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四葉 2/2

「お招きいただき、ありがとう……でいいのかな?」

 

 ふく引きで当てた館あらため、領土館の1階。玄関扉から現れたのは2人の人物。"私が"招待した、決勝で戦った召喚者側の2人です。

 出迎えたのは招待した私と、領土の総代である楓の2人。他の皆は祝勝会あらため親睦会を行う予定の大広間で待機しています。

 

「ご足労頂きありがとうございます。今回、総代に就任した楓です」

 

 そこで楓が綺麗にお辞儀をします。

 

「……まあ、そうなるか」

 

 そう呟いた男性はややだらけていた表情を引き締め、口を開きます。

 

「日本国領土から遣わされた自衛隊特務部隊の秋津島・護です。今回は領土の獲得および新総代の就任、おめでとうございます」

 

 今までのだらけぶりはどこへやら、護は公でも通用しそうな一連の動作でお辞儀までを終えました。

 領土に参加している者は大会に参加できなかったはずなので、あのあとで所属したということでしょう。そうでなければ、いくらログイン前に重要な肩書を背負っていたとしても、こちらで名乗る必要はないのですから。

 

「それでは固い挨拶は終わりにして、すべての地位を置いてお入りください。パーティ会場はそういう場所ではありませんので」

 

 楓はそう言い、ニコっと笑いました。

 今この場においては領土に関係する"公式の"話は無しで、と。それができないなら帰れと。

 

「ああ、そうしよう。正直なところ、話し合いは俺の分野ではないからな」

 

 護はややだらけた顔に戻り、軽そうな雰囲気でそう言いました。

 まあ本当に話し合いをしたいのなら、にぃが出てきますよね。その場合はお帰り願いますけど。

 

「私も名乗ったほうがいい?」

 

「中に入ってからお願いします。皆、待っていますので」

 

 首を傾げて問いかけてきた少年にそう答え、その手を引いて会場へと向かいます。そうすればあとから2人が着いてきてくれ、無事に参加者全員が会場へのドアをくぐりました。

 

「おっと、靴は脱ぐのか」

 

 ドアを潜ってすぐ、1段高くなっている床を跨ぐ際に靴を脱いで先に進みます。

 その際に護の視線が靴に向いていたのを見て、やはり訓練を受けているのだなと思いました。靴1つからどこまでの情報が得られるのか、あるいはそこに騙されるのか。

 嘘です、どうせ『やっぱり女の子ばっかりだよな、はぁ……』とか考えているのでしょう。容姿だけ見れば、女の子達の中におっさん1人ですからね。

 

 そんなことを考えながらも内玄関を過ぎ、さらに1つの襖を開ければ、皆が待っている場へと辿り着きました。

 

「……楓?」

 

 どういうことですか、と翠が視線で問いかけています。

 他の皆も驚きからか動きを止め、こちらを向いています。ただ1人を除いて。

 

「今日、呼ぶって言ってたと思ったけど?」

 

 楓が楽しそうにクスクスと笑い答えます。

 楽しいですね、パジャマパーティーに乱入するおっさんの図は。

 

「……出直したほうがいいかな?」

 

 護が非常に困った笑顔を浮かべて問いかけます。

 今の時刻は決勝の翌日の朝10時であり、来る側からすれば準備は万端だと思っていても不思議ではないでしょう。そもそも私がその時刻を指定しましたし、楓にも伝えました。これはこちらのミスなのですが……まあミスではないのでしょう。

 というか、直前までパジャマを着て参加していたので知っていましたから。

 

「私はかまわないが……」

 

 と凛が周囲を見渡す先には少しだけ顔を赤くした翠と葵が。さらにサリアは不思議そうに首を傾げていますし、ユウは"外着"でジュースを飲んでいます。

 

「イナバ、いつ着替えたのですか?」

 

「いつもなにも、私は瞬時に着替えができるのですよ?」

 

 翠から恨めしそうな視線を受けましたが、私を基準に考えてはいけないでしょう。いざとなれば兎形態でやり過ごせるのですから。

 

「楓、あとで少しだけ話しをしよう?」

 

「ほら、皆の可愛い姿を見てもらいたかったから、ね?」

 

 楓はそう言ってウィンクをしましたが、飛んでいったハートは撃ち落とされたようで、葵の恨めしそうな視線は治りません。

 まあ無防備な、普通の女の子を見せることで警戒を解くという効果はあるでしょう。

 この領土は脅威となり得ませんよ、と。

 そこまで考えていたのかは知りませんが、無いとは言い切れないのが楓ですから。

 

「すまない、外で待っておこう」

 

 そう言い護が出ていこうとすれば

 

「いや、客人が気を使う必要はない。そもそもこちら側のミスだ、ここで料理でも食べながら待っていてくれ」

 

 凛がそう言い立ち上がります。

 というか凛は気づいていたはずですよね。少なくとも知らない気配が向かってきていたのは気づいていたようですし、凛も楓の計画を聞いていたのでしょうか。

 

「ごめんね、皆。ちょっとした茶目っ気で手違いが起こったみたいだから、さっと着替えてきて」

 

 楓は顔の前で手を合わせ、えへっと言わんばかりの雰囲気でそう言いました。

 

「……まあ、大会のあとです。これくらいの茶目っ気は許しましょう」

 

「どうしてユウくんはパジャマじゃなかったの?」

 

 翠が「しかたありませんね」と続けたところにかぶり、葵がそう言ってユウへと顔を向けました。

 

「僕はパジャマを買ってないからね」

 

 自分では、と続くのでしょう。楓が買っていたのは見てますから。

 

「まあ黙っていたのは悪かったと思っています。お詫びに腕を振るいますから、諦めて着替えてきてください」

 

「イナバは悪くありませんが……まあ、楽しみにしています」

 

「タルトを期待してる」

 

 そう言い残した2人は、先に出ていった凛を追って部屋から出ていきました。

 

「心臓に悪いぜ、まったく……」

 

 護がホッと一息ついた様子を見せます。

 慣れているようにも見えましたが、あれは対応はできるという意味の慣れでしょうね。見慣れては……いないはずです。

 

「護さん、お久しぶり」

 

「女性陣の中にすっと紛れ込んでた君に驚いたよ。違和感がなかったぞ、まったく」

 

 ユウが気軽そうに手を振って挨拶をすれば、護が慣れた様子で手を振り返し答えます。まさか面識が思いませんでした。

 

「あれ、知り合いだったの?」

 

「おかあさまのところに来ることがあるから」

 

「ああ、特務部隊」

 

 楓の問いかけにユウが答えれば、楓は納得といった様子を見せました。

 ……やはり、聞いておくべきでしょうか。

 ……いえ、やはりユウが語ってくれるまで待っておきたいです。それか、それを知る場面になるまでは。

 

「なになに、2人のお母さんって軍の特務部隊? の人が会いに来るような人なの?」

 

「軍じゃないけどね」「どういうことだ?」

 

 楓がサリアに答えると同時に、護が問いかけてきます。

 

「護さん」

 

 そこへユウが釘を差すように名前を呼べば

 

「ああ、すまない。教えられていないということは、必要のないことだったな。忘れてくれ」

 

 すぐに理解したのか、護がミスをしたという雰囲気で頭をかきながら謝りました。

 もう、ほぼ答えですね。まあ私が知りたいのはどうしてそうなったか、なぜ継続されているか、なので護に探りを入れる意味は無いでしょう。

 

「護、ユウと楓は姉弟です。それだけ知っておけば十分ですね?」

 

「ああ、助かる。ところで名前を……っと、自己紹介はこのあとか」

 

「いえ、私は調理に向かうので今、しておきましょう」

 

 そこで区切って護に向き直ってから続きを口にします。

 

「ユウが召喚した従魔、イナバです。知っての通り、ある程度の知識は有していますが、あまり教えはしません。それはユウや楓であっても同様です」

 

「やっぱり一緒なのか。人型を好む従魔は皆、そう言うらしいな」

 

「私は兎型ですよ。人型は会話と食事のためのものです」

 

 そう言い兎の姿へと再展開します。

 

「うさみみはそれでか。最初は獣人族の姫かと思ったぞ」

 

「他世界まで混ぜたお世辞とは、誰が考えました?」

 

「あはは、俺だよ」

 

 護は笑顔を浮かべ、こやつめ、といった雰囲気でそう言いました。何か探りがあるかと思いましたが、既に承知済みということでしょうかね。

 

「さて、予定が変わりましたので、先に私に紹介してもらえますか?」

 

 無表情でこちらの様子を見守っていた四葉へと、声をかけます。

 

「私は天城・四葉。えっと……あなたが気になります?」

 

「改めて、イナバです。あなたが作った情報体は可能性を感じる、見事なものでした。昨日、誘いを受けた話は落ち着いてから……そうでうすね、このパーティが終わった後にでも中庭で話しましょうか。ユウと楓も同席しますが、かまいませんか?」

 

「ありがとう。同席はかまわない」

 

 そう答えた四葉の変わらない表情の中にちょっとだけ安堵が見えて、それでも少し不安になってしまいます。

 

「それでは料理を作ってきますが、食べられないものはありますか?」

 

「俺はピーマンが嫌いだな」

 

「私は特に無い」

 

「わかりました」

 

 それだけを言い残して部屋を出ていきます。

 とりあえずタルトとハンバーグと……ああ、ピーマンは入れておきましょう。嫌いなだけで食べられるでしょうから。

 と、そこまで考えて忘れていたことに気づき、楓に専用通信を繋ぎます。

 

『楓。言い忘れていましたが、従魔の召喚を許可しておいてください』

 

『え、なんで?』

 

『精霊召喚は戦闘用の魔法ともみなされています』

 

『それが……ああ、わかったわ。今の従魔魔法は精霊召喚と似た扱いなのね。うん、許可をしておく。ありがとう、イナバ』

 

 いくら領土のいざこざを持ち込まないとはいっても、なんでもしていいわけではありませんからね。

 ほぼアルファ世界だけの交流といってもサリアがいます。そうでなくとも、アルファ世界同士てであっても表面上のやり取りを終えておくほうが、あとあと面倒にならなくていいでしょう。

 少なくとも、今は。


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