長門 1/1
********************
街から離れた海の上に2人の人物が"立っていた"。
1人は短めの黒髪と夜闇のような黒い瞳をした、少し気怠げな様子の男性。服装も同時期に始めたプレイヤー達とそう変わりなく、長袖長ズボンにブーツの丈夫そうなものとなっている。
もう1人はショートの黒髪と同様に夜闇のような黒い瞳の、引き締まった身体をした女性。こちらはいかにも冒険者装備という男性とは違い、くまさんの寝間着ともいうべき服装をしていた。
どちらにしても海上、それも陸地すら見えないほどの沿岸では場違いだろう。
2人が静かに佇む中、海中から何かが飛び出してくる。白く、大きく、長い、ところどころに鋭い吸盤を貼り付けたそれが、十を超える数。
その多くが女性へと向かい、僅か数本が男性へと向かうが、そのすべてが届かない。
女性へ向かったものはすべてが拳により叩き落され、男性に向かったものは見えない壁にでも阻まれているように先に進まない。
そして戻すことも叶わない最後の1本が女性に抱きかかえられ、反転した女性に背負われれば、その先が海面へと姿を現した。現さざえるえなかった。
海面すら超えて夜空に放り投げられたのは真っ白なイカ。星空覆い尽くす身体と大樹の根のように張り巡らされた足が、海面を影の世界へと変えた。
そんな影の中、女性は切り離された足を男性に投げつけて跳び上がる。一直線に迷うことなく、拳を握りしめて。
パーンと篭ったような音が響けば、影の世界は光の世界へと変貌する。
周囲一帯を埋め尽くすような光の粒子が空へと昇り、その一部が女性と男性の胸元へ吸い込まれていく。
「すまないな、我が儘に付き合ってもらって」
女性を見つめる男性と、背を向けたままの女性と。
「……相変わらず強いな。俺にはもったいないくらいだ」
羨望と憧れと悔しさと、そして言葉通りの賞賛が贈られた。
「こんなに弱い私でも強くあれると、教えてもらったからな」
目も眩むような光の中、女性は月を見上げて答えた。
今夜は綺麗な満月だ。
「なに、貴方もすぐに辿り着く場所でしかない」
男性へと、くるりと振り返った女性。
「見ていただけの俺がかい?」
「私の相棒なのだ、できるだろう?」
曇り無い笑顔でニッコリと微笑む女性。
その表情は信じているというよりも、確信しているようにも見える。
「……これはゲームだからって浮かれてられんな。そもそも首相からの極秘命令の時点で普通じゃないんだよな~。なんで一兵卒の俺にきたかね」
ぼりぼりと頭を掻く男性を見て、女性はより嬉しそうに笑みを深める。
「なに、見る目があったということだろう。長に頂くには相応しいではないか」
「まあ歴代最高の首相様から認められたんだから嬉しいけどさ……応える側も大変なもんだ」
男性が1つあくびをして、光の粒子が完全に消えれば元通り。油断なく海の上に立つ2人が残るだけ。
********************




