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居場所 2/3

 街中の飲食店。両開きのドアを開けば木製の丸テーブルと椅子が並んでいる、酒場を連想させてくれる場所へと足を踏み入れます。店内を見渡せば、昼前には遠い時間にも関わらず席の多くが埋まっており、それがこの店の人気を表すようです。

 そんな中で1つのテーブルを囲う、少しだけ場違いにも見える集団へと足を進めます。

 

「お待たせしましたか?」

 

「決勝進出おめでとうございます。俺達も今、来たところですよ」

 

 手を上げて答えてくれたのは薄茶色の髪から覗く、同色の毛に包まれた犬耳が特徴的な少年『シヴェ』。焦げ茶の瞳は活き活きとしており、最近の様子を伝えてくれるようです。

 

「呼んでもらえたということは、順調なようですね。黒メニューを頼んでもいいですか?」

 

「い、一品だ「リーダー」白メニューでお願いします」

 

 見栄を張りたいように見せかけて、仲間が止めると見越した"一品だけなら頼める"と伝えてくる手腕。相変わらず機転が利きますね、この子は。

 さてさてどうしましょうか、と白いメニューを開いて悩みます。安いものを頼むよりも、高いものを頼んだほうが喜ばれるでしょうけど、あまり量があるものは避けたいです。

 

「お姉さん、どうして今日の試合でなかったの?」

 

「作戦会議の時に眠っていましたから」

 

 髪、瞳、羽と桃色で占められた天翼族のフェリの質問に無難な理由で答えておきます。基本的にあちらのメンバーが参加することになっているので、作戦会議に出なかったことで参加できなかったことは嘘ではありません。

 

「そっか~。魔法が凄いって聞いたから、戦ってるところ見たかったのに……」

 

 残念、と続けて頭の両側に纏められた髪を揺らす姿は言葉通り『試合を見れなくて残念』と思ったように見えますが、きっと時雨のための言葉でしょう。

 時雨の用事で疲れて出れなかったのではないか、と。

 つまり時雨が気にしていたのでしょうね。

 

「まあ私は戦力としてカウントされていないので、起きていようがあのメンバーでの参加になっていましたよ。私が参加するという例外は、私が我が儘を言った時だけです」

 

「じゃあ僕達の試合が、その我が儘だったの?」

 

 緑色の髪に水色の瞳をした、巨人族のアーレが聞いてきます。

 なんとなくですが打ち合わせ無しで、いえ、個々に時雨とのことを聞こうとしているように思えますね。まあ言えるような内容ではないですし、適当にはぐらかしたのでしょうか。

 

「飾りで終わるのは嫌だったので参加させてもらったのですよ」

 

 おや、蕎麦がありますね。この街には流通していなかったはずですが、自家製でしょうか。

 

「お姉さん。剣と盾を使ってみたけど、思ってたよりも使い易かったよ。リーダーと相談して少しの間、使ってみることにしたんだ」

 

 赤い瞳と赤い髪の、楓達とは違う世界の人族であるアスティが嬉しそうに報告してくれます。しっかりと見てみなければ確信はできませんでしたが、より合っていたようでなにより。

 それにまとめ役の彼へと相談しているところも良いですね。

 

「それは良かった。しかし大斧も悪くはなかったでしょうから、使い分けていけるといいですね」

 

「うん」

 

 今の凛のように刀一辺倒だと、今回のように空への攻撃手段が無かったりしますからね。速い相手に、硬い相手に、皆を守るため、速攻で倒すためと多くの手段を用意できたほうが、対応の幅が広がります。

 さて、蕎麦にしましょう。

 

「私の注文は決まりました」

 

「あ」

 

 思い出したようにメニューを開き、読み始めた4人。決めていたのかと思っていましたが、なにかに夢中で忘れていたのでしょうかね。

 ……やはり、時雨の一件でしょうか。これは私からそれらしい理由を伝えるべきかもしれませんね。

 

 

 

 食事中は時雨と篭っていた時の狩りの様子や現状などの話題で盛り上がってくれましたが、それも食べ終わったところで終わりを迎えました。

 蕎麦は日本のものと比べても遜色なく……というか、麺以外の素材の差で勝っているような気さえしました。それでも麺が物足りない気がして、改良に期待したいところです。

 

「今日は奢ってもらい、ありがとうございました」

 

 店から出た、道の端で小さく頭を下げます。食事中の話の内容からも無理をしている様子はなかったですし、無理をしていたということはないでしょう。

 それよりも気になるのは、ずっと黙っていた時雨でしょうか。雰囲気を見る限りは仲間達と険悪になったということはないようで、むしろ仲間達が気にかけている様子でした。

 食事もオムライスを箸で食べようとしたりと、他に気を取られてるような感じがします。

 

「……時雨ちゃん」

 

 と、フェリが時雨を押し出しました。

 

「え?」

 

 驚きは誰のものだったのでしょうか。時雨だけでなく、フェリ以外の3人も驚いた様子を見せています。

 

「お姉さんのほうへ行きたいんでしょ?」

 

「え、あの……そんなことないよ。君達と一緒に進むって、決めてるから」

 

 その言葉が決定打になってしまったのでしょう。フェリが首を横に振ります。

『決めてるから』なんて悩んでる時にしか出ない言葉ではないですか。

 

「それじゃあ後悔するよ。糸が切れてしまったら、次に繋がる時には色が変わってるんだから」

 

 そう言ったフェリは、まるで自分が後悔しているようにも見えます。

 

「ほら、リーダー達も耳を塞いでるから、玉砕しても私が黙ってれば元通りだよ」

 

 ね、とフェリは笑顔を浮かべます。

 リーダーのシヴェを含む男性3名はといえば、何も言わず耳を塞ぎました。器量のある子達ですね。

 

「皆……うん」

 

 皆を眺めてからこちらを向いた時雨。

 その瞳は真剣そのもので、揺らぎません。

 

「イナバ、ボクを仲間に入れてくれないかな」

 

 手を伸ばす前から予想されていた一言が告げられます。

 

「その判断はできかねます。私達のリーダーは楓です」

 

 予定通り、可能な限り突き放したい。少なくとも楓の仲間となるようにだけは仕向けたい。

 

「ボクはイナバの側が良いから。楓ちゃんの仲間同士じゃなくて、イナバの仲間の1人が良いから」

 

「楓ならば現実世界にも居られるのですよ」

 

「……次のログインでまた会えればいいから」

 

 時雨は少しだけ迷ったあと、首を横に振って答えました。

 だから決定打を打ち込みます。揺れてしまった、このタイミングで。

 

「次にログインした時、私がいるとは限りません」

 

 兎の姿に戻って。

 

「私はこの世界で生まれた、プレイヤーに召喚された従魔です」

 

 驚きの顔が並びます。その中には当然、時雨の顔も。

 例外はただ1人、シヴェだけ。

 

「知っていましたか」

 

「喋る従魔は噂になってたから」

 

 調べないはずがない、と。

 仲間を増やさない戦力を求めていた彼ならば、1人が増えるに等しい従魔召喚は調べていてもおかしくはありませんでした。

 

「ただのAIに過ぎない私であっても、求めてくれますか?」

 

 周囲の雑音は一切、通さないようにした静かな空間。誰も動かず口を開かない、まるで時が止まったような光景。

 そこで立ち去ろうとすれば、時雨の歌うような声に引き止められます。

 

「ボクを救ってくれたのはあなたじゃないか。AIとか別世界とか関係ない。ログアウトまででもかまわない。現実世界で絶望しようと、今を求めたい」

 

「だから、あなたの側にいさせて欲しい」

 

 凛とした声音で、今にも泣きそうな顔で、手を差し出されて。

 

「……私が楓と敵対することは、万一もありません。私が繋げられる中で最も安全な場所が、私もいられる場所がそこなのです」

 

 だから、私の最も大切な

 

「その場所で良ければ、あなたの手を取りましょう」

 

 我ながら馬鹿ではないかと。

 これなら最初からユウに救ってもらっていれば、変にこじれることもなく、楓の側にいてくれたというのに。

 それでも"あれ"は譲りたくなくて、私のただ1つであってほしくて。

 

「……イナバの隣は、楓ちゃんなんだね」

 

 時雨が悲しそうに呟きます。

 

「ボクが君を召喚できていれば、なんて思うと悔しいよ」

 

 あなたには召喚されませんし、むしろ突き放したでしょう。

 あちらで結ばれるべき相手に救われるべきだと。

 

「でも。ボクにとって妥協になる、皆や楓ちゃんに失礼な結果かもしれないけど」

 

「そこにいさせてください」

 

 涙を流しながらニコっと笑った時雨は、きっと楓と仲良くなれるでしょう。

 精一杯の外側にいるあの子だから、時雨の怖さも弱さも理解できる。影を理解してようやくスタートラインに立て、光を見つめることができるのです。

 だから特別な知識も力もなく、普通の中で時雨の能力に気づくことのできた楓こそが相応しい。

 凛でも翠でも葵でも、サリアでもアリサでもダメです。私でもユウでも相応しくありません。

 それになにより、楓が『弟のお嫁さん候補』として希少な存在を見逃すはずがありませんから、どうせ楓に取り込まれます。私も引き渡します。

 到着点は結局、そこだったのですよ。

 

「ええ、一緒にいきましょうか」

 

 満面の笑みが咲けば、それは終わりを告げると同等で。

 

「皆、我が儘を言ってごめん」

 

 くるっと後ろを向いた時雨は勢いよく頭を下げます。

 

「それでも、きっと最初で最後のチャンスだったんだ。えと、その……なにかあったら頼ってくれて、いいよ?」

 

 自分でも言うべき言葉がわからないのでしょう。

 時雨を見つめていた4人が、くすくすと笑い始めました。

 

「もともと即席チーム。皆がしっかりと馴染める場所ができたら解散するつもりだったから、気にする必要はないさ」

 

 そんなリーダーの言葉に残る3人と時雨は驚きの表情を見せます。

 

「俺じゃあ皆に場所も用意できなかったし、護ることもできる力もない。それにやっぱり……世界の差は簡単には埋まらない。皆が現実世界で困った時、助けられるのはやっぱりその世界の人だよ。別世界の俺らじゃあない」

 

「そ、そんなことない! リーダーが、皆がいてくれたから、ボクは進んでこられた。それが短い時間でも、楽しかった。だからリーダーは、皆は場所を用意してくれたんだ。護ってくれたんだ」

 

 時雨のそんな言葉に、シヴェはうるっと涙を溜めました。

 まあでも、シヴェの言葉は正しいです。渡る力のない彼らは、異世界へ救いに行けない。それならこちらの世界で事前に、同じ世界からログインしている人と縁を結ぶことを手助けすることで、手の届かぬ現実世界にすら手を届かせる。

 それが彼なりの全力だったのでしょう。

 

「あ、でもでも。異世界って行けるよね~?」

 

「「「え?」」」

 

 天翼族、ベータ世界のフェリは知っていましたか。

 

「私達の里さ、異世界から来た人達に救われてるから。その人達は元の世界に帰れたみたいだから、きっと行き来できると思うよ?」

 

「え、そうなの?」

 

 そこで、なぜか時雨が私に振り向きます。

 

「神の御業では?」

 

「う~ん、そうかも。結局、あれ1回だったから」

 

 フェリはそう言い指を口に当て、首を傾げました。

 天翼族がどんな脅威にさらされたのかは知りませんが、英雄の特徴は街の噂で知っています。

 まず『蜂』と『刀姫』。そこに『白色精霊』と『虹色軍師』、『透明スライム』と『天之鍛冶師』です。

 

「まあ容易にはできない、ということですね。それでも可能性があるというのは良いことです」

 

 そこで切り取りの魔法を解除すれば、街中の賑やかさが戻ってきます。

 

「話は終わりですね。それはそうと時雨」

 

「なに?」

 

 ここでちょっとビクッとする辺り、やはり怖かったのでしょう。断られることが。

 

「楓達に会うのは決勝のあとにしてください。あれでも楓はギリギリなんですよ」

 

「え、そうなの?」

 

「楓はあなたと同い年ですよ」

 

「え……」

 

 驚いたのは時雨だけで、他の皆は気にした様子はありません。

 

「ボクって戦いの才能、無いのかな……」

 

「無いですよ」

 

 あると思っていたのでしょうか。

 むしろ、そんなものよりも大切な才能に溢れているとは思いますけど。特にアルファ世界では必要な、それに。

 

「あと皆さん。時雨の部屋は紹介した館の1階に用意しておきますので、いつでも遊びに来てください。侵入権を設定しますので、入れる部屋には入る権利があると考えてかまいません」

 

「鍵は?」

 

「侵入権が鍵代わりです。時雨の着替えに遭遇できるかもしれませんよ」

 

「やった!」

 

 なぜか声を上げて喜んだのがフェリという謎がありますが、他の3人も微妙な表情ながら嬉しそうでなによりです。

 

「あの、ボクも自分の部屋くらいは設定できるよね?」

 

「1階の管理統括は楓です。残念ながら、私には権利がないのです」

 

 正確には楓に権利を移譲する予定なだけで、今は私が有しています。それでも緊急時以外は触らないと決めているので、間違ってはいません。

 

「そんな~……なんて、楽しい想像をしてるけどさ。まだ認められてないんだよね」

 

 そう言った時雨はあははと少しだけ悲しそうに笑います。

 

「まず断られないと思いますが……どちらにしても、時雨の部屋は確保します。まだ受け渡していませんので、多少の変更があっても知られることはありません」

 

「なら大丈夫だね~。もし断られたら皆で押しかけて、拠点にしちゃえばいいから」

 

 フェリの提案に若干、引き気味の笑いを浮かべる男性組3人。

 ……なんだかフェリの隣りにいたほうが、時雨は幸せになれそうな気がします。楓の居場所というのは、甘くありませんからね。

 

「まあ使うのは楓達が入ったあとでお願いします。それでは明日の準備がありますので、今は失礼しますね」

 

 楽しそうな声を背後にぴょこぴょこと駆け出せば、すぐに人混みに紛れました。

 残りの2日間、存分に楽しむと良いでしょう。大切な思い出に一区切りつけるように。


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