居場所 1/3
時雨と別れた日の翌日、大会会場の控室。壁際に備えられた椅子に腰かけ、展開したテーブルの上に置かれたクお皿からクッキーを1つ手に取り口に運びます。
目の前に浮かぶ仮想ウィンドウの先では私の出場していない試合が繰り広げられていて、既に開始からそれなりの時間が経過しており、拮抗状態。
相手は獣人族3人、妖精族2人のバランスの良いメンバー。前衛が獣人族"竜種"と鳳種の2人、遊撃が獣人族狐種、後衛が妖精族の水魔法主体と風邪魔法主体の2人。
ハッキリ言えば優勝候補が相手なのですが、既に準決勝です。
現状はどちらも2人欠けており、残り3人。こちら側がサリアと翠、相手側は狐種と鳳種が脱落であり、役割としては似通っている同士といえるでしょう。
強種たる獣人族の竜種と鳳種相手に、弱種たる人族、それもアルファ世界の人族中心のメンバーが競っていることもあり、街ではそれなりの盛り上がりを見せています。
もう1つの手がクッキーを手に取ることで空になったお皿を見て"情報体の"アイテムボックスを起動させ、少し悩んだ結果、今度はココアクッキーを追加しておきます。
あんな夢を見てしまったから、少し作りたくなったのです。
と、そんなことをしていれば動きがありました。
刀を抜いた楓が竜種の彼に突撃します。それと同時に残る2人も動き出したので、ここで決めるつもりでしょう。これ以上、長引かせても生命力の弱い人族である楓達は不利になるだけ。相手の回復の機会を与えるだけですから。
今回は主が草原で、ところどころに森……ではなく林が点在するフィールド。昨日まで時雨といた場所によく似たもの。どちらも林に隠れていましたが、楓達が姿を見せたことで相手側も動き出します。
竜種の彼が森から飛び上がって存在を主張するように翼を振るい突風を巻き起こせば、対して楓達は手に展開した玉を空中へ放り投げました。
頂点に達したところでピカーッと輝いたその玉は、目眩ましの閃光玉。思わず瞼を閉じてしまった竜種の彼と、怪しげな光に包まれた空を見た残る2人。
他の世界にも無いわけではありませんが、視界よりも他の感覚による広域感知が主流なので、すぐに対策が打てなかったのでしょう。まあついでに魔力も撒かれ、大きな音も出ているようですが。
竜種の彼が目を開ければ、草原の真ん中で刀を抜いてそちらを見つめる少女が1人だけ。一瞬だけ動こうとして動きを止めた彼は、草原へと急降下します。
そして、そのまま速度を落とさず墜落したところを氷柱に囲まれて、突き刺されました。
凛の姿を解いた楓は竜種の彼が消滅したのを確認して、森に入った楓の姿をした凛と葵を追いかけるのです。展開していた刀を消し去って。
魔力偽装に幻影魔法、そのうえで油断したところに重力加算などという酷い攻撃。楓の姿をした凛相手に注意を向け過ぎていたから、いえ、前半で鳳種の彼女が重力魔法により動きを鈍らせて矢で射抜かれたこともあり、楓に注意を向けすぎていた竜種の彼相手だからこそのミスと言えるでしょう。
そして数十分が経過し、楓達が部屋へと戻ってきました。勝利の笑顔とともに。
幻影に苦戦はしていたものの、刀を鞘に収めて集中した凛が魔法も使うことなく本体を平然と斬って終了させるという楽しいものとなっていました。
「お疲れ様まです。クッキーでも食べますか?」
「頂こう」
躊躇なく手を伸ばした凛に、楓が清潔魔法とかけます。
あちらの汚れなどは持ち帰らないとはいえ、ここは外ですからね。道中の汚れを気にしたのかもしれません。
自身で清潔魔法を唱えた翠と楓も、続いてクッキーへと手を伸ばします。
「楓、いつ閃光玉を用意したのですか?」
「朝、起きてから、走り回ったのよ」
笑顔に強めの声音で答えてくれた楓。
前日、寝入った時には既にその日の試合は終了していましたので、そのまま翌日の朝まで眠っていました。3人で。
当然、作戦会議も、対策準備もできていません。楓だけは。
「ごめんなさい、楓。疲れてるみたいだったから、私が起こさないようにお願いした」
謝るような葵の言葉を受けて、楓が困ったような笑顔を浮かべます。
「皆は悪くないの。そもそも起きなかった私が悪いし、イナバが手を回しすぎただけだから」
手は抱きつかれていて動かなかったのですが。
「それに皆の作戦、凄かったよ。狐種の彼女の幻影が予想以上に凄かったけど、ほぼほぼ作戦通り進んだからね」
「そう言ってもらえると嬉しいですね。まあ私は早々に負けて見守るだけでしたが」
「でも、そのおかげで厄介な鳳種の彼女を撃ち落とせた。翠ねぇのおかげ」
「ありがとう、葵」
葵への攻撃を翠が肩代わりしたために、攻撃の機会が生まれたのです。自分が残るよりも、より戦力になる妹を……だけとは思えませんが、あの行動が勝利へ繋がったのは事実でしょう。
そんな和気藹々とする中、サリアだけが黙ったまま気配を消そうとしていますが、それは許されませんでした。
「ひゃん!」
「サリアさんも十分に活躍してたよ。イナバが言ってたんだから、間違いない」
サリアを横からギュッと抱きしめたユウがこちらに視線を送ってきます。
「空においては竜種をも上回ると言われる鳳種ですからね。そんな彼女の攻撃が外れるということは、それだけの実力差があったか、なにかしらの妨害を受けていたかでしょう」
「で、でも……なくても皆なら避けられてたと思うし……」
「作戦通り勝てたのです。あなたの実力は疑いようがありません」
うじうじとしていたサリアに、翠が告げます。柔らかに微笑んで。
「あ、あう……」
頬を赤くしたサリアが俯きます。
その口にクッキーを放り込むユウは何を考えているのでしょうか。もぐもぐするサリアが嬉しそうなので、まあいいでしょう。
「さて、少し出てきますね。夜には戻ります」
「あれ、今から祝勝会だよ?」
「そちらも出たいのですが、まあ約束ですので。参加できないぶん料理を作っておきましたので、保管庫から取り出して食べておいてください」
この大会で最後の祝勝会になるかもしれないので出ておきたいのですけど、それでもあちらを蹴るわけにはいきません。経過を見られるのなら、見ておきたいですから。
「約束ならしかたないね。いってらっしゃい、イナバ」
「ええ、行ってきます」




