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楓の料理 1/1

「おまたせ~」

 

 と、楓は両手のお皿をテーブルに置きました。

 食欲をそそる匂いを振りまくそれは見た目も彩り良いハンバーグプレート。魔法のない現実ならば早すぎる仕上がりなのですが、魔法を活用した調理なので不思議ではありません。まあ覚えて数日の魔法を、魔法を使わない調理法に活用できる練度とセンスは凄まじいですけど。

 しかし、そんな料理が置かれたと言うのに、皆の視線は料理ではなく楓に集まっています。

 

「……イナバちゃん、かな?」

 

 お皿から手が離れることはなく、私を見つめたまま固まっていた楓が口を開きました。そう、人型で再構築した私を見て。

 

「イナバですよ。可愛いですか?」

 

 静かな空間に「ぷっ」という、思わず吹き出したような音が響きます。私の隣から。

 恐ろしく千里眼で見ようとも思いませんが、私の顔は真っ赤になっているかもしれません。強引に引き離そうとした結果なので後悔はしていませんけど、もう少しなにかあったのではないかと反省はしています。

 

「可愛い……可愛い? ううん、綺麗で儚い感じが……」

 

 お皿から手を離した楓が近づいてきて

 

「そう、抱きしめたい感じがする」

 

 そう言いながらギュッと抱きしめてきました。暖かく柔らかでぺったんこで……なんとも楓です。先ほど感じた違和感は一切感じられない、楓なのです。

 

「……おっきいね?」

 

「天然物ではありませんから」

 

 ながもんとかもっとビックなセブンですよ。そもそも"私は"形状などを自由に加工できるのですから、容姿は近しい人に好かれることさえ満たせればどうでもいいのです。

 ……それでもまあ、最初が好かれているというのは嬉しいものでしたけど。

 

「ユウくんの周りにはおっきい娘ばかり集まるね。まあそれは置いておいて。サリアさん、見た感じでいいから食べられないものがないか確認してもらってもいいかな?」

 

「……うん、大丈夫そう」

 

 おっきい娘に疑問符を浮かべていたサリアでしたが、続く楓の言葉に料理をじっくりと眺めて頷き答えました。

 よく似た食材に置き換えられている様子が見られるので、楓はきっと食べられない食材を調べ終えていたのでしょう。短時間ですので完全にとはいかないでしょうけど、既に出回っている情報の中で一般的なものは抜けることなく、すべて。

 天才が八方美人をするとこうなるというお手本のような子ですから。

 

「それは良かった」

 

 そうニッコリと笑われて、サリアは嬉しそうにはにかみながら頬を朱で薄っすらと染めました。

 くるっと周りキッチンへ向かった楓が戻ってくれば、その手には再び別のお皿が。それが数回繰り返され、全員の前にはお皿が2枚ずつ。追加のお皿はご飯かパンが乗っており、私は当然ご飯を選びました。

 

「いただきます」

 

 楓が座り食前の言葉を告げれば皆が続き、静かな間を置いて箸を取ります。早く早くと焦る手を抑えつつも、淀みのない動作でメインディッシュであるハンバーグの端を箸で一口サイズに切り、落とさぬよう慎重に口へ入れれば……。

 

「どうかな?」

 

 皆が一口目を食べ終えただろうタイミングで楓の声が響きます。

 

「おいっしい! 美味しいよ、楓ちゃん!」

 

 この場で楓の料理を食べ慣れていないのはサリアと私だけ。なので口にはしていませんが、皆の表情から大絶賛したサリアと同様の感想が見受けられます。

 

「イナバちゃんはどうかな?」

 

「一流のレストランの料理と比較しても劣らないと思えるほどに美味しかったですよ」

 

 味は。感想としてはがっかりした……いえ、期待しすぎていたというのが正しいでしょうか。

 あれを見て、確実にそうなると心に刻まれて、私がそれを望んで、待っていたのはこの結果。

 確かに楓の料理はうまかった、しかしそれだけなのです。お腹に詰めるだけの料理ならば、その辺のレストランで食べればいいのです。

 

「そっか」

 

 少し残念そうな、それを隠さないような声音に心が揺さぶられます。表情や動作に出したつもりはありませんが、きっとバレているのでしょうね。

 楓は一切悪くありません。それどころか、この年齢でここまでの技術を身につけていることは十分を超えて褒められるべきことでしょう。

 そもそも、です。楓とあの子は運命にとても嫌われていたといってもいいのですから、自然と出会えるはずがなかった。いえ、運命が愛しているからこそ、今回こそはと離している可能性すらあります。

 

「え、皆どうしたの?」

 

 楓と親しいからこそ、楓の僅かな感情の変化も見逃されない。楓は初めて会ったからこそ、それに気づかせない。結果としてサリアだけが蚊帳の外……とは違いますか。

 説明するわけにもいかない、問いただすわけにもいかない、だからこその淀み。

 

「イナバはぼくの料理が大好きだからね」

 

 場に微妙な雰囲気が溢れようとしたところを、わんぱくで勝ち誇るような声が通ります。たった一言、言葉と声音で解きほぐすようなそれは、私のすぐ横から放たれました。

 

「たしかにユウくんの料理は"妙に"美味しかったからね、わかるわかる」

 

 うんうんと頷くサリアが後押しする形となり、場の雰囲気は一転して明るいものとなりました。本当は私が続く言葉を紡ぐべきだったのですが……まあ、負けた気がして。

 

「楓の料理よりもですか?」

 

「気になる」

 

 ユウの料理を知らない翠と葵が興味深げな様子で、ユウへと視線を向けます。本当になにも考えていなかったのでしょうか、しまったという表情のユウが迎えました。

 

「そういえば私の料理は披露させてもらっていませんでしたね。今日の夜、ユウとサリアにはお礼として振る舞うつもりだったのですが、もしよろしければ皆もどうですか?」

 

 その提案によりユウから離れた視線が私に集まったのを好機と判断して、続く言葉を紡ぎます。それは楓に嘘をつかず、他の皆を騙せるだけの言葉でなければなりません。

 

「まあ、楓の料理のあとでは不安しかありませんけど」

 

 正直な感想です。はっきり言って15歳の子供の腕前とは思えません。ヤバいです。

 だから2つの意味でドキドキと高鳴る胸に手を当て、皆の反応を待ちます。

 

「勝負、というわけね?」

 

「いえ、お礼です」

 

 楽しそうにニッコリと笑った楓に対して、水を指すような言葉を返しておきます。楓の勝負は、私の賭けは、今ではなくもっと後ですから。

 

「楽しそうだな。審査員は任せてくれ」

 

「凛は食べる側ですからね。まあ私も楓と勝負しようとは思いませんが」

 

 ほぼ決まりとなった雰囲気の会話を聞きながら、千里眼で街に売っている食材と手持ちの資金から献立を整えていきます。

 当然、楓と同レベルの食材で勝負……などということはしません。使えるものはすべて使えばいいのです。まあ資金的に無理ですが。

 

「ユウ、食べ終えたら食材を仕入れてきます。宿にいてください」

 

「なに、外を見に行かないのか?」

 

「凛のような元気っ子と一緒にしないでください。ユウはひ弱なのです」

 

 まさか試練を終えたその日に街の外に行ったのでしょうか。

 

「凛ちゃん、今日のユウくんを連れ出したら怒るからね?」

 

 しっかりと釘を差した楓と、「しかしだな」と言わんばかりの凛。その様子を見れば2人が親友であるとわかります。そう、とっても大切な、かけがえのない間柄だと。

 それはそうと、箸を動かして残りのハンバーグを堪能します。冷めてしまってはもったいない。

 

「皆、冷めるよ?」

 

 そう警告を鳴らしたのはサリアでした。あの状況の中しっかりと食べ進め、残り少しとなったハンバーグを前にするサリアでした。

 

「しまった」

 

「まずは食べましょうか」

 

 気になって見渡してみれば一番、手が進んでいなかったのが静かにしていた葵という事実。まあ翠が気にしていないのなら問題はないのでしょう。

 それにしても美味しい料理です。そしてこれをさらに美味しくしなければいけません。なので明日からは忙しくなりますね。ああ、楽しみです。


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