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鎌は常に首元に 1/2

 部屋に戻り、保存庫からお菓子を取り出す。部屋にこもっている間に食べていたので少なくなっていたが、小腹に挟む程度は残っていて安心した。

 それもこれも、どこにも食材すら売っていないからだ。イナバちゃんの手作り料理を、食べられないのだ。

 

「適量、ですか」

 

 テーブルに置かれたお皿に並べたお菓子を見てイナバちゃんが呟く。

 なんだか褒められたような、そうでないような。

 

「さて、サリア」

 

 私が座ったところで名を呼ばれ、少しだけドキリとする。

 まだすべては明かしていない、明かすつもりもない。その秘密を問われたかと思えばしかたのないことだろう。

 

「あなたは今回の魔物、オリハルゴン・ゴーレムについてどこまで知ることができましたか?」

 

 違っていたことに安堵しながらも、掲示板で集めた知識を総動員する。とはいっても、もっとも重要だったほとんどのプレイヤーが参加した『決戦』に関する情報は知らないのだけど。

 だって、書き込んでくれる人が誰も残っていなかったのだから。

 

「魔法は通用せず、魔法により生じた現象も無効化される。外殻と呼ばれるアダマンタイトで作られた身体はすごく硬くて、並の武器ならば弾かれてしまう。ゴーレムに見られる時間経過によって引き起こる魔力不足による行動不能および外殻の消失はない、あるいは想定しないほうがいいほど長時間、動き続けられる。あとは挑戦したパーティの人数によって魔物の数が変動する。くらいかな」

 

 竜人種の彼が負けた理由はきっと、パーティの人数による魔物の数の増加が原因だろう。一般的な竜人種で1体程度なら難なく撃退できると聞いたことがあるから。

 それにしても、自分でも驚くほど冷静に説明できたと思う。ほんの数時間前なら怯えて震えて、最後の情報なんて口に出せなかっただろう。

 

「凛と竜人種の彼が参加した"最後の"闘いは見ていませんね?」

 

「……うん」

 

 見ていれば、その状況にあれば参加できていたと思う。

 そう思いながら並べられたお菓子の1つへと手を伸ばす。どこの世界のお菓子か知らないけど、こっちのクッキーと同じ見た目をしているのに味が段違いで、あんな状況でもつい手を伸ばしていた。

 まあそれがなければ、おそらく餓死していたのだろうけど。

 

「それでは追加情報を。魔法が通用しないということはありませんし、むしろ完全に消滅させるためには魔法が必須ともいえます」

 

「……え?」

 

 思わず手からクッキーを落としそうになった。結果、とっさに強く握ることになって砕け散ったのだけど。

 

「それがあなたを誘った理由の1つでもあります。あなたにはトドメをお願いしたいのです」

 

 魔法が通用するのなら、魔法が必須であれば、エルフの里は壊滅しなかったはずだ。魔法だけなら竜人種すら凌ぐと聞く種族なのだから。

 

「ど、どういうこと? 実は魔法が弾かれるんじゃなくて、特定の魔法が弾かれていたっておちかな?」

 

 自分で言いながらも、それはないだろうと思う。

 エルフは種族全体で見れば特定の魔法だけを使うことはしない。そのすべてを修めてこそ魔法の頂点と呼ばれるに相応しいのだから。

 少なくとも、首都の掲示板ではそう言われていた。同時に固有魔法の存在に唸っていたけど。

 

「外殻の素材であるオリハルコンと呼ばれている金属に関しては魔法を弾きます。正確には違うのですが、まあいずれ知れるかもしれませんね」

 

 こぼしたクッキーの欠片を一箇所に集め終え、新たなクッキーを手にする。

 今度は砕けませんようにと思いながら。

 

「逆に外殻に包まれた核と呼ばれる部分に関しては一切の物理攻撃を遮断します。だから魔法による鑑賞が必要なのですよ。まあそれ以外の方法もありますが、この街で聞き及んだ情報からあなたの世界による戦闘能力を予想するに、これが一般的な方法となるでしょう」

 

 つまり私が来た世界になかった戦闘能力、情報体なら……そう思い胸の前にさげられた銀色のネックレスを握ってしまう。クッキーを持っていない方の手で。

 

「そう、情報体ならば外殻と核の両方に有効だを与えることは可能です。オリハルゴン・ゴーレムはあくまで魔法と物理に対して強力な存在でしかないので」

 

 物理、魔法、情報体。それ以外で聞き及んだ情報といえば最初の説明でちらりと出てきた、掲示板にも時折、出てくる『妖術』と『天術』しか思い浮かばない。書き込みがあった内容であれば魔法でも同じことができるから、どちらも種族差による魔法の別称かと思ってたけど違うものなのだろうか。

 

「そうなると……物理で外殻を壊して、剥き出しになった核を用意しておいた魔法ですぐに壊すのかな?」

 

 一定時間が経過すれば再び外殻を生成すると聞いているから迅速な攻撃が必要になるはず。そうであれば魔法は事前に準備しておくべきだ。

 

「そうなります。しかし核に干渉するにはそれなりの規模が必要になるので、核を壊す魔法を編む人はそちらに専念した方が無難でしょうね」

 

 それなりの規模とはどれくらいなのだろうかと、少し気になった。

 まさか……『都市破壊魔法レベルじゃないよね』と聞きたいけど、聞くのが怖い。

 

「まあ必要な情報体は準備しましたので、それを起動させるだけでかまいません。詠唱が長くエネルギー操作が複雑になりますが、どうですか?」

 

 それは『できるのか』と問われているようで。自信がなければ別を用意すると言われているようで。

 銀色のアクセサリーを強く握り、頷く。

 大丈夫、私ならできるから。

 

「そうですか。それでは託しましょう、1つの魔法を」

 

 嬉しそうな笑顔を浮かべたイナバちゃんが言い終えると同時に、視界に拡張ウィンドウが映し出された。内容は未知の相手と接続するかどうか、情報体を受け取るかどうかだ。

 手を動かすことなくその両方に許可を出せば、情報体が追加された旨が表示された。

 

「相変わらず、それの扱いがうまいですね。それも初日から」

 

「うっ……知ってたの?」

 

 ユウくんの膝を枕に唸っていた時のことだろう。あの時は扱いの違いに困惑していたけど、あとから思えば慣れるのは"とても"早い方だったみたいだ。

 

「最初は扱い方に、掲示板に接続するのに戸惑っているかと思っていたのですけど、転送直後に間違いだとわかりました。『風魔法』の情報体でどこまでの魔法が扱えるか試していたのですよね」

 

 チュートリアルのあの声に教えてもらったもの以外の魔法も使えるのではないかと、"使いたいと"思って、魔法が魔力の操作によってその規模を変えるように情報体に流すエネルギーを操作して。

 結局は魔法と似たようなものだとわかったから、小さな小さな旋風の魔法を発動させてみた。無詠唱で、エネルギーだけで。

 それはすぐに霧散してしまった拙いものだったとはいえ、無詠唱魔法の可能性に心が踊った。

 まあ実践で使えるかといえば……無理だけど。規模や精度、なにより相当、集中しないと発動すらできずに暴走してしまうと思う、あれは。

 さて、そんなことは置いておいて受け取った情報体を確認しないと。そう思い今はもう慣れた操作で、情報アクセサリーに備わった倉庫を確認してみれば……おおぅと心の中で唸ってしまう。情報体が1つではなかったのだ。

 

「これ、もしかして同時に使うのかな?」

 

「ええ」

 

 当然という表情で、まったく心配していないという雰囲気で、お皿に並べられたお菓子に手を伸ばしたイナバちゃん。

 風魔法の情報体しか使ったことはないけど、仮にあれを2個同時に起動させるだけでも戦闘中は無理だと思う……けど、私にできることがあるのだから、足手まといじゃなくなれるのだから、やりたい。

 だから「できない」なんて、言わない。


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