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チェス盤の周りで 1/1

 とある場所のとある建物の中。数多くのテーブルとそれを囲むように並べられた椅子が喫茶店のような雰囲気を醸し出しているそこでは、普段よりも賑わいを見せていた。

 様々な色合いの飲み物や軽食がテーブルを埋めており、普段ならば料理の美味しさに加えて数多くのメニューを目当てにした人物が訪れる場所なのだが、今日という日は客層は同じでも目的が違っている。

 背に複数の半透明なひし形の羽を浮かべる者、複数の狐のような尻尾を揺らす者、特徴的な耳を持つ者、人族と変わらぬ容姿を持つ者など椅子に座る種族は様々であり、その誰もが目の前に浮かぶ半透明で極薄い板状の『仮想ウィンドウ』と呼ばれるものに視線を向けている。

 

 そんな空間の角にあるテーブル。そこに座っている女性達もまた、周囲と同様に仮想ウィンドウへと視線を向けていた。

 そのうちの1人。腰ほどまである薔薇のように真っ赤な髪を微かに揺らし、ルビーのような赤い瞳で仮想ウィンドウに映る先を眺める人物は顎に手を当て、何かを考えるような素振りを見せる。

 

「カナエ、誰を見ているの?」

 

 その声はテーブルを挟んで向かいに座るもう1人の人物、白いローブを纏う女性からのもの。肩下まである真っ白な髪とは対極の真っ黒な瞳が赤髪の女性――カナエを見つめている。

 

「スカートの中が見えなかったんだ」

 

「見たかったの?」

 

 その静かな返答にカナエは言葉を詰まらせる。

 2人の目の前に浮かぶ仮想ウィンドウに映っているのは、同様に真っ白な髪と赤い瞳を持つ人族の幼い少女……にも見える少年と、その子が召喚した兎型の従魔。その2人が意味不明な行動をしている姿だけだった。

 少年の独り言は従魔に話しかけていると理解できるが、召喚されたばかりであるはずの従魔が魔法陣を描き始めた理由はわからない。

 召喚されたばかりの従魔に与えられる知識はその魔物が本来持っている知識および召喚主と生活するのに困らない程度の知識だけ。それに加えて"この世界"にログインしたものが与えられる知識が混ざったとしても、戦闘技術に関する知識どころか魔法技術に関する知識などは与えられない。

 しかし、それは兎型の魔物が予想しているラビットではないケースであった場合ならば解決するので、今はそこまで気にしていなかった。

 問題は突然、飛び出して駆け出し始めた少年のスカートに関してだ。

 

「ごめんなさい、冗談よ」

 

 白髪の少女は楽しそうにふふっと笑い言葉を続ける。

 

「まるでこちらの視線を意識しているように中を隠していた。そう感じたの?」

 

「ええ。それに気づいていて、あなたはなぜ疑問に思わないのかしら? やっぱりあの子に関して何か隠してない?」

 

 そう言いつつも、カナエはあまり気にしていない様子でテーブルに並べられているサンドイッチに手を伸ばす。

 

「あなたに隠しているわけじゃない。知りたければ、あの子に直接聞けばいい」

 

「……聞けるわけないじゃない」

 

 手を止めて、やや俯いたカナエから悲しげな声が溢れたが、それは風のように流れ周囲の喧騒に埋もれていった。その場に静寂を残して。

 そのまま1分、2分と経過したところで静寂を破ったのもまた、カナエだった。

 

「わかったわよ。いずれ聞くから、既に話せる段階は過ぎているのだから、大丈夫……」

 

 後半は白髪の少女に答えるというよりも、自分に言い聞かせるような小さな声。それを漏らさず聞き届けた白髪の少女は再び口を開く。

 

「あなたが決めたことだからね、容赦はしない。それよりも誰に賭けたの?」

 

「ん、この子に賭けたよ」

 

 一転した雰囲気を纏ったカナエはサンドイッチを手に取り答えた。

 "賭け"とは、今この店内を賑わせている重要な要素だ。

 今回、初めてログインするプレイヤー達、通称『第3陣』が受けている試練にも近いチュートリアル。それを突破できる個人を当てるというもの。さらにその対象がログインしている世界、その対象の種族の人数に応じて順位が決められており、それも賭けの対象となっている。

 しかしながら賭けに勝って金銭を得たいと思うものは極僅か、あるいは存在しないと思われていた。第1、第2陣のプレイヤーならば今、賭けられている程度の金額などすぐに稼ぐことができるのだから。

 それではなぜ多くのプレイヤーが参加しているのか、それは自慢に他ならない。気に入った子や自らの世界の種族など、『どうだ優秀だろう』と自慢したいだけだ。

 その他にも選んだ相手の街に移動できるという参加賞もあるのだが、こちらを利用する人物は少なかった。過去に唯一行われた第1陣の時は、だが。

 

「真白、あなたは?」

 

「桜と楓とこの子」

 

 賭けられる金額の上限は決まっているが、賭けられる数は決まっていない。そのため白髪の少女――真白のように複数人に賭けることもできる。

 

「楓は当然、突破するとして……桜はどうなの? 順調そう?」

 

「キングが危ないかも。早めにポーンからクイーンになれば、大丈夫?」

 

「そう。まあ突破しても宿屋の無料券だけだし、全滅してもデメリットなんかないから問題ないわね。そうだ、今の状況は……」

 

 カナエは目の前、少年と兎の従魔が映るウィンドウの真横に新たなウィンドウが出現する。そこには実際の映像は映し出されず、何かの名称や数字が並ぶだけ。

 それを見たカナエは唖然とした。

 

「ちょっと、今回の魔物ってどこまで強いのかしら?」

 

 カナエの問いかけを聞いた真白は、少し考えた後で「ああ」と呟き自分の見解を告げる。

 

「私達の時よりもかなり弱いと思う。単純にプレイヤーが弱い?」

 

「アルファ世界ならまだしも、他の世界は魔物がいるはずでしょう? 戦い慣れてない人達ばっかりだったってこと……かしら?」

 

 カナエは曖昧な結論を出しながらも不思議そうに首を傾げた。

 

「さあ。それでも私やあなたは上位に属していたはずだから同じ基準で考えないほうがいい。きっとこれが世界の基準」

 

「そうだった、わね」

 

 そう呟いたカナエは新しく表示されたウィンドウを消し、白髪の少年と兎の従魔が映っているウィンドウへと視線を戻す。目を離す前と一切が変わったように思えない、そのウィンドウへと。

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