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第2回戦後

 楓達の第2回戦が終わった日の夜。1回戦後と同じく楓の部屋に集まった面々。

 

「まずは2回戦を振り返ろっか。誰か気になったことはある?」

 

 そこで意見を待つように、楓はテーブルに置かれた緑茶が入った湯呑みに手を伸ばしました。

 昨日もでしたが、楓は最後に意見を述べます。楓達の間で決められている、振り返りなどの際の決まり事ということらしいです。

 

「予想通りだったが、あの鱗は硬かったな。鉄よりも硬い」

 

「竜化した後を考えると、楓の幻想魔法で油断したところを倒せたのは大きかったですね。2人同時であれば負けていたかもしれません」

 

 ふふ~んと得意げな表情を浮かべた楓は並べられたお菓子の1つに手を伸ばします。

 あれは魔法ではなく妖術なのですが……まあいいでしょう。楓がそう説明したのなら、そうあるべきです。

 

「目への攻撃も弾かれた」

 

「伊達に最強の種族と呼ばれていないということでしょう。それでもあの隙が凛の攻撃に繋がったのです。見事でしたよ、葵」

 

「うん」

 

 嬉しそうに微笑む葵と、少し誇らしげな翠と。

 黙々とお菓子へ手を伸ばすユウの膝の上、次の言葉を待ちます。こうした様子を見ていると、なんとも懐かしいというか。こちらのほうが落ち着いていることがとてもおかしくて。

 

「翠ちゃん。打ち上げた時、怖くなかった? うまく打ち上げられた?」

 

「サリアさんの魔法よりもむしろ、私側が万全ではありませんでしたね。まあうまくできたので結果おーらいということで」

 

 最近の女子高生は空高くに打ち上げられても平然と攻撃に移れるみたいです。

 

「……うん、これくらいかな。思いついた対策が超高度からの質量攻撃だけだったけど、無事通用したから問題なし!」

 

 楓はそう言いながら、うんうんと頷きます。そしてチラリとこちらを向き

 

「イナバちゃんからは何かある?」

 

 と問いかけられました。

 なにか、と言われても作戦通り進んだのだから十分でしょう。

 

「各々の長所を活かした作戦、見事でした。ただ、作戦立案という点だけで見れば楓が軸になりすぎているように思えます。なので次の作戦は楓とそれ以外の皆で考えてからまとめてみませんか?」

 

 現状でも適材適所だとは思いますが、楓が欠けた場合に備えたほうがいいように思えます。楓もそれは気づいているでしょうが、仲が良いほど甘くなりますからね。いざという時に踏ん切りをつけやすくするためにも、安全なうちから養っておくべき能力です。それに次の試合ならば多少のミスがあっても問題ないでしょうから。

 

「そうね……うん、次の試合はちょうどいいかも。私も少し悩んでてね」

 

 と、そんな楓の言葉に首を傾げる3人。ユウは最中を食べています。

 

「それじゃあ次の試合の対策に移ろうか」

 

 そう言い楓が目の前の空間を指でつつけば、情報アクセサリーの共有された領域に映像が追加されました。それを再生します。

 

「皆も見てたと思うけど、次の相手の第2試合」

 

「よく録画していたな。まさかこちらが勝つとは思わなかったからあまり見れていなかったんだ」

 

 情報アクセサリーの録画は接続者の視点を録画したものなので、映像の先には10個の仮想ウィンドウが浮かんでいる状態。そう、楓は両チームの全員分の視点を同時に見ていたようです。

 この試合は制限時間が終わるまで続きますので、その間に話を済ませておきましょうか。

 

『ユウ、譲ってください』

 

『譲る、譲らないではないと思うけどね』

 

『私が失敗するまで、見守っていてくれませんか?』

 

 その言葉に返答はありません。ユウはただただ、私の頭を撫でるだけです。

 

『……珍しいね、そんな我が儘』

 

 今度は私が答えません。言い合いになれば負けに進まされてしまうので、ただただ撫でられるだけです。

 

『あれは難しいと思うよ?』

 

『知っています』

 

 とても、とても良く知っています。それでも私は答えを知っている。答え"だけ"を知っている。ゆえに難易度はとても下がっているはずなのです。

 

『まあ何かしようと考えていたわけではないからね。あの子には余裕があるから』

 

『あれだけ調べていながら、それはないと思うのですよ』

 

 おそらく気づいていたのは楓だけ。数多の目を騙し、普通を纏い、それでいて正解に辿り着く情報を集め終える。それがどれだけ難しいことか。

 

『本当にあちらはついでだったんだけどね』

 

 本当に急ぎならば、そう判断してしまったのなら、私は我が儘を言っていないでしょう。あなたが後ろに控えてくれているから、我が儘を言えた。

 

『イナバ、安心して望む通りに動けばいいよ。最悪は訪れさせない。それを見逃すには悲しすぎるから』

 

 それでも楓に危機が迫れば躊躇なく見捨てるのでしょうね。見逃す見逃さないの余裕があるからこそ、選ぶことができるのですから。

 そのあたり、私達は似てるんですよね。

 

『ありがとうございます』

 

 さて、準備に取り掛かりましょうか。

 

 

 

 動画が終わり、皆が何かを考えているように思えます。動作から予想するに動画を見返す人もいて、頭の中で考える人もいて、それぞれです。

 今回は皆が考える場ですからね、これが良いのでしょう。

 

「……各個撃破ではいけないのか?」

 

 そんな静かな場で凛が呟きます。まあ呟きとするには少々大きな声でしたけど。

 

「私もそれで問題ないかと思います」

 

 2人の意見が挙げられ、残り2人。

 

「う~ん……なにか引っかかるな~」

 

 サリアはそう言いながら何もない空間をぴしぴしと指で突つきます。

 

「私もなにか引っかかるけど、わからない」

 

 納得していない言葉と様子と。それでも他の皆の意見が出てしまったから切り上げたのでしょう。夜も更けてきましたし、夜ご飯もまだですからね。

 これですべての意見が出揃ったと楓の言葉を待っていれば、その視線がこちらに向きます。

 

「イナバちゃんは?」

 

 私は答えを知っているので控えていたのですが、まあ提案したのですから意見を挙げるべきですか。

 

「凛と翠を前面に押し出した戦い方で問題ないと思いますよ。ただ、1つだけ皆にお願いがあります」

 

「おお、なにかななにかな?」

 

「次の試合のリーダー役、任せてくれませんか?」

 

 そんなお願いに楓とユウ以外の皆が首を傾げます。

 それはそうでしょう、もともとサリアの枠で参加を望まれていたのは私であり、それを蹴ったのですから。

 

「それは今回だけってことかな?」

 

「出場したいのは今回と、無事に進めば最後の1回。リーダー役は今回だけです」

 

 皆は肯定も否定もしません。これに関しては決定権が楓にあるのですから。

 

「それは私達では負けてしまうからってこと?」

 

「違います。そもそもそのような状況なら潔く負ければいいではないですか」

 

 真剣な眼差しで問いかけてきた楓に、否を告げました。

 楓に出場をお願いした立場で言うのもあれですが、そうなれば別に機会を作ります。この大会、運良く決められたトーナメント表が最適だと考えているだけで、それでなければならないというものではありません。

 

「それならいいよ。交代は……サリアちゃんにお願いできるかな?」

 

「うん。というかもともとイナバちゃんに出て欲しかったんだけど……」

 

 そう言ったサリアが半目でジトッと睨んできました。

 本当はサリアには全試合に出て欲しいのですけど、今は我が儘が優先されるのです。もうやめるなどという選択肢はないのです。2人に願った、その瞬間から。

 

「私とユウは基本的に裏方ですから。それで戦闘に関してですが、私は1人を相手取ります。メンバー1枠を消費して、相手の1枠を消費させたと思ってください」

 

「それは、その1人からの干渉を考慮しなくていいと考えればいいのか?」

 

「そのつもりですが、警戒を怠ることはしないでくださいね」

 

 ふむ、と凛が再び考え始めます。

 

「私達側が苦戦していても助けるつもりはない、ということですよね?」

 

「そこは楓の判断に任せます。楓が必要だと判断して助けを求めてくれば、その時点で可能な対処を行いましょう」

 

 そこに「私が存在していれば、ですけどね」と続ければ、翠も再び考え始めます。

 

「誰を減らしてくれるの?」

 

「今回は黒髪の子を」

 

 予想が外れたのか一瞬だけ僅かに驚いたような表情を浮かべた葵でしたが、すぐに前2人と同じく再び考え始めます。ただしお菓子を手にとって。

 

「さて、ひとまず楓の作戦を聞きましょうか」

 

 頷き口を開いた楓を眺めながら思うのです。今夜は長い夜になるのでしょうねと。


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