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へべれけ!  作者: へべれけ
第11話
59/72

11-b1

其れは唐突に起った


俺達が何時もの様に河原で翠の練習をしていると、何か、こう、巧く言い表せないが、嫌な感覚がしたのだ

そして、俺が状況を把握するより早く葵がこう言った


「何かが・・・結界の中に入って来たわ」

葵は河原沿いの土手の方を睨み付ける

この一帯は、翠の練習をする為に葵が結界を展開していた

結界の内部は通常の空間と位相がズレている為に普通の人間は進入出来ない

もし其れが出来るのならば其れはー





ソレは土手の向こう側からゆっくりと姿を見せた

上下揃いのスーツを身に着けてヨロヨロと覚束ない足取りで此方の方に近付いて来るその姿は、まるでゾンビか泥酔した中年のサラリーマンの様だった

いや、実際にその人は元々は普通のサラリーマンだったのだろう

頭が項垂れているのでその表情は判らないが、既に意識は失っている様に見えた

その男は土手を降りようとして足を踏み外し、そのまま斜面を転げ落ち河原の上で止まる


「「あっ!」」


「待て!」

男が斜面を転げ落ちるのを見て慌て駆け寄ろうとした茜と翠を制止すると、俺は茜の肩口から降りて様子を伺う

暫く待ってみたが、斜面を転げ落ちた男はピクリとも動かない

葵はワンドを構えて警戒しているが、翠は顔を蒼くして震えながら転落した男を見つめていた

茜に至っては、制止していなければ今にも男の元へ駆け出して行きそうだ


"これ以上は茜を抑えられないか?"

俺が覚悟を決めて男に近付こうとした瞬間、男の身体がビクンと跳ねる

そしてその身体からドス黒い瘴気の様なモノが吹き出し、男の身体を包み込んでいった


━━━━━━━━


男の身体の中から瘴気の様なモノと一緒に鈍く光る妖魔の核が現れた

その核を確認すると同時に葵が飛び出して行く


「You be my sword, and subjugate my enemy.Raptor blade!」

葵が呪文を詠唱するとワンドの先端から光の刃が現れる

そしてその光る刃が核を切り裂こうとした瞬間、ソレは眼に見えない何かに弾かれた


「何?」

葵の顔に困惑の表情が浮かぶ

その一瞬の隙を突く様に核の下部から荊の様な触手が延びて葵に襲い掛かった!


「くっ!」

葵は光の刃で触手を薙ぐと後方へ飛び退くが、其れを追撃する様に別の触手が迫る

そして、その触手が葵の足を搦め捕ろうとした刹那ー


「葵ちゃん!」

茜のロッドがソレを弾き飛ばす!

一旦後方へと下がり妖魔の核から距離をとって対峙する二人

其れを待っていたかの様に妖魔の核は、その荊の様な触手を足元で倒れている男に絡み付けて行く

そして周囲に纏った瘴気が晴れた時、其処には丸い身体から細長い脚の生えた様な形状の妖魔が立っていた


━━━━━━━━


「It's a gale!It'll be my blade, cut and tear that's person!」

詠唱と共にロッドの先端に形成された光の刃が妖魔へと打ち出される

しかし、その刃は妖魔の身体に届く事は無かった

妖魔の手前で、何かとても硬いモノに当たったかの様に砕けて霧散してしまったのだ


「何なのよ一体!」

悪態を吐きながらも、再びロッドに光の刃を形成すると、葵は妖魔に斬りかかる

だが、その一撃はやはり妖魔の手前で弾かれた

その反動で体制が崩れ、其れを狙っていたかの様に妖魔の触手が葵を襲う


「せええぇぇぃ!!!」

触手が葵に触れようとした刹那、茜が妖魔の死角から渾身の一撃を放った

その一撃で妖魔は十数メートル程弾き飛ばされ、土手の斜面に激突し漸く止まる


「やったか?」

少し離れた場所で翠の肩越しに茜達の闘いを見ていた俺は、誰に言うとも無く期待を込めてそう独りごちた


「いいえ、未だよ」

俺の問に答える様に葵が呟く、そして其れを合図にしたかの様に妖魔が起き上がった


━━━━━━━━


「全くもう!キリがない!」

葵がそんな事を叫びながら攻撃魔法を放つ

しかし、その魔法は妖魔に届く前に、何か透明な壁の様なモノに遮られてしまっていた


「流石に此れは、ちょっとキツイかな?」

茜も珍しく弱音を吐いている、其れは度重なる攻撃が妖魔に効いている様には見えないからだ

実際、茜の攻撃は妖魔に届いている様に見えたし、茜の攻撃によって此の妖魔が弾き飛ばされた事も一度や二度ではない

だが、その度にこの妖魔はまるで無傷で有るかの様に立ち上がって来るのだ

いや、実際に無傷なのだろう

何故なら、妖魔の動きは始めの頃から少しも衰えてはいないからだ

妖魔故に疲労は無いとしても、ダメージによる能力の低下は有るはずだ

しかし、この妖魔からは其れが少しも感じられない

このままでは、此方の方が疲労によって疲弊してしまう事になる

既に二人共動きが緩慢になって来ている

このままでは孰れ・・・




最悪の事態が一瞬脳裏を過ぎり鼓動が早くなり呼吸が荒くなる




良く見ろ!もっと良く見ろ!!もっともっと良く見るんだ!!!

俺は自分に言い聞かせる

この小動物の身体で出来る事は余りにも少ない

だけど、出来る事が無い訳では無いんだ!

だから俺は、今、自分に出来る事をする


良く見ろ!もっと良く見ろ!!もっともっと良く見るんだ!!!

無敵なんてあり得ない

この手品には必ずタネがある


だから、どんな些細な事も見逃さない

其れを見つけ出す為に

そして、この現状を打破する為にー

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