しだけ考え込んだ翠の結論は"可能性"。それはけっして捨ててはいけない望みの力であり、むしろそれを捨てるのなら見込み無しと判断するかもしれません。

 ですが、より現実的で早く得られる力から求めるべきだというのが私の考えなのです。

 それが必要とされないのはアルファという人全体に対する脅威の少ない世界、さらにいえばその中でも安全な国だけなのですから。

 

「まずは伸びやすい力を身につけ生きられるようにしてから、可能性を模索するべきだと私は考えています。1人であっても生きられるように」

 

 1人だけ生き残ってしまっても、続きを歩めるように。

 

「それは……たしかに、そうだね」

 

 少しだけ身体を震わせた時雨は、すぐに納得した様子で頷きました。

 このあたりの言葉選びは苦手なので楓あたりに任せたいところなのですが、これは私に頼まれたことですから。

 

「まあ興味を持てたものから始めるのも悪くありませんよ。最終的にはすべて会得するのですから」

 

「そ、そうだよ……ね?」

 

 やる気が満ちようとしていた時雨の顔が固まります。

 

「それを知らないと相手をできない、ってことよね」

 

 カーペットに寝転がって天井を見つめていた楓が、ようやく口を開きました。

 心ここにあらずといった様子の理由はわかりかねますが、放り出したのでしょうね。あれは解決した顔ではありません。

 

「魔物であっても魔法はおろか情報体すら扱いますからね。一点突破の力技で通用するのは弱い相手か、こちらが圧倒的に突き抜けているかです。何度も迎える壁を超える際に、他に目を向けるといった経験はありませんか?」

 

 何かを思い出すように黙った時雨と翠は、少し待てば肯定の呟きとともに頷きました。

 

「翠ならば情報体の扱いと加工、葵ならば弓、凛ならば刀でしょうか。それを探し出すまでが難しいでしょうが、見つけられれば代え難い力となってくれますよ」

 

「あれ、イナバ。私は?」

 

 あきらかに良い場面だったというのに、楓は力の抜けるような声で聞いてきました。

 まるで期待していたのに肩透かしをもらったというようなその反応は、迷っているのは楓も、ということなのでしょうか。

 しかし、楓にそれを問われても迷うのです。だからわざと省いたのです。

 楓は"万能"。そこまで時間をかけて観察したわけではありませんが、魔法・情報体の両面で非常に高い適正を持っている上に技術面でも天才と謳われるほどなのです。

 弱点といえば精神面なのですが、それは強烈な不可で"終えて"しまうということであり、強度面でいえば強い。あえて足りないものを挙げるのならば、『時間』と『躊躇なく捨てる覚悟』かもしれませんね。

 しかし後者を得てしまえば、それは楓ではない。見捨てぬ優しさと見捨てられぬ甘さを備えたその人こそ楓なのでしょう。

 そうなると……。


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