02-b1
「透過光がねぇーーーーーーーー!!!!!」
俺の絶叫が風呂場に木霊する
「とうかこう?」
「いえ、何でもありません、コッチの話デスョ?」
ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!
この状況は、色々とヤバイ気がする!
プラスチック製の手桶に張られたお湯につかりながら、この状況を打開する方法はないかと、俺は考えを巡らせた
巡らせた
めぐ…
「巡るかーーーーーーーーーーい!!!!!」
テンパって思わず自分に突っ込む
「さっきから君は、ひとりで何をブツブツ言っているのかな?」
ザバーッという音と共に、背後で茜が湯船から上がる気配がする
「あ、茜さん?一体何を・・・」
前を向いたまま尋ねる
「え?体を洗うんだよ」
「あ?あー、なるほどねー、それでは私は一足お先にあがらせてもらうとしましょうかねぇ」
そう言って風呂場を出て行こうとすると、背後から鷲掴みにされる
「何を言っているのかな?"君の体"を洗うんだよ?」
「いやいやいやいやいやいやいやいやいや、幾ら何でも流石にそれはマズイでしょう」
「どうして?」
「いやほら、こう見えて私も男ですし、ねぇ?」
「君が雄だというのは、喋り方でだいたいわかっていたよ。だから何?」
「判った、こうしよう、自分の体は自分で洗う、それでどうだろうか?」
「だーめ!君の世話は私がちゃんとするって、お母さんと約束したんだから。それに、ノミが湧いたら大変なことことになっちゃうよ?」
ダメだ、この子本気だ・・・
こうなったら実力行使しか無い!
俺はもがくと茜の手をすり抜けた
しかし、茜はこれを予想していたのか、風呂場のドアを直ぐに押さえる
咄嵯に窓の方を見るが、窓には鍵がかかっていた
「怖がらなくても大丈夫だよ、優しくしてあげるから・・・」
「嫌だ・・・来るな!こっちに来るんじゃない!」
しかし狭い風呂場の中に逃げ場所はなく、俺は壁際に追い詰められる
「大丈夫、少し目を瞑っていれば、すぐに終わるから・・・」
茜がにじり寄って来る
いやお前、その顔は完全に楽しんでるだろ?
そして俺は捕まり、体の隅々まで洗われてしまいました
「あっ!そこは・・・そこはらめぇ~~~!」
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「穢~さ~れ~た~~~(泣)」
ドライヤーで乾かされながら俺は泣き崩れた
「何を言っているのかなぁ?ちゃんと綺麗に洗ってあげたでしょう?」
ドライヤーで俺を乾かしながら、茜が切り返す
"確かに身体は綺麗になったよ・・・
身体はな!だけど俺の心は・・・心は・・・"
「穢~さ~れ~た~~~(泣)」
再び俺は泣き崩れた
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「そうだ、首輪を買ってこなきゃ」
部屋に戻ってきて直ぐに茜はそう言った
「首輪?」
「そうだよ、君の首輪だよ」
「俺の首輪!?俺に首輪を付けるのか!?」
"え?何言ってるのこの子?怖い!"
「でも、首輪をしていないと保健所に連れて行かれるかもしれないよ?」
「保健所・・・だと・・・?」
考えてみれば確かにそうだ
今の俺は唯の小動物、鑑札が無ければ野良として処分されてもおかしく無い
「な・・・何て事だ・・・orz」
現実が俺を打ちのめす
どうしてだ・・・どうしてこうなった?
「それと、君の名前も決めなきゃいけないね」
「名前?」
「そうだよ、いつまでも"君"じゃ不便でしょう?」
「・・・」
俺は何も答えられなかった
俺はいまだに記憶の一部を失っていた
そして、その中には俺の名前も含まれている
「俺は・・・」
「え?」
俺は、あの時のことを思い出していた
そう、モーネと、あの羽虫と初めて会ったときの記憶だ
「俺の名前は、へべれけ」
「へべれけ?」
「そう、"へべれけ"だ」
「・・・そっか、じゃあ"へべくん"だね!」
そう言って茜は、無邪気な笑顔で笑った