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再び出会って――

「それじゃあ、今日は自由行動ね! とりあえず攻撃が通れば、そこから何か考えましょう」

 

 決勝戦を間近に控えた控室、転送魔法陣の上。オーと手を挙げる楓が作戦を告げれば、囲む皆は頷きます。

 結局はバリアを突破する方法が思い浮かばなかったので、その場で考えるとかいう案になりました。それでも私の役割は1人減らすこと、ですけど。

 

「皆、頑張ってね!」

 

「祝勝会の準備はできてるからね」

 

 両腕を胸の前に持ってくるグッのポーズで応援してくれたサリアと、普段通りの笑顔で勝ちを望むユウと。2人とも、とても余裕そうです。

 

「ああ、頑張るよ」

 

「残念会にならないように、ですね」

 

「頑張る」

 

 一見、余裕そうな凛と、冷静そうに見えて緊張しているのが見て取れる翠と、サリアのポーズとよく似たポーズをとった葵と。この差が、きっと楓達と葵の線引なのでしょう。

 仲が良いのは間違いありませんし、皆がそれぞれを気に入っているのもわかります。それでも何かが足りないのでしょうね。

 

『10秒後に転送します』

 

 さあ、私は勝てるでしょうか。

 

 

 

 暗転した視界に光が映れば、そこは既に戦場です。

 基本構成として森が大部分を占めるフィールドではありますが、今回は両者を分け隔てるように、中央に大きめの川が存在しています。

 とはいえ、空を飛べる能力があれば軽く飛び越せ、身体能力が高くても跳び越せ、魔法で凍りつかせても渡ることができ、流れも遅いのでなんなら潜ってもいいという程度の川です。

 それでも橋が数カ所に架けられていて、まるで本当に存在する場所のようにも思えます。

 

「相手の感知能力は未知数だけど、こっちよりも広いのは確か。最初から突っ込んじゃいましょう!」

 

 ややハイテンションの楓がそう告げるや、駆け出していきます。それに続くのは凛であり、翠と葵はやや遅めに追いかけるようです。

 風魔法を使っている楓や、もともと早く動ける凛に追いつけないというのもあるでしょうけど、なにより相手の動きを見るのがこの2人の役割。そこから動きを読んで強烈な一撃を加える翠と、相手を牽制したりと妨害する葵と。今回は参加していないサリアは、どちらかといえば葵の役割に近かったようです。

 

「さて」

 

 こうしてはいられません。最初に接敵するのは私でなくてはいけないのですから。

 身体強化、風魔法、重力魔法を利用し、使い分け、木々を足場に楓達が進んでいる方向とは少しだけ違う方向へと進み始めます。

 今回は相手にながもんがいるので、あまり隠しすぎることはしません。異常ではない程度に、天才で収まる程度にすべてを利用します。

 この身体強化は少しまずい気がしますが……まあ、ながもんが使ってるので良しとしましょう。

 

 翠と葵を横目に通り過ぎ、少し経てば川が見え、楓が使っていたのと同じ幻影魔法を使いつつ一飛に川を飛び越えれば既に相手の領域。空を隠す木々を超えた遥か上空に小さな航空機が3、4、5と飛んでいて、それが索敵のためのものだと、これから楓達を見つけるものだろうと予想できます。

 ここで撃ち落としてもいいのですが、それでは幻影魔法を使っている意味がありません。どの系統のレーダーであっても不自然とは思えなくしているので、相手が相当に慣れでもしていない限りはばれないでしょう。

 それならばと、足を進めます。草木を揺らすことなく木の側面だけを蹴っていき、相手に気取られないように真っ直ぐに。

 

 相手が楓達を見つけた頃、私は肉眼で相手を捉えていました。そこは初期位置から少しだけ進んだ場所であり、数は4人。

 1人は短めの黒髪を風に揺らし、黒い瞳で楓達がいる方向を見つめている、少し大柄で引き締まった身体をしている女性。

 1人は腰下まである長い黒髪と、同様に黒い瞳を持つスタイルの良い大人の女性。後ろにいる人物を護るように楓達とその子との間に立ち、周囲を警戒しています。

 

 1人は短めの黒髪と、意志の強そうな黒い瞳をもつ男性で、その身体はアルファ世界の平和な国で暮らしているとは思えないほどに鍛えてあり、それが護る側の人間であると伝えてくるようです。まあ現在の日本の平均は知りませんが、翠や葵、あるいはすぐ傍にいる人物を見る限り、私の予想が大きく離れてはいないでしょう。

 そして最後の1人、他の3人と同様に黒髪黒目であり、まるで周囲を見ていないような様子の人物。肩に届きそうな長さの黒い髪、汚れを知らないような澄んだ黒い瞳を持つ、少女よりの中性的な容姿をした少年。こちらはまあ、日本の平均的な男子高校生から外れてはいない鍛え方……というか、おそらく学校の運動以外では鍛えていないであろう柔らかそうな身体をしています。

 

 その4人を視界に収め、僅かな時間だけ足を止めました。

 誰がリーダーなのか、と少し気になってしまったのです。しかし、それは楓が気にすることであって私が気にすることではありません。

 すべての強化を解き、普通のホワイトラビットと変わらぬ能力をした兎となり、草を揺らす音を奏でながら、4人の視界へと入っていきます。

 私は悪い兎ですよ、と。

 

「……魔物は出ないんじゃなかったのか?」

 

「ここは私が行きますので、他の対処をお願いします」

 

「……任せた」

 

 すぐに動き出したのは長い黒髪の女性。少年の従魔。

 その手にライフル形状の情報体を展開して、こちらへと向けてきます。おお怖いと背を見せれば容赦なく赤い弾丸が飛んできて、それを避けながらぴょこぴょこ逃げだします。

 おいでなさい、と。

 こちらの思惑を理解していてか、していないのか、その女性は躊躇することなく仲間のもとを離れてこちらについてきます。

 

「ここまで離れれば十分なのでは?」

 

 少し離れたところでピタッと立ち止まって、問いかけてきた女性。

 とりあえず遮音魔法の展開と情報遮断の情報体を起動させてから、答えるために口を開きます。

 

「わるいうさぎじゃないぴょん?」

 

「……イナバ、疲れているのですか?」

 

 ちょこんと首を傾げて震えてみれば、苦笑いを浮かべた女性が心配そうな声で聞いてきました。

 

「大丈夫、今は幸せですよ。それよりもイロハ、四葉の記憶はどうでしたか?」

 

「調べていても聞くのですね。まあお察しの通り、あなたの召喚主と同じくあちらの記憶はありませんでした」

 

 イロハは前半を嬉しそうに、後半にいくほど悲しそうに告げました。

 きっと四葉の前では見せられなかった表情なのでしょう。あちらを覚えていないことを悲しむなど、今のまっさらな状況を悲しく思うなど、イロハにはできないのですから。

 

「ところでイナバ、あなたも私と同じように思い出していると考えてもいいのですか?」

 

「魔物が出現していた日本、のことで間違っていないのならば」

 

「ええ。あと1つ、ここはあの世界ではない異世界と考えても良いのかしら?」

 

 真剣に見つめてくる瞳は、きっと結論を出したあとなのでしょう。

 

「その認識で間違っていませんよ。アルファ世界の日本に関しては四葉から聞いているでしょうから、そちらを信じてください」

 

 私の解答に頷き、何かを考える様子を見せ始めたイロハですが、追撃を浴びせます。

 

「さてイロハ、少しだけ話したいことがあります」

 

「ええ、そのために誘導にのったのですから」

 

 そうは言いながらも頭の中では考えを進めているのでしょう。とてもイロハらしい。

 

「知っての通り、四葉には感情があり、ご両親も存命です。あなたが背負うことなど、なに1つありません」

 

 そんなイロハでも、この言葉を聞いた瞬間、目が覚めたようにこちらに視線を向けてきました。

 

「ですので、自由に生きて良いのです」

 

「……どういう意味ですか? 私は変わらず四葉の傍で、あの子を守りますよ?」

 

 イロハの訝しげな視線が私を貫きます。決意の硬い声が耳に届きます。

 

「別にどう捉えてもらってもかまいません。ただ、あなたに守れるのですか? あそこで死を選んだ、あなたに」

 

「私達は負けたのですから、しかたのない結果です」

 

 イロハは納得したような言葉を吐きながらも、両手は強く握りしめられ僅かに震えています。

 

「負けたのはあなたでしょう? 四葉も楓も勝っています」

 

「あれのどこが……!」

 

 僅かに怒気を含んだ返し言葉に、ほほえみが崩れた表情に、納得できないという雰囲気が伝わってくるようです。

 納得するようなら、ここで終わらせていたかもしれません。

 

「そして、おそらくはイチハも」

 

「ッ!」

 

 イロハは苦い表情を浮かべ、それでも反論もせず、ただただ言葉を受けるだけ。

 私は煽っているのでしょうか。

 

「まあ、現状ではあなたを縛るものはなにもありません。それだけ言いたかったのです」

 

 口から出た言葉が嘘で塗れていると、よくわかってしまいます。もっともっと言いたいことはあるのです。それでも召喚されたばかりの、あそこで終わってしまった彼女には聞かせる必要のない話です。

 

「そうですか」

 

 そう呟いたイロハは、一転して冷静そうな雰囲気を纏います。

 

「ええ、四葉が縛られる領土も得られませんからね」

 

 なんだかムカついてきたので、楓が突破できなかったとしても私がなんとかするかもしれません。

 その場合は『長門』を突破しなければいけませんが、あの子がリーダーであるはずがない。残りが1人ずつになれば、間違いなく私が勝てます。

 

「……私があなたに負けるとでも?」

 

「相変わらず最強でいるつもりですか。しかし言いましたよ、あなたを縛るものは何もないと。先程から動きを見ていましたが、話になりません。そもそも」

 

 そこで言葉を区切ります。

 一瞬ですが迷ってしまったのです、言うべきかどうか。

 それでも口は止まりません。今回は四葉とイロハが幸せに暮らせるように縛るものは減らしたい。少なくとも、記憶からは解き放っておきたい。

 

「私はあの出来事の時点で、あなたに勝てるだけの実力がありました。勝つ意味がなかったから勝っていなかっただけです」

 

 勝つ意味があればしていたのかと問われれば、意味の度合いしだいだったと思います。相当の意味を突きつけられなければ、あの子に願ったそれを捨ててまで勝とうとは思いません。

 そうでしょう、それは私にとって負けなのですから。

 

「……それでは、今は余裕だと?」

 

「四葉を守れるか心配になる程度には。おそらく今のあなたよりも、楓のほうが強いのではないでしょうか」

 

「世界が違いますものね。能力が変わっていても不思議ではありません」

 

 世界が同じであっても、きっと楓のほうが強かったでしょう。

 あれを見て、まだ強がりを吐けるとは思いませんでした。

 

「たしかに魔法や人類以外の種族も加わっていますが、情報体は同じままですよ?」

 

「これが……同じ情報体ですか?」

 

 そういったイロハの表情には隠しきれない驚きが出ています。

 

「扱っていないのですか?」

 

「加工はマスターの、四葉の領分なので」

 

 そうやって今回も逃げて、四葉に押し付ける。

 "あなたは役に立っている"と過剰に押し付ける。

 

「私はあの出来事以前でも、加工ができていました」

 

「……」

 

 知っていたはずなのにしなかった愚か者が。四葉の領分を、役割を可能な限り奪いたくないと願った愚か者が。

 もし四葉よりもうまくなってしまったら、などという要らぬ恐怖が、あなたの可能性を潰してしまう。だから基礎スペックで遥かに上回るイロハが、最低スペックの私に勝てない。

 なにより、それこそが四葉を最も救えたかもしれないというのに。最も深く繋がっていたあなたこそが、最も近かったはずなのに。

 

「おっと、あちらも感動の再開が終わったようですね。積もる話は後にして、とりあえず終わらせましょうか」

 

 千里眼で楓と四葉が出会ったのを、互いを見て固まったのを確認しました。既に目的は果たせたので、長引かせる意味はありません。

 なにより邪魔をさせるわけにはいきません。

 

「そう簡単にやられるとでも?」

 

 イロハは表情に余裕を浮かべ、そう告げてきました。だからこそ、余裕がないとわかってしまう。

 

「今の四葉がそこまで強くないと、なぜ気づけなかったのですかね」

 

 決勝まで残れた慢心か、あるいは"そうあって欲しいという願い"からか。

 凛の刀など必要ありませんでした。楓が展開したナイフが、四葉のシールドを容易く貫通したのですから。

 

「ッ!?」

 

 気づいたイロハはすぐさま身を翻しましたが、人型に再展開しつつ身体強化も行って、そこへ踏み込みます。

 拳を振り抜けば"パリン"という音が3つ立て続けに聞こえ、そのまま消え去ったイロハがいた位置を通過しました。

 

「たかだか4枚の壁程度、あの時点で破れていたというのに……まだ不沈などという夢を見ていたのでしょうか」

 

 あの程度の障壁を破るのに魔法も、情報体も必要ありません。

 そもそも潤沢な情報体という差がなければ、四葉であってもあそこまでは辿り着けなかったでしょう。翠と同じで。

 

「素手で破ってやるか。相変わらず優しいことだな」

 

 空に昇る粒子が完全に消えた頃、木の陰から1人の女性が姿を表しました。

 その人物はあちらにいたはずの、短めの黒髪と引き締まった身体を持つ女性。イロハとは違い、この場にあっても本当の余裕を持っていた人物。

 

「別に、嫌がらせですよ」

 

「そうかそうか。まあそれはどちらでもいい。君の思惑がどうであれ、良い経験にはなっただろうからな」

 

 うんうんと頷く様子と、その雰囲気はどことなく凛に似ている気がします。

 

「ところでながもん、少し大人げないのでは?」

 

「私が人型になるための研究材料だ。結果として叶ったのだから、他の使い道は好きにすればいい」

 

 人型まで四葉の制作だったとは少し驚きです。にぃあたりが提供しているかと思ってたのですが、大外れです。

 

「ところでイナバ。一応は聞いておくが、記憶はあるな?」

 

「あります。ながもんもにぃもイロハも、再契約された子は皆が記憶を引き継いでいますね」

 

「忘れれば良かったのに、か?」

 

 腕を組んで、片目を閉じて。まるで、もしかしたらあり得るかもといった様子のながもんが問いかけてきました。

 

「必ずしも同じマスターと契約できるとは限らないでしょう。探す動機さえ失ってしまうのは、少し悲しいです」

 

 忘れていたほうが幸せだった可能性はもちろんあります。それでも夢の続きを見られたほうが、きっと幸せです。

 私もユウ以外に召喚されようとは思えませんし、もしあったとしても泣き悲しむ楓でしょう。

 

「そうか」

 

 私の回答が満足いくものだったのか、ながもんは嬉しそうに笑顔を浮かべました。

 おそらく別のマスターに召喚される子達もいるでしょう。それを望む子もいるでしょう。それでも続けるか選ぶことができるというのは、幸せなことです。

 

「まあ、そのへんの話はにぃを交えてすればいいか。それよりも、だ」

 

 そう言ったながもんは組んでいた腕を解きます。

 

「少し遊ばないか? マスターとともに歩みたいとはいえ、少し退屈でな。大切な時に腕が鈍っていては話にならない」

 

「一昨日にイカを獲っていたでしょうが。その身体と情報体でそこまで戦えるのなら、十分なのではないですか?」

 

 それにしても、ながもんと話していたらなんだか落ち着いてきました。やはり1人で単独行動するとろくなことをしませんね、私は。

 やはり楓に関係なく、四葉とイロハを気に入っていたのかもしれません。

 

「あれはスルメにしてもらった。うまかったぞ」

 

 うんうん、と頷くながもんは満足していそうに思えるので、戦闘は必要ないでしょう。

 それにしても、つい勢いで再展開してしまいましたが……兎形態に戻ってもいいですかね。もう可愛く無害な兎として、こちら側が私以外全滅するまでは観戦しておきたいです。

 

「するめ、持ってきてませんか? 飲み物は出すので、それを食べながら一緒に観戦するというのはどうですか?」

 

「随分と魅力的な提案だが、マスター1人を戦わせておくというのもな。訓練ならそれもいいが、今は領土を賭けた試合中。全力は出さないにしても、戦うそぶりくらいは必要だろう」

 

 幻影魔法を展開していますから、外から見れば戦っているように見えるのですが……まあ騙せない方々も見てますよね。

 

「そぶりとか言って、つい熱くなってそれなりの力を出すのでしょう?」

 

「否定はしない」

 

 面倒な。話を逸しますか。

 

「それにしても、あなたのマスターは中々に強いですね。やはり自衛隊ですか?」

 

「うむ。最近の自衛隊は強いらしくてな、ウルフ5体程度なら情報体により展開したナイフ1本で倒してみせた。無傷で、だ」

 

 ながもんは、それはもう嬉しそうに語ります。

 そこに成長と才能の兆しを見て、いつか背中を預ける日を夢見て、ということでしょうか。

 今も凛と楓を相手に、葵の援護射撃を避けながら反撃まで行えています。その姿を見てみれば、ながもんが期待してしまうのも納得というものです。

 

「魔法は教えていないのですか?」

 

「そもそも私が苦手だからな。自己強化系統だけ教えて放置している」

 

 まあながもんは戦闘において自己強化系統以外の魔法は必要ありませんでしたからね。それでも一通りはできるはずですが、まあ詰め込みすぎても良くはない。楓のように教えただけ吸い込めるのは稀なのですから。

 

「ところでイナバ」

 

 ながもんが、こちらが本題とでも言わんばかりの真剣な視線を向けてきます。

 

「楓に、自衛隊に入るようには言いませんよ。あの子はお嫁さん向きです」

 

「む、そうか。なんでもできそうな逸材なのだが……残念だ」

 

 そう言ったながもんは目を伏せて少しだけ溜め息をつきました。

 日本に行けないのは理解しているはずなのに、それでも彼の地を、そこで暮らす民を想ってしまって。より長く、より良く、世界最高の国であれ。

 護る場所も護る者達も変わってしまったというのに、あなたは変わりませんね。

 

「ところでながもん、どちらが勝つと思いますか?」

 

「まあマスターが負けるだろうな。凛か楓ちゃん1人ならまだしも、2人を混じえた1対4ではまず無理だろう」

 

「おや、楓のことを覚えていましたか」

 

 数度しか会っていない、それもイベントに参加していた一般市民としてしか会っていないはずなのですが。

 

「優旗くんのことも覚えている。私が1度、抱きしめた国民を忘れるはずがないだろう」

 

 ながもんはそう言って自慢げに頷いていますが、私はそれどころではありません。

 

「……それは誰かに言いましたか?」

 

「にぃと話した時だけだな。それ以外では知っているはずのない知識なので漏らしてはいない」

 

 やはりにぃも知っていましたか。

 しかし漏らすつもりがないというのなら心配はいらないでしょう。この2人なら十分に信頼できますし、余計な知識を与えないように放置しておきますか。

 あちらも私のマスターに余計な手出しをすれば、日本に害が及ぶ可能性があると理解しているでしょうから。

 

「それに名字や名が変わっていることは予想できているからな、名乗ってもらうことにしている」

 

「私も同意見です。いずれ召喚されるであろう記憶を引き継いだ機巧少女達も状況から判断して情報収集を行うでしょうから、そこでにぃやあなたが教える手はずですか?」

 

「その通りだ。にぃや私はそれなりに顔が知られていたからな、適役だろう」

 

 そして親切にして、相手から願う形で日本に取り込むと。

 まあ私もユウや楓が暮らす日本は安全であってほしいですし、なによりにぃとながもんが日本安寧を望むのなら、それは叶ってほしいですから。

 

「おっと、そろそろ終わりか。領土は残念だが、まあマスターが良い経験を積めたのだ。良しとしよう」

 

 凛の刀が障壁を2枚斬り裂き、翠の槌が残る1枚を破壊し、楓の魔法が男性を氷の棺に閉じ込めました。

 そこで次ぐ2の太刀が氷ごと男性を斬り裂きます。障壁の再展開など許すことなく。

 

「試合が終わったらすぐ、四葉達に会いに行きます。楓達を連れて」

 

「そうか。反応が楽しみだな」

 

 消え行く中、ながもんは笑顔を浮かべて言葉を返してくれました。

 それからすぐ、試合終了の合図が響き渡ります。そう、それは楓達の優勝を告げる合図でもあります。

 ……きっと私は勝てたのでしょう。


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