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ex-if『英雄』01

おまたせしました、約束の凛ちゃんです。


 身体の一部が鱗で覆われたもの。背に羽を、頭頂に特徴的な耳を持つもの。人と変わらぬ姿だが背にひし形の翼を浮かべるものなどなど、多くの種族、数え切れないほどの人々が集まる草原の一角。その一部の視線の先には、そこに似合わぬ姿が1つだけ鎮座していた。

 太陽の輝きを鈍い鉄色で返す、巨大な人形。アルファ世界、地球の人をすっぽりと隠せるほど太く大きい豪腕に、どのような衝撃でも踏ん張り、その身体を支えてくれそうな、腕にも負けぬ大きさの立派な脚。

 ある世界の物語のように外側から見える、文字を1つ消せば倒せるような弱点は見当たらず、ただ静かに挑戦者を待ち受けているそれはランク6と評された魔物『アダマンタイト・ゴーレム』。

 人型を大きくしただけとは少し違うその姿は、視線を向けるものに恐怖を与えていた。

 

「あれがランク6……あんな小さいの1体で街が滅ぶのか?」

 

 雑踏の中からの一言。小さいとは言っても巨木を薙ぎ倒しても不思議ではない大きさをしているのだが、それ1体で街が滅ぶのかと問われれば首を傾げる程度には大きくない。

 そんな中でも余裕を崩さず、恐々嬉々などなど様々な表情を見守る存在が1人。その周囲には誰もおらず『特別扱い』が目に見えているその人。

 紺色の髪と青く澄んだ瞳を持つ、基本は人族と変わらぬ姿の青年。身体の一部が鮮やかな青色をした鱗に包まれ、背には立派な青色の翼を、少し視線を下げれば大地に寝転がるような青い鱗に覆われた尻尾を持つ、『デルタ世界』の竜人族。

 この集まりを企画した1人であり、満場一致で今回のまとめ役に選ばれたその人。

 

「少々、慣れぬ者もいるようだが、なかなかの士気ではないか」

 

 満足そうに頷いた彼は、人々の中に見知った姿を見つけた。

 

「あれは……」

 

 そう呟きながら歩みを進めれば人垣が開けていく。それは尊敬の証であり、期待の証であり。

 竜人族の青年はとある少女の後ろ姿を前に足を止める。

 

「凛殿、であるか?」

 

「デルタ世界、竜人族のウミナリ殿か」

 

 竜人族の青年『ウミナリ』が声をかければ、人族の少女は振り向き、僅かに驚きを見せながらも他のものと比べれば落ち着いた雰囲気で対応した。

 腰まで届く長い黒髪を後ろで1つに結んだ、黒い瞳の少女。歳を知らぬ者が見ればスタイルの良い身体から、なによりその名の通り凛とした雰囲気から大人の女性に見えていた。

 僅か7日にも満たぬ街での暮らしだが、この2人が直接、顔を合わせたことはない。宿で見かけていたということもあるが、それ以上に有名だったため名乗られることなく名を知っていた。

 

 強種族として知られている竜人族、さらには秩序の種族とも呼ばれる"デルタ世界の"竜人族ともなれば、その末端であろうとも尊敬の眼差しを向けられるほどだ。そのうえ、ウミナリと街で接して、ともに魔物を倒した皆が触れ回るものだからより有名になってしまっていた。

 あるものは戦闘の手ほどきを受け、あるものは死にそうなところを魔物から救い出され、あるものは喧嘩の仲裁をされ……僅か数日の間だが、多くの人に感謝を受けている。

 

 対して人族といえば最弱種族。どの世界でも最下層に位置しており、種族で有名になることはない。

 しかしテンペストガーゴイルのような魔物を単独で倒したと噂され、実際に低位とはいえない魔物を斬り伏せる姿を見たものが、"人族にしては"と触れ回ったのだ。

 そこから噂が広がり、あるものは決闘を申し込み地に伏せ、あるものは食料を譲ってもらい命ながらえ、あるものは魔物から救ってもらい……僅か数日だが、少しずつ噂が広がっていった。

 

 噂に差はあるものの、街の掲示板を賑わせた存在という意味では有名な2人である。

 

「兎殿とその主殿は一緒ではないのか?」

 

「あの2人も誘ったのだがな、どうにも動いてくれなかったよ」

 

 凛は残念そうにそう答えた。

 それを聞いたウミナリはあの2人ならば問題ないかと納得しつつも、もう1つ問いかける。

 

「精霊族の少女も、か?」

 

「精霊族?」

 

 凛は精霊族と聞き、聞き覚えのない種族名に口元に手を当て考え始めたが、すぐに口を開く。

 

「……ああ、あの子は部屋にこもっているよ。私の声は届かなかった」

 

 悔しそうに、寂しそうに、それでも笑顔のまま。

 

「今からでも呼べないか?」

 

「私では無理だし、叶いそうな2人が動いてくれなかった。……あの子は、ここで終わるかもしれない」

 

「まあ、精霊族1人で挑むとなればそうなるだろうな」

 

 精霊族の特徴とアダマンタイト・ゴーレムの特性を考えれば、多く者がその結論に行き着くだろう。それほどに相性が悪すぎる。

 

「ここで出会った間柄だ。君が気にすることはない」

 

「そこまで気にしていないさ。私は進みたくないものを無理に進ませようとは思わない。彼女は進まない道を選んだのだから、それを尊重しようと思う」

 

 ウミナリが優しげな声で告げれば、凛はまったく気にしていない雰囲気の声音と、今からでも帰って部屋の前で待っていたいといった表情で応えた。

 その様子を見てウミナリは小さく笑ってしまう。しかし今更、中止にはできない。

 

「話題を変えよう。武器はその"刀"だけか?」

 

「ああ、この刀1本だ。用意する時間も、資金もなかったからな」

 

 ウミナリは知っている。凛は多くの財を困っていた人々の、次に待つ人がいる人々のために使っていたことを。

 救われるものというのは、他でも救われるものだ。それは弱いということでもあるのだからしかたがないとウミナリは考えている。そして、その中の数人が凛の話をしていた。笑顔を咲かせながらも心配しながら。

 ウミナリが声をかけた理由はそこだった。心配されていたから、自らの目で確かめにきたのだ。

 

「しかし刀というものは、金属も斬れるものなのか?」

 

 そう質問したウミナリだが、凛の実力を疑っているわけではない。過去に自らが刀をつかって、爪でも裂ける程度の樹木すら両断できなかったから興味本位で聞いたのだ。

 

「現実世界の刀では無理だったが、情報体を展開したこの刀ならば斬れ"た"。まあ、あなたの爪には敵わないだろうが、足を斬って動きを止めることくらいはできるだろう」

 

 この答えにはウミナリも苦笑いを浮かべるしかなかった。噂とは怖いものだと。

 人の身で、あのような武器1つでアダマンタイト・ゴーレムの足を斬れるのならば並ぶどころか、軽く越してさえいると思っていた。竜人族の爪とはそれだけ強力なものであり、見せてもらった情報体の武器とはそれだけ脆いものだったのだから。

 そのうえ刀ともなれば剣よりも遥かに脆い。情報体という未知の技術で生み出されたものなので差はあるだろうが、剣も槍も特徴自体が大きく変わることはなかったので、刀も同様に現実のものに倣っているのだろうと考えている。

 ゆえに少女の技量が高いのだと結論づけた。

 敵わないのは武器であり、少女の技量は自分を超えているだろうと。

 

「まあ向き不向きはある。多くの外殻は私が壊すので、危険な者や核破壊の準備をしている者達を優先して守ってくれ」

 

「ああ、もとよりそのつもりだ。私は強くないのだから、そこが限界だろうからな」

 

 そう答えた凛を見て、ウミナリは心の中で笑った。

 まったく諦めたようには見えない表情に。限界など越してみせると示すような雰囲気に。

 

「さて、そろそろ士気も最高潮だろう。では開始の合図をするのでな、武運を祈る」

 

「そうか。あなたにも武運があるように」

 

 そう言い合った2人は互いに軽く手を振って、ウミナリだけがその場から立ち去っていった。

 

 

 

「皆のもの、恐れるな! あれらが恐れられた時は遠い過去、現在では研究も進み少数でも撃退できた程度の相手である!」

 

 集団の中央から強く、大地を揺らすような声が広がる。

 

「しかし1人で倒せるなどと慢心すれば地に伏せよう! けっして1人で相手をしようとせず、1人で狙われているものがいれば手を貸し、1人で狙われれば助けを求めよ!」

 

 ウミナリはそこで一旦区切り、蒼い鱗で覆われた尻尾で大地を力強く叩いた。ただそれだけで多くの者が身体を震わせる。それは畏怖か、武者震いか。

 

「背後に街はあれど、あれは仮想の街である! 今回に限っては護ることよりも生き残ることを、全員で祝杯をあげることを優先せよ!」

 

 ついでウミナリは空を覆うような印象すら受ける、それ自体が空であるような青い翼をバサッと広げた。

 

「それでは決戦の火蓋を切る! 私の一太刀をその目に刻み、続け!」

 

 そう言い終えたウミナリは振り返り、人波が割れた道を、その先にいるアダマンタイト・ゴーレムを見据え……消えた。大地に大きな抉れを残し、優しき突風を置き去りにして、遙か先から開始の合図を打ち鳴らす。

 

「続けー!」

 

 唖然としていた者達の耳に、青年のような声が響いた。

 すぐには動けなかった者達が視線を巡らせ、轟音の発生源へと視線を向ければ……そこには砕かれたアダマンタイト・ゴーレムの姿が1つ。既に核は剥き出しになり、詠唱を初めているウミナリが隣に並んでいた。

 

「ぉ……おおー!」

 

 この集団は訓練された組織ではない。ただ1人1人が集まってできた、希望を見る者達の集団である。悪くいえば烏合の衆だ。

 しかし1人1人が現実世界で魔物と戦い生き抜いてきた戦士たちである。こうして士気さえあがれば魔物へと向かい、現実世界と同じように仲間を生き残らせるように動き始めるのだ。

 魔法の詠唱をしながらも、その様子を見ていたウミナリは嬉しそうに笑い、同時に周囲に湧き始めた魔物の気配に緊張を強める。

 予想していなかったわけではない。偉大な先駆者は1人で挑み、情報を与えるように時間をかけて色々と試しながらこの試練を突破していってくれた。そこで得られた情報から、集団で挑めば難なく倒せるのではないかと軽い雰囲気になった瞬間はあったのだ。

 しかし、書き込まれた一言で波が引いたように静けさと緊張感を取り戻してくれた。

 

『ここが魔物の甘さを教える世界だと思いますか?』

 

 魔物と戦ったものがあれば実感しているはずだ。魔物という敵はそんな甘い相手ではないと。

 昨日は勝てたはずの魔物に殺される。よく研究され対策がいくつもある魔物を相手に、油断せず挑み帰ってこない。年が巡った時の約束は果たされない。

 それゆえ魔物を知る者達は緊張感を取り戻していた。しかしそうなると、魔物を知らぬアルファ世界の者達はどうなのか。

 そこに関してウミナリは心配してはいなかった。彼ら彼女らはむしろ、そこまで甘いはずがないと発していたのだから。

 たとえ魔物と戦った経験が少なくとも、これがゲームであるという前提のもとふるい落としであると判断して、ログインしてから知り合った他の世界の者達に、浮かれていた者達に警告してくれていたのだ。

 魔物という危険がない世界故に魔物という未知の恐怖を、より見つめていた。平和な世界だからこそ平和ではない状況に恐れていたのかもしれない。

 

「予定通りだ! 勝つぞ!」

 

 ウミナリは核の1つを破壊し終え、声を張り上げて鼓舞する。鼓舞しなければならなかった。

 予想では1パーティ、5人程度に1体が割り当てられるのだと考えていた。そこにウミナリが半数を受け持てば1体につき10人程で相手をできる。それならば十分に時間稼ぎまではできたはずなのだ。

 しかし、周囲にある魔物気配はウミナリ達の5分の1どころではない。どう考えても半分以上、おそらくは同数が出現していたのだから。

 広範囲探知型の魔法や固有能力を有している数人は気づいているだろうとは思ったが、多くのものは見渡すことでしか数を知れない。すぐにウミナリが半数以上を引きつければ"予定通り"にできる。

 ウミナリは魔法を詠唱し始め、同時に感知した中から残す相手を決めていく。皆の配置を把握し、ちょうど良い人数で相手をできるように相手を動かすのだ。

 

「流星」

 

 竜人族を導いてくれた"人族の"勇者が残したとされる魔法の1つ。竜人族にしか扱えない秘伝の魔法であり、空高くに土塊を召喚し風の導きにより地上の相手に強大な物理衝撃を与える、必殺ともなれる魔法。

 

「予定通り私が複数を引きつける! こちらを気にせず目の前の相手を減らしてくれ!」

 

 そう、すべては予定通り。これ以降、ウミナリの傍には誰も近づかない。周囲すべてが殲滅されたあと、残っていれば手助けにくる手筈となっていた。

 空中に現れた土塊は重力に引かれ、その速度を徐々に増していき、さほど時間をかけずにその身を砕けさせていく。あわよくば外装を砕ければと考えていたが、そう甘くはなかった。しかし外装に傷をつけただけのゴーレム達は予定通りウミナリへと振り向いて、その足を動かしだす。

 道中にいた者達はその身を避け、ゴーレム達へ道を譲る。そうして減った近くのゴーレム達の中から、対応している数の少ないものへと狙いを定めて合流していく。

 予定通りだ。

 あとは予定通り、皆の討伐が終わるまでに数を減らし、本来想定していた数にしておけば何もかもが予定通りに進む。

 

 (私は竜人種。人々を導く強者でありたいのだ)

 

 想いを思い、気を引き締めたウミナリは自らに殺到するアダマンタイト・ゴーレムの群れへと集中する。


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