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不思議な依頼 2/3

「お待たせしました」

 

 注文が決まり次第、押すボタンが押されれば、すぐに店員さんがやって来た。

 

「追加の注文は可能ですか?」

 

「今は空きがありますので大丈夫です」

 

 お昼から少し外れているからかチラホラと空席が見えていたから、満員の時ならば追加は無しということだろう。

 

「それではお子様ランチを」

 

 危うく吹きかけた。踏み留まった自分を褒めたい。

 

「承りました」

 

 今度は消えず、奥へと歩いていく店員さん。

 変わらぬ喧騒が響き渡る周りの反応を見てみたい気もするけど、そんな勇気はなかった。

 

 

 

「お子様ランチになります。ごゆっくりお召し上がりくださいませ」

 

 大きめのお皿に盛られた料理たち。

 エビフライにチャーハンにハンバーグにフライドポテトにスパゲティー、さらには野菜スープまでついている。

 確かにラインナップはお子様ランチだが、お皿は普通と変わらぬもの。量も思春期真っ盛りの青年が食べても満足しそうなほどだ。

 そして、価格が安いのは知っていた。白メニューの中でも相当に安いどころではなく、飲み物と並ぶ価格帯だったはずだ。

 

「駆け出しでも懐を気にせずに頼めるランチ、でしょうか」

 

 テーブルに置いてある箸を1膳、手に取り、ハンバーグを一口分だけ切り取る。そして口に運び、飲み込んで

 

「美味しいですね」

 

 と満足げな言葉を漏らした。

 つまり駆け出しの"お子様"の稼ぎでも懐が痛まない、利益度外視の応援品ということだろうか。むしろ赤が出ている気がするのだが、まあ客としては嬉しい。

 というか、ボク達が頼んでも問題ない料金だ。それはもう前回、名前だけ見て即座に検討から外したことを後悔する程には。

 他の皆はと思って視線を向けてみれば、全員がお子様ランチへ釘付けとなっている。きっと頭の中ではボクと同じことを考えているに違いない。

 そう思えば、楽しくなってしまった。ほんの30分前まで沈んだ雰囲気だったとは思えないほど、楽しくなってしまった。

 

 

 

 食事処から出て少し歩いた場所にあった綺麗な宿屋。その一部屋。

 6人も並べば狭いかと思ったが、思ったよりも余裕があるその部屋は畳が敷き詰められており、タンスに玉手箱壁には襖などなど、日本を思わせる。

 

「それで本題なのですが、時雨」

 

「なにかな?」

 

 丸テーブルを挟んでイナバと向かい合っている。他の皆がテーブルから離れた好き好きな場所に座っているのは、ボクとイナバが主役の話だからだろう。

 

「お願いがあります」

 

「随分とお節介焼きみたいだけど、仲間が世話になったからって首を縦に振るかはどうかは内容次第だよ?」

 

 初めにこう言っておかなければ、ボクが簡単に頷いてしまいそうになる。ボク1人ならまだしも皆がいるのだから、しっかりと考えてから頷かなければならない。

 

「別にそういう魂胆はありませんよ。それで用事ですが、私と勝負しませんか? もちろんあなたが勝った場合は対価を用意します」

 

「……ボクはここを抜ける気はないよ?」

 

 抜けるもなにも、何かに縛られた集まりではない。それでもチームなのだ。

 

「ああ、私が勝ったら何かを要求するようなものではありません。私は勝負を受けていただいた時点で報酬を得られますし、勝負が終われば報酬を得ています」

 

 相変わらず直接的な言い方はしてくれないから、よくわからない。

 

「よくわからないね。まあ先に勝った時の対価を聞いておこうか」

 

 黒メニューを1品ずつ、で頷いてしまうかもしれないので注意しておこう。

 

「なにが欲しいですか?」

 

「なにって……。それなら街に部屋が欲しいかな。宿代は結構厄介なんだ」

 

 街の外れにある安宿でも大会参加費用を払ったボク達には厳しいのだ。将来的に考えても、宿代が浮くとなれば他の武器などに回せるお金が増える、と適当に断られるだろう提案を考えたつもりだ。それを理由に勝負自体を断れるようにしておかなければならない。

 黒メニューを望んでいるかもしれない皆には悪いけど、勝負内容次第では必ず断らなければいけないのだから。

 

「そうですね~」

 

「無理だよね? だから諦めて――」

 

「少し狭いかもしれませんが、一等地に2部屋ご用意できますよ。他のパーティの拠点の中なので少し気になるかもしれませんが、侵入権を設定すれば大丈夫です。専用の入り口を作るので鉢合わせることもありません。どうですか?」

 

 ちょっと言っていることがわからない。

 

「え……大会に出れたってことは私達と同時期に始めたんだよね?」

 

 呆然としている私に変わってフェリが問いかけてくれた。

 

「くじ引きで当てまして。大部分はあの子達に渡しましたが、家自体の権利は私のものです。持っている2部屋もあの子と私の部屋ですから、渡すことに問題はありません」

 

「……ボクが言うのもあれだけど、本当にいいのかい? ボクはきっと、負けないよ?」

 

 勝負内容次第だけど、1対1の直接対決ならまず負けないと思う。

 

「そうだよ、お姉さん。やめといたほうがいいよ?」

 

「それに誰かと住んでるんでしょ? その人にも悪いから」

 

 なぜか相手側の心配をしているリーダーとフェリ。やはりあれと、そのあとの食事が影響している感じを否定できない。

 

「あの子なら納得してくれるでしょう。それどころか、ここで手を引くほうが申し訳ない」

 

 これだけ言っても揺らぎもしないのだから、退く気はないのだろう。

 

「い、一応場所の確認はさせてもらえるのかな?」

 

「そのつもりです。ですがその前に、試合のルールの確認をしておきましょう」

 

「ルール? 降参するまでじゃ……もしかして、どちらかがログアウトするまでかな?」

 

 それであれば、どんな条件を積まれても断らなければいけない。

 

「いえ、降参するまででかまいませんよ。勝敗条件は一定以上のダメージを受けるか、降参するまで」

 

「普通のルールだね」

 

 どんなびっくりルールが出てくるかと思えば、この街の訓練場でよく使われているルールだった。まあ数回しか使ったことはないから"よく"かは知らないけど。

 

「それに加えて私側はあなたをログアウトさせてしまった場合は負け。双方の降参条件として僅かでも傷を負っていることとします。かまいませんか?」

 

 ログアウトしてしまっても皆が宿を得られるし、後半のルールはすぐに降参しないためのものだろう。たしか訓練場のルールオプションにあった気がする。

 ルールを踏まえて考えれば、イナバは私に訓練をつけたいということだろうか。そこになぜ、という疑問はあるけど、不利はない。

 

「悪いどころかこっちに有利じゃないか。システム上、騙したりはできないはずだけど、本当にいいのかい?」

 

 街システムとかいう万能システムが契約詐欺から護ってくれる。これがあるから、初心者も気軽に情報体やドロップアイテムの取引ができる。

 

「私の勝ちはそこにあるのですよ」

 

 あれを聞いた後でその言葉を出されてしまえば、納得せざるえない。ちょっとじゃなく断れない。

 

「ついでに言えば負けても失うものをも運良く得ただけのもので、必要な部分は既に受け渡してありますから」

 

 安心してください、と続けられた。

 一応は表情や動きを観察してたけど、怪しいところもない。断れる理由がない。

 

「……もしかして、何かある部屋だったり?」

 

 ここでアーレのナイスプレイ。

 

「くじ引きの特等ですから、そんなことはないと思いますが」

 

 ダメ、これは問題ないやつだ。それでも湧いて出てきた不安は払拭しておくべきだろう。

 

「実際に見たほうがいいね。案内してくれるかな?」

 

「ええ」

 

 良かったとでも言わんばかりのホッとした表情を浮かべたイナバが立ち上がる。

 ボクも続いて立ち上がりつつチラリと皆を見てみれば、誰も断る雰囲気じゃない。ただ状況を楽しんでいる子供に見える。

 もう、誰もイナバを疑っていない。ボクも含めて。


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