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いっぱんじん してん 2/x

 心地良さに目を瞑り暖かさを感じていれば、からから、ぴしゃという音が聞こえてきた。

 別に貸し切りだと思っていたわけではないので驚きはしないし、待ち人かもしれないのだ。予想ではもう少し後だと聞いていたが、早めに来られたのだろうか。

 

「あら、楓ちゃんじゃない」

「おや、凛に楓に翠に葵と勢揃いですね」

 

 しかし聞こえてきたのは知らない女性の声が2つ。そのどちらも楓ちゃんの知り合いであるらしい。

 世の中は狭いものだと目を開けてみれば、びくぅと身体が持ち上がった気がした。

 

「団欒のところ悪いわね~」

 

 そう言いながら湯船に足を浸け身体を浸けた人物はボクの、いや、日本の誰もが知る人物によく似ていたのだから。

 深夜色の髪は結い上げられているが、もともとは腰に届くくらいの長さだったはずだ。真っ黒な瞳を宿す目は常に微笑みが湛えられていて、見る人を安堵させる。

 スタイルはもろに大人の女性といった感じで……というか、つい逸してしまった。湯気で見えなかったが、なぜタオルを巻いていないのか。

 

 逸した先では凛ちゃんと翠ちゃんと葵ちゃんもボクと似たようなことを考えているのか、それでも目を逸らさず動きを止めていた。

 

「イザナミ様、アリサさん、お久しぶりです」

 

 そう。日本の守護神、現代に顕現している神、イザナミ様だ。

 この人がいるからこそ日本は世界一であり、その"強さ"はすべての国が認めるところである。

 まあ日本もこの人頼りというわけではない。むしろそんなことになれば、見放されると知っている。

 だから日本は世界一なのだ。見放されないために。

 

「あら、そちらの可愛い子は誰かしら?」

 

「知っておいでですよね?」

 

「初めて会ったわよ?」

 

 言葉からボクのことだと予想はできるが、顔は向けられない。興味はあるのだが、不敬だとわかっているのだが、恐れ多いのだ。

 

 どうしようかと頭を空回りさせていれば、ばしゃ、ばしゃと音が聞こえてくるとともに、脇に柔らかな何かが差し込まれた。

 とってもとっても優しいそれは、ボクを少しだけ浮かせて向きを変えさせる。イザナミ様の方へと。

 そしてぎゅっと抱きしめて、囁いてくれる。

 

「あなたまで、怖がらないで」

 

 直後、自分の行為に頭を殴られた気分になった。

 自分がしようとしたそれは、自分が忌み嫌うそれと大差ないのではないかと。

 いや、そんなことはわかっていたはずだ。それでもなぜか、なぜか顔を向けたくなかった。

 

「ごめんなさいね」

 

 すっと、後悔するような声が聞こえてきた。真ん前から。

 そこで初めて俯いていた顔を持ち上げてみれば、そこには心配そうなイザナミ様の顔だけがあった。

 いつもの威厳に満ち溢れたそれではなく、まるでお母さんと変わりないようなそれは……私が口を開くには十分な理由だったみたいだ。

 

「は、はじゅめまして。時雨です」

 

 噛んだ。顔が真っ赤になったのをここまで自覚したのはいつ以来だろうか。

 

「はい、初めまして。伊佐・美波よ」

 

 そしてぎゅーと抱きしめてくる。豊満なそれに埋めてくる。

 そしていつの間にか、脇の間から差し込まれていた手は消えていた。抱きしめられていた腕も消えていた。

 あれが誰だったかはわからない。声というか、雰囲気が誰にも当てはまらない。

 

「ところであの子は……冗談よ、楓ちゃん」

 

 解放された顔でイザナミ様の視線を追ってみれば、楓ちゃんがニコニコしているだけだった。

 というか、他の皆はこんな有名人と知り合いなのだろうか。

 

「さて、とりあえず。凛ちゃん、翠ちゃん、葵ちゃん、初めまして。貴方達のことは楓ちゃんやアリサから聞いてるし、こっそり見たこともあるから知っているわよ」

 

「初めまして」

「は、初めまして」

「はじめま、して」

 

 その返答では、いつも冷静な翠ちゃんや葵ちゃんですら動揺が見られる。それでも凛ちゃんは変わらない。

 肝が座っているのか、慣れなのか、他の理由なのか。

 それでもボクと同じ一般人枠が他にも居てくれたことに安堵を覚えた。

 

「ふふ。皆、どうかしら。ゲームは楽しめてる?」

 

 話してみれば普通というか、親しみやすいというか。

 きっと楓ちゃんがいるからだろうけど、楓ちゃんの知り合いだからだろうけど、神というには首を傾げる朗らかさだ。

 

「はい、楽しめています。機会を与えてくださったこと、感謝します」

 

 臆することなく真っ先に答えたのは、いつもと違う口調の凛ちゃんだった。

 それはよそよそしいというよりも、心から感謝しているからこその変化だと思えた。彼女が零れ出たような笑顔を浮かべていたからかもしれない。

 うん、やばい。破壊力満点の表情だった。

 普段から名前通り凛とした雰囲気で、行動も見惚れるようなものだから。たまに見せる残念さえ目を瞑れば『かっこいい』が当てはまる彼女だから。

 だから、無邪気で可愛いあの表情はギャップもあって、こう……ぐっときた、ような。

 

「私も楽しめています。特に情報体は興味深いです」

 

「私も……その……楽しめてます」

 

 凛ちゃんを見て落ち着いたのか、普段通りの翠ちゃんと、もじもじしながらも言葉を告げられた葵ちゃんと。見た目は双子でもやっぱり差があって、少し頬が緩んでしまう。

 

「そう、それは良かった」

 

 それらを聞いて、イザナミ様は嬉しそうにニッコリと微笑んだ。

 

「ええ、楽しんでいるようで何よりです」

 

 そう言ったのはイザナミ様の隣に浸かった少女。たしか……そう、アリサさん。

 輝く金色の髪をイザナミ様と同様に上で結っている、碧色の瞳をした少女。浸かる前を思い出せば楓ちゃんのようにスタイルが良く、ほっそりとした腕や足すらもなぜだか力強そうに見えた。

 でも視線を少し下に動かせば仲間意識が生まれる。

 

「そういえばアリサさん、どうしてアバターをいじったんですか?」

 

「それは私も気になっていたのよね~」

 

 凛ちゃんの質問に乗っかったイザナミ様が頬に手のひらをあてた。

 アバターをいじろうとすれば警告が飛んできたはずだけど、それを無視したのだろうか。

 

「ある理由から凛達と同じ15歳の時の身体に調整したのですが、意味はありませんでした。それは最初から気づいていたのですが……なんとなく戻さずそのまま始めてしまいまして」

 

 その言葉に『そっかそっか、アリサさんは大人なのか』と納得する。

 理由に関してはボクなんかが考えても意味のないことだ。どうせわからないし、答えも得られないだろうから。

 

「え゛……そこからあそこまで大きくなるんですか?」

 

「楓、器用な声を出しますね。まあ実際にそうなったのですから、事実でしょう」

 

 咄嗟に耳を塞ぎたくなった。

 そんなに理解力は高くないはずなのに、今回に限ってはすっと理解できてしまった。それもそのはず。同士である楓ちゃんの驚きだったのだから。

 くそぅ、あやつは同士では……いや、よくよく考えてみればボクや楓ちゃんに希望が示されたとも捉えられる。それならばむしろ、救世主ではないのだろうか。

 

「気持ちはわからないでもありませんが……あなたは今でも魅力的でしょう?」

 

 そういったアリサさんは、なんだか胸を張って自慢げな気がする。

 

「そうよね。アリサも悩んでたものね~」

 

「美波!?」

 

 そうか、悩んでるボクは可能性があるのか。

 

「でも、大きいかどうかよりも好きな人の好みに合うかどうかのほうが大事だと思う」

 

 駆け抜けたその言葉に胸を打たれた。

 たしかにその通りだ。もし好きになった相手が小さいほうが好みだったら、逆に不利になってしまう。それを考えれば"運"であると言えまいか。

 

「……葵はたまに凄く考えさせられる言葉を放り込みますね」」

 

「葵は優秀なのですから、当然かと」

 

 感心した様子のアリサさんに、翠ちゃんが満足気にそう言った。

 でもなぜだろうか、姉の言葉を聞いて嬉しそうな葵ちゃんに僅かな違和感を覚えてしまう。それでもそれがなにかはわからなくて、結局は勘違いだと処理をした。

 嬉しそうなことに違いはないのだから、横やりを入れる必要はない。

 それにボクの直感はくじのように当たってはくれない。危険も嫌なことも伝えてくれないのだから。


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