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ノロイ 1/x

 見上げれば仮想の月が微笑んでいて。

 途中、庭を使って凛と護の試合を挟んだりしながらも、基本的には部屋で喋って遊んで、夜まで続いた祝勝会は終わりを迎えました。

 ユウの『一緒の部屋に泊まっていけばいいよ?』という誘いを動揺しながら断った護と、『それは楽しそうだ』と言ったながもんは既に館を後にしています。

 凛と翠と葵とサリアは、子供ながらに2次会という名の女子会へと移行しました。

 

 だから目の前に座るのは四葉だけ。

 その隣に座るのはイロハだけ。

 

 3人で芝生の庭の真っ只中に座り、少し離れたベンチでは楓とユウが見守ってくれています。

 

「お待たせしました。それでは、話しましょうか」

 

 何も隠すものが無い中、芝生にぺたんと座るのも悪くないものです。

 

「うん」

 

 四葉はそう言い頷きながらも、続きを口にはしません。あまり表情には出ていませんが、なんというか戸惑っている感じがします。

 それがどうにも嬉しくて、つい困っている顔を眺めていてしまえば少しだけ頬を赤く染められて。それがもっともっと嬉しくて。

 

「あの……あなたは、私と会ったことがある?」

 

 嬉しい時間に割って入ったのは、ようやく絞り出された四葉の一言でした。

 

「私はこの世界で召喚された存在。そしてあなたを見たのは、この街に来てからです」

 

「日本で……アルファ世界の日本に、居たことは無い?」

 

 答えを逸らそうとすれば、逃げ道が1つ塞がれてしまいます。

 適当なことを答えてしまえば済む話ですが、それをイロハも認めてくれるでしょうが、それでもこの真っ直ぐな瞳に嘘はつきたくありません。

 

「日本"は"知っています」

 

 だから笑顔で答えました。間違いのない真実を。

 その先に待っているだろう言葉に覚悟と、期待をして。

 

「……私は、いえ……ううん」

 

 四葉は何かを言いかけて口を閉じ、そして首を振って再び口を開きます。

 

「私は、あなたに酷いことをした?」

 

 もとより静かな庭から音が消えて。僅かな動く音すらも消えて。誰もが動きを止めてしまって。

 四葉の言葉をきっかけに、まるで怖がる小さな少年だけを残して世界が時が止まったように。

 

「……ごめんなさい、わす――」

 

 唯一動くことにできた1人が、その"問い"を無かったことにしようとした時、私は身体を動かしました。言うことを聞いてくれない身体を、魔法によって無理やりに。

 

「え……?」

 

 戸惑う四葉に、抱きしめた中にいる少年に向かって問いかけます。

 

「私は今、泣いていましたか?」

 

 四葉の問いに"否"の結論を出すために。

 期待していない答えは返ってこず、そのまま続けます。

 

「違います、笑っていました。直前まで、あなたにはそれを見せつけたはずです」

 

「そうだよ、イナバは笑っていた。今が幸せだと言ってくれた。その虹のような結果に、雲をかぶせないで」

 

 私の言葉に続けるように、すぐ隣からそんな言葉が聞こえてきました。

 どれだけの騒音があったとしても響き渡るような静かな声で。少しだけ怒りが混じっているように感じられた声で。

 

「……ごめんなさい。ただ、どうしても確かめたかった」

 

 四葉のすっきりしたような声を聞いて、身体を解放します。

 

「聞いてもいいですか?」

 

「……夢に見たの。あなたとそっくりな黒い髪と黒い瞳をした女性が、とても悲しそうに過ごしていたところを」

 

 そこで区切られた言葉に待てば、続きはすぐに語られ始めます。

 

「皆に慕われ、笑顔を向けられ、誰かがたまに感情のままに怒鳴っても、すぐに笑顔に浮かべるように戻って。こちらから見たあなたも希望が見えていた。誰も彼もがあなたに希望を見ていたような気がした」

 

 そこで四葉はこちらから視線を逸し、月を見上げました。

 きっとそこに意味など無かったのでしょう。

 

「でも私には、あなただけに希望が見えていないような気がした。いえ。ずっとずっと何かを探し求めるように、しだいに希望が減っていっていたような気がした」

 

「……それで、なぜあなたが酷いことをしたと?」

 

 心臓を握るような闇を感じて、身体を震わせてしまいながらも問い返します。

 

「今の笑顔のほうが、とっても幸せそうだったから」

 

 目の前に浮かぶ嬉しそうな笑顔が、心から嬉しそうだと思ってしまって。

 夢で見た相手など、自分の空想や妄想の存在でしかないというのに。普通はそうであるというのに。

 

「……もう1つだけ、聞かせて下さい」

 

 この子はなぜ、ここまで嬉しそうにできるのか。

 

「なに?」

 

「他に"誰が"いましたか?」

 

 自分の口から出た、間違いなく誰かがいたという声が、視点の主を想像させてしまって。

 

「長門さんと、仁淀さん」

 

 四葉の答えに、私ではなくイロハが身体をピクリと揺らしました。そして苦々しそうな、悔しそうな表情を浮かべて、四葉に問いかけます。

 

「ならば、なぜイナバだけにこれを聞いたのですか? 長門でも、仁淀でもなく。イナバだけに」

 

「その2人は希望を見ていた。こちらと同じように」

 

 振り向いた四葉は間を置かず答えます。

 だからでしょうか、確信したのでしょうか。イロハはこちらに視線を、その後悔の塊のような視線を向けてきて口を開きました。

 

「ゆ「そろそろ終わりにしよう」

 

 しかし、たった1音だけしか奏でることは許されません。すべてを上書きするようなユウの声が通り過ぎれば、イロハは続きを口にしませんでした。

 代わりにニッコリと笑ったユウが続けます。

 

「四葉の用件"も"解決できたのだから、今日のところは終わっておこう? 一度ですべてを解決しようとすれば、なにかを見落としてしまうから」

 

「……ええ、そうですね」

 

 普段通りの冷静さを取り戻した様子のイロハが頷けば、この話は終わりです。私が続けたいと思っても、終わりなのです。

 

「待って、私の用件は終わっていない」

 

「なにかな?」

 

 手を伸ばし呼び止めた四葉を、ユウの"平坦な"声が貫きます。

 背筋が凍るようなその声は、楓と四葉に危険が迫った時しか聞いたことがない珍しいもの。それが四葉に向けられた意味が理解できません。

 それでも四葉の言葉は続きます。

 

「あなたは見つけられた?」

 

「ええ、見つけられました」

 

 迷うことなく、間をおくことなく、それが間違いでないと示すように。

 きっと笑顔で応えられました。

 

 だから、私を見たままで動きを止めてしまった3人が不思議でなりません。

 そもそもなぜ、四葉はこのような質問を……――

 

「っ!?」

 

 急いで、焦って、もう1度、四葉を抱きしめます。強く、強く。

 そして常にユウとその周りの情報へ注いでいた意識もすべてを集中して、四葉の核情報を探ります。

 

「え、イナバ、どうしたの?」

 

 四葉の声が耳を通り過ぎていきます。

 楓が駆け寄ってきたのが気配でわかりましたが、そちらに向けられる意識の余りはありません。


切りが悪いので明日も投稿します。

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