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番台で 1/1

※途中の変な記号の群れは文字化けではありません。うまい表現が思い浮かばなかった結果ですorz

 用意してあった浴衣は放置してもとの服装で外に出てみれば、番台の椅子に女性が1人、座っていた。

 

「ふむ、可愛らしい子よ。汝がイナバの召喚主か?」

 

 それは威厳があるような、ないような。絶妙な雰囲気を纏った女性の声。

 左側の耳の上で纏められた真っ赤な髪の先端は今にも地面を撫でそうな位置で"浮いている"。こちらを捉える真っ青な瞳は興味を隠そうとせず、楽しそうに輝いている。

 紫陽花模様の浴衣に覆われた身体と見え隠れする手足の先からは人族と変わらぬ様子が窺え、人族であればスタイルの良い大人の女性と言っておけば通じそうだ。

 

「間違っていないよ。そんなぼくに何か用かな?」

 

 笑顔で対応はするけど、他の人達相手のように無邪気さは欠片も出さない。

 この人はイナバやおかあさまと同じ側の存在なのだから。

 

「おや、警戒しないでおくれ。友の知り合いならば仲良くしたいと思ったに過ぎぬのでな」

 

 その『友』がどれほどの価値があるのか。彼女の穏やか笑顔がそれを示している。

 現代日本のありふれた友とは一線を画した『それ』は、出会えたことすら奇跡のような存在なのだろう。

 

「覗こうとした人に警戒するなって言われてもね」

 

「……すまぬな、常識との差異を埋めたいと思ったのだ」

 

 女性はぷいっとそっぽを向いてそう言った。

 アルファ世界の一般的な人族の容姿と合致しなかったための疑問だったのだろうけど、それで裸体を覗くというのはどうなのだろうか。

 うえの人にしては珍しく常識人なのに、どうにも知りたいという欲求が強い。悪いことではないけど、それでは求めている理由から離れてしまうことも多いだろう。

 

「ぼくの容姿は稀だから、基準ではなく例外に当てはめておいて。それで解決するから」

 

「稀なのは知っておった。男の娘、というのだろう?」

 

 腕の中から「ほう」と聞こえてきた気がするけど、聞き流しておく。

 

「知りたがりさん、それを嫌う人もいるから気をつけてね」

 

「それはすまなかった。しかし可愛いというのはアドバンテージではないか?」

 

 それは存分に利用しているので否定はできない。だから放置しておく。

 

「まあよい。それよりも、ほれ。連れが出てくるまでここに座って話でもしまいか」

 

 女性はそう言い、隣の椅子をぽんぽんと叩いた。

 ここのお湯は何時間でも浸かっていられるので入浴が長くなってしまうのは理解できている。その間を埋めてくれるというのだから、ぼくとしてもありがたい。

 

 そう思い開け放たれた番台の扉へ足を1歩、2歩と進めて……止めた。

 目の前には驚愕に見開かれた目と、鉛色の槍。

 寂しく空になった腕から温もりは消えて、真横から2人を遮るように突き出されたそれ。以前の穂先が赤に満たされたそれとは違う、鉛だけに満たされた同じ形の槍。

 

「どういうつもりだ、イナバ」

 

 言葉の強さとは裏腹に、悲しそうに震える声が静かな部屋に響く。

 あれほどの意味を持つ『友』が一転して、"消すための槍"を向けてきたのだから無理もない。理由すら理解できていないのだからなおさらだろう。

 

 これはあまりにも悲しすぎる経過だと思う。のちに笑顔が待っているとしても、禍根を残していまうもの。

 だからさらに1歩を踏み出す。

 イナバの友のために。

 悲しき神のために。

 

「ユウ!」

 

 止める声など聞く気はない。

 できると知っていながら止める声などに惹かれるつもりはない。

 

「大丈夫」

 

 真ん前まで近づいて頭を抱き寄せ、胸に抱く。目前まで近づいてもぼくを見ていなかった女性の目が、初めてこちらを向いた。

 

「あなたはぼくのことが嫌い?」

 

「いや、避けたくはあるが嫌いではない。むしろ……」

 

「そう」

 

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「消費の魔王よ。倹約の神よ」

 

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「世界の友よ。救世の勇者よ」

 

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 ...>>!>>>*。

 

「祖なる蛇よ。循環の概念よ」

 

 ...。

 

「優しきあなたが戸惑う必要はない。ぼくはあなたを許そう」

 

 …………。

 ……。

 

 ……ふむ。なんて言ったのかな、ぼくは。

 気づけば腕の中に女性の顔があった。その表情は子供のようで、一筋の涙を流している。

 しかし次の瞬間にはハッとした表情を浮かべ、嬉しそうに笑い、再びハッとした表情を浮かべて突き放された。

 

「……さすがイナバの召喚主ということか」

 

 顔を赤く染めた彼女はそう呟く。

 言葉とは違い嬉しそうに、惜しそうな表情を浮かべて。

 

「イナバ、ぼくはなんて言っていたかな?」

 

「覚えていないのなら知らなくていいです。それにしても消費の龍よ。ユウに殺意を向けていたことに気づいていましたか?」

 

「……私が、か?」

 

 彼女はそう言い、本当に心当たりがないといった様子で顎に手を当てて考え始めた。

 間違いなく無意識だったのはわかる。意識的であったとしたらなにもするつもりはなかった。そんな縁は切れてしまえと思うだろう。

 

「そもそも私が殺意を向ける必要のある"人"など、いないのだがな……」

 

 そう言った彼女は悲しそうで困ったような笑顔を浮かべた。

 最愛の王のような神であるから。民すべてが愛すべき存在であるから。

 彼女に嫌う"人"など存在しない。たとえ異世界の住人であっても。

 

「しかしイナバが言うのだ、間違いなく向けていたのだろう。それがイナバの逆鱗に触れてしまったのだな……。たしかに私が僅かでも殺意を向けるということは、それだけの理由になる」

 

「別にあの程度の殺意、気にしません。ですがあなたがおかしいと感じたのならば別ですよ」

 

「耳が痛いな……ひゃぁ」

 

 なんだか蚊帳の外だったので、そっと近づいて耳に息を吹きかけてみた。

 いたいのいたいのとんでけ~、なんて。

 

「おや、案外かわいらしい声を出せるのですね」

 

「うっさいわ」

 

 イナバがそう言って楽しそうに微笑めば、目の前の彼女は頬を赤くして口を開く。それはそれは楽しそうに。

 

 

 

********************


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