足りない1人 1/3
2章終わりまで見直しが終わったので再開です。
もう少し早く投稿できる予定だったのですが……3章が山場に入っていないのに15万超えて意味がわからない(´・ω・`)
待っていてくださった方がいましたら、申し訳ありません。
あと、魔物が少ないので最後に凛ちゃん戦を追加するかも、しないかもしれません(´・ω・`)
賑やかな声の群れ。天に水を撃ち出すオブジェクト。そして突き刺さる数多の視線。
転送先、少しは考慮してくれませんかねぇと考えずにはいられない状況に、それでも目の前で石畳に座る少女――サリアの笑顔が衰えることはありません。
「なんだか賑やかだね」
座ったまま周囲を見渡したサリアは、ここがどこでも構わないと言わんばかりの様子で口を開き終えました。
まずはと千里眼による情報収集を行ってみれば直前の街よりも遥かに規模の大きな街であることが知れ、人の数も同様の変化を見せています。まあ散らばっていたであろう参加者が合流しただけでなく先駆者もいるはずなので、これだけの規模ですらまだ小さいのでしょうか。
さてと。
「とりあえず移動しませんか?」
サリアと同様に座ったまま、兎姿の私を抱きかかえるもう1人。腰まで届く白い髪と赤い瞳を持つ、10歳程度の少女にも見える容姿をした少年――ユウへと提案します。
先程から周囲を見渡し何かを探している様子を見せていますが、まあ探し人でしょう。
「そうだね」
2人は立ち上がりスカートについた埃を払い、人の壁を超えて人の波に紛れるように移動を開始します。
「嬢ちゃん達、あっちにおすすめの宿があるぞ」
「人探しの前に休んだほうがいいぞ」
と投げかけられる言葉は皆、穏やかで優しさが感じられるもの。ぱっと見ですが、ユウ達と同じタイミングで始めた参加者でしょうから、直前までの苦労を理解しての言葉なのでしょうね。
それを理解しているのかしていないのか、サリアは「ありがとう」と告げて手を振ることで応えています。
人混みを抜けて、両側に建物が並ぶ大きな道。2人は足の動きをやや緩めました。
「まずはどうするの? 景品の館を探してみる?」
目指す先として挙げられたのはサリアに贈られた館。私に贈られた館。サリアの望む1部屋が存在する館。
『ありがとう』『でも私は大切な1部屋だけが欲しいから』『残りはイナバちゃんにあげる』
試練を突破した笑顔咲き誇る場所での出来事。つまり、あそこは私の館ということであり、今はそれ以上の意味は必要ありません。
私もユウとの1部屋があればよかったので、残りは何かに利用しましょうか。
「いえ、波風を立てないために少しだけ間を置きましょう。登場が目立ちすぎました。それに一般的な宿を知っておくというのも悪くないですから」
どうやらこの街にもくじ屋があるみたいですから、特等だったはずの館に来てすぐに向かうことで運営側や先駆者の上位陣との繋がりを勘ぐられても面倒です。
それに、この世界の一般的な宿を知っておくことはサリアにとっても良い経験となるでしょう。
「そうだね。前回も高級宿だったみたいだし、普通の宿ってどんなところなんだろう~」
そう言ったサリアは鼻歌でも奏でそうなほどに上機嫌です。まるで"普通の宿"を知らないと思わせるほどに楽しみにしているように思えます。『なんだか思ってたのと違う』と呟くのが目に見えるようです。
さて、と。
「ですがその前に、先に来ているはずの凛を探しましょうか」
「え、でも人探しの前に休んだほうがいいって言ってたよ?」
「私達と同じ場所で試練を受けた多くの人にとって、凛は英雄です。憧れ、感謝、賞賛、それらの声が凛の位置をすぐに知らせてくれるでしょう」
歩きながら聞いた声で既に宿はわかっていますし、なによりこの子のためにも。街の声から安全とわかっているからこそサリアを優先していますが、それを知らなければ真っ先に探していたでしょうから。
そう考えつつも上を向いてみれば普段と変わらぬ表情が1つあり、少しだけ強められた腕が私を包んでいます。
「あ、そっか。ちょっと待っててね……」
サリアはそれだけを言い残し、足を止めて誰もいない空間に視線を向けます。集中しているようですが今は道のど真ん中、端にある木の陰に備えられたベンチへの移動を提案しようと思えば、私が口を開く前にサリアの口が開きました。
「宿屋シンカイ・オオマグロに誰かと一緒に泊まってるみたい。そこに行けば会えるかな?」
ほう、と感心してしまいます。それは私が道行く人々の声による情報から到達した結果と同じ場所であり、千里眼から間違いではないと確認しています。
つまりサリアは僅か数秒で答えに到達したのです。事前に調べ始めていたのならその限りではありませんが、サリアですから。それにこの場所に転送されてから調べ始めたとしても十分に優秀な結果といえるでしょう。
「ユウ、どうしますか?」
今まで黙っていた最後の1人に問いかけます。
言葉にすべきであると、知りましたから。
「ぼくたちは運が良いね。この先の素材屋にいるみたいだから、そこに向かってみようか」
「え、そうなの?」
「ぼくは少しだけ耳が良いから、たまたま歩いている人達の会話が拾えたんだよ」
ユウはそう言って自分の耳を指差します。耳も良いのでしょうけど、それよりも音に関する処理能力に優れている気がしますけどね、私は。
「初めての街で緊張してるのかと思ったら、それに集中してたんだね。それならそこに行ってみよう!」
サリアはおー、と握った手を挙げ、意気揚々とユウの手を引きながら先へと足を進めます。




