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ずっこいのはよくないですから 1/2

「……」

 

 呆れたような表情で館を見上げる楓を眺める私とユウ。

 そして、こちらを向いた楓の説明を求めるような視線に口を開きます。

 

「くじ引きで運良く当たりました」

 

「最終日、ね」

 

 納得した様子の楓ですが、もしかして噂になっていたのでしょうか。

 

「遊びでさ、誰が1番、良い景品を当てられるか勝負してたの。そしたら目の前で特等が消えて……まあ盛り上がったから良かったんだけど」

 

「本来はサリアのものだったのですが、1部屋を除き譲り受けました。決勝が終わりしだい1階のすべてを楓に移譲する予定なのですが、今回はここの庭を使おうかと思いまして」

 

「1階をってことは、2階より上もあるの?」

 

 疑問有りげに館へと視線を動かした楓ですが、よく考えてみれば納得の行動でした。外から見れば2階があるようには見えませんので。

 

「2階に私とユウの部屋があって、3階は開けておきました」

 

「……2人も1階が良かったんだけどな」

 

 ダメかな、と続けるような言葉に、首を横に振って答えます。

 1階は楓の領土のための場所ですから。そこに私とユウは、必要ありません。

 

「2階に姉さんの部屋もあるよ」

 

「え、そうなの?」

 

 嬉しそうにユウを振り向くその反応が嬉しくて、つい頬が緩んでしまいます。

 2階は私の望む場所。そこに楓の部屋がないなど、ありえないではないですか。

 

「2階には4部屋を用意しています。増やしても7部屋までのつもりです」

 

 あの先が無いのなら、4部屋になるでしょう。

 あの先を掴み取ってくれたのなら、7部屋まで増える可能性が生まれるでしょう。

 私もユウも関与しません。

 

「4部屋? ……もしかして、時雨ちゃんかな?」

 

 ここでサリアではなく時雨をあげるところが、なんとも楓です。

 

「時雨とサリアの部屋は1階にあります」

 

「"今は"空き部屋ってことかな? まあわざわざ準備してるってことは、埋まる予定があるんだよね?」

 

 楓は人差し指を立ててくるくるとしながら、何もない場所を見つめて考えを巡らせています。

 気づいているのか、いないのか。楓の声音は、先には埋まることを確信しているようにも思えました。

 

「ええ、その通りですね。まあ、今はあなたの荷物置きにでも使ってください」

 

「……それは、嫌かな。置けるほどの荷物もないし、開けておきましょう。それよりも自慢の庭を見せてもらえるかしら?」

 

 笑顔で明確に拒否して、それでも理由がわからなくて。

 そんな雰囲気の楓が急かすのですから、そろそろ自慢の庭へと案内しましょう。見て驚くと良いのですよ。

 

 

 

「なにもないじゃない」

 

「驚いたでしょう。実はなにもしていません」

 

 呆れた様子の楓に事実を伝えておきます。

 時雨達を案内した時は見せなかった中庭へのドアを潜った先、今まさに目の前に広がるのは剥き出しの大地だけです。芝生も木々も、ベンチもテーブルも何もない、ただの空き地です。

 まあ上空から建物を見れば気づくことですけど、実は太陽の差し込む青空が見えるのはおかしいのでただの空き地ではありませんね。

 

「なら、気分転換に花壇でも作るの?」

 

「いえ、これを見て頂こうかと」

 

 そう言い手のひらに展開したのはライフル形状の武器。空に向けたそれの引き金を引けば、青く透明な弾が果てしない天井へと放たれます。

 

「……どうして、なんで聞かないほうがいい?」

 

「それを聞いてもらうために、誰の邪魔も入らないこの場所へ来ました」

 

 もともと、この館に中庭なんてなかった。ここは情報体と魔法を併用して私が1から構築した、私の領域です。なので現状で用意できる中で最も干渉されにくい場所でもあります。

 まあ家庭菜園のために用意したのですけど。

 

「楓には私の能力を教えておきますね」

 

「千里眼、じゃないのよね?」

 

「ええ」

 

 どこまでも見通す、大切な人と離れていても護ることができるようにとした眼ではありません。

 その程度では満足できませんでしたから。

 

「私の能力は『情報を観測する』もの。障害物があっても、妨害されても、それが物質でなかったとしても、そこにあるがままの情報を観測する力です」

 

 ユウにも言葉に出して言ってはいませんでしからね。そのためについてきてもらったともいえます。

 やっぱり、ユウには真っ先に聞いておいてほしいではないですか。

 

「……それってさ、魔法の構造まで把握できるの?」

 

「魔法どころか展開された情報体すら観測できます」

 

「……あなたが強すぎる理由がわかったわ。まあでも、時雨ちゃんほど外れてはいない能力ね」

 

 静かに受け入れ納得した楓でしたが、そこから先はいつもの楓でした。

 

「まあ、その程度はできてくれなくちゃユウくんは任せられないからね」

 

 バッチリよ、と続けた楓に嬉しそうに抱きつかれて、つい情報エネルギーライフルを落としてしまいました。

 

「それで、どこまで作ってくれたの? 魔法の試し打ちをさせてくれるのよね?」

 

 ここで自らが使うために用意されたのではなく、自らを鍛えるために用意されたと考えるのは楓らしいですね。

 欲しいと言ってくれれば、渡して楽ができたというのに。まったく、もう……。

 

「シールドまで準備しましたけど、耐久性は届いていません。あくまで急造品ですから」

 

「それで十分よ。本当は情報体の盾には情報体の武器を使った方が良いんだろうけど、時間がないから。もう少し時間があれば翠ちゃんに有効な武器を作ってもらいたかったけど、今回は諦めましょう」

 

 翠が辿り着けなかったそれを、この短期間で作った相手を褒めるべき、なのでしょうね。

 翠が情報体を買い集めて色々と作ってたのは知ってましたが、結局は凛の刀まででした。期間を考えればかなりのできなのですけど、あの刀では3枚目が破れないでしょう。

 だから楓が補助する。2枚目を破ったタイミングで3枚目に干渉すれば、破れるはずです。

 まあ、それを見つけられるかは楓しだいですが。

 

「さて、時間が無いわ。早速始めましょう」

 

 凛とした声でそんなことを言いつつ、私を抱きしめたままなのはなぜでしょうかねぇ。

 

「楓」

 

「ごめん。あと少しだけ……」

 

 ……これも必要なことなのでしょうか。

 もしかすると楓の中で引っかかる何かに、私が最も反応しているのかもしれません。それはきっと正解であり、本来ならば私ではなく2人のどちらかによって引き起こされてほしかったものでもあります。

 ですがまあ悪い気分でもないので、このままで。


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