居場所 3/3
泊まっている宿の楓の部屋に帰ってみれば、楽しそうな声が聞こえません。
それなりに経過しているとはいえ、まだ祝勝会の最中だと思ったのですが、既に終わってしまったのでしょうか。
コンコンとノックをしてみれば、「どうぞ」と真剣そうな声が聞こえたのでドアを開けて中へと入ります。
「戻りましたが……どうしました? 料理に仕込んだわさびに似たものが気に入りませんでしたか?」
「あれはイナバだったのか……いや、そうではなくてな」
こちらを向いた凛は難しそうな表情をしており、その視線は再びテーブルへと戻されます。
「明日の相手に関してだ」
「同じアルファ世界の人族でしょう? なにか困り事でも?」
まあ困らなかったら、それはそれで困りものですけど。
「付け入る隙が無い。単純に強い」
「どんな構成ですか?」
「アルファ世界の人族2人、各々に召喚された従魔が1人ずつの計4人です」
答えてくれた翠も困った顔をしており、それが祝勝会を中断させたのだと予想できます。
「召喚者をポンっとしちゃえばいいのでは?」
「従魔の子達がね、強いのよ。むしろ召喚者がおまけに思えるわ」
私から言わせれば、本命というか強さを支えているのは召喚者の内の1人なのですが、さすがにそこまでは調べられませんでしたか。
「ならば私が1人だけ減らしてみましょう。同じ従魔ですし、誘いに乗ってくれるかもしれません」
「どうにも魔法が通用しないみたいだが、できそうか?」
「別に魔法だけで戦っているわけではありませんので。同じものをぶつければ、揺らがせる程度はできますよ」
ながもんがやべ~のですけど、まあ全力は出さないでしょう。
「僕からみれば離れてくれそうにないんだけど、大丈夫そう?」
ユウが心配そうに尋ねてきます。
……きっと、見せたくない力まで見せるのではないかという心配でしょうね。実力的に離すことができるのは理解しているでしょうから。
「精一杯、煽ってみるので安心してください。できなければ回復や支援、足止めなどの援護にまわります。ところで従魔の種類はわかりますか?」
「準決勝での話になるけど、人型……というか、人間にパワードスーツを纏わせたような感じよ。武器は実弾ライフルにエネルギーライフル、近接用に刀。防具が装備自体の硬さと、見えないバリアね。機動力も高くて森の中でもスイスイ移動するし、短時間なら空も飛べるみたい」
……知っていましたが、ちょっとずっこくないですかね。確かに素材集めも加工も第3陣で行ったのでしょうけど、大人げないというか、なんというか。
「召喚者のほうも似たような装備なのですか?」
「ええ」
つまり従魔側のほうが弱い情報体を使っている、ということでしょうねぇ。
「サリア、どう思いますか?」
「うむぅ?」
隅っこ我関せずとアイスクリームを食べていたサリアに問いかけてみます。
「絶対に優勝しなくちゃいけないわけじゃないから、全力でぶつかるのが良いと思う……って提案しといた」
自慢げに語ったサリアは、再びアイスクリームへと意識を戻しました。
まあ私としてもサリアの言う通り、ここで負けてもかまわないと思っているのでなにも言えませんね。既に目的は達成できるのですから。
「気負いすぎていてもしかたがない、ということですか。そうですね、ええ」
ここでなぜか皆の視線が集まりましたが、そのまま続きを伝えておきます。
「サリアのように少し休憩してはどうですか? 街に繰り出して美味しいものを食べてきてもいいですし、魔物を倒してきてもいいですし、部屋でごろごろとしてもいい。絶対に出さなくてはいけない答えではないのですから、そこまで根を詰める必要はないと思いますよ」
「……ふふ、そうしよっか」
緊張の糸が切れたような様子の楓は言葉を続けます。
「優勝を目指すとは言ったけどさ、それは楽しさを削ってまですることじゃないよ。私達は子供なんだから、もっと活き活きと楽しむべきで、面倒な領土問題は大人がどうにかすればいいのよ。そうよ、まったく」
そう言い終えた楓は机にのべ~っと流れ込みます。そんな彼女を見て、他の皆の表情にも余裕と笑みが出てきました。
「ならば将棋でも指してくるかな」
「え、凛ちゃん将棋できたの?」
サリアはそう言いながら、驚いたように凛へと顔を向けました。
「似合わないだろう? だができるのだ」
「むしろ凛さんは似合うと思うよ。サリアさんは見に行ってみるといいかも」
「私、頭を使うゲームはちょっと……。でも、そう言われると見に行きたくなって……」
サリアはスプーンを咥えたまま、頭を抱えて悩見始めました。サリアは直感で指しても強そうなので、1度は挑戦してみるべきだと思います。
「私は……甘いものでも食べに行きましょうか。葵もどうですか?」
「うん、行く」
「南エリアで新しく、いちご大福が売り出してましたよ」
「決まりましたね」
普段は冷静な翠が、珍しく"素直に"嬉しそうな表情を見せています。いちご大福が好きなのでしょうか。
……まさか、すべて制覇したあとなんてことはありませんよね、多分。
「楓はどうします? 私をあやしながら遊びますか?」
「なんでよ……どうせなら私をあやしてよ~。疲れた~」
楓はそう言いながら、テーブルに突っ伏したままで手足を軽くばたばたとさせます。
きっと、とても珍しい光景なのでしょうね。それが見えるということは、この場にいる全員に心を許しているということでしょう。
思ったよりもサリアが馴染むのは早かったようですね。
「イナバ、僕には聞いてくれないの?」
ユウが少し寂しそうな表情を浮かべて、そう聞いてきました。
一瞬だけ『一緒に来てくれるかと思ってました』などと言いかけましたが、危なかったです。ユウは『聞いてくれないの』かと言ったのですから、答えは予想できているのでしょう。
「私と、一緒に来てくれますか?」
なんだか悔しいですが、弾むような笑顔で「うん」と言ってくれたので良しとします。あとで楓にも写真をあげましょう。
「それじゃあ夜ご飯まで自由行動!」
起き上がった楓が指でビシっと天を指し示しながら、そう言います。そこからの行動は早く、それぞれが早速と言わんばかりにドアから外に出ていきました。
「どこに行くの?」
「庭へ」
それだけを告げ、楓の手を引いて、ユウに手を引かれて庭へと向かいます。




