11-b2
ガッキィィィィン!!!
甲高い音と共に茜の攻撃が弾かれ、その一瞬の隙を突いて妖魔の触手が襲いかかる!
「It's a wind!It'll be one thousand blades of blade,mince my enemy!」
しかし、其れを予測していたかの様に葵の放った魔法が触手を切り刻んだ
「やっぱりダメだわ、触手は切れるけど本体には届かない・・・」
葵は少し疲れた様に呟く
「だったら・・・此れならどう!?茜!」
「うん!」
葵の合図と共に茜が後方へと飛び退き距離を取る
其れを追って妖魔が前進した
其の瞬間を狙って茜は着地すると、足元の地面をロッドで蹴り上げた!
「Word of it starts.The way it should be things to be there.Revert to Lili the Lili.Di spell magic!」
そして其れにタイミングを合わせて、葵がディスペルを詠唱する
ドン!と言う鈍い破裂音と共に茜の足元の地面が削れ、土砂や礫が高速の散弾となって妖魔を襲う
ディスペルによる結界の無効化と強力な物理攻撃のコンビネーション
理屈の上では防ぎようが無い筈だった
しかし、土煙の向こうから姿を現した妖魔は全くの無傷であった
「如何して・・・?」
アンチ、カウンター、ディスペル、思い付いた事は全てやった筈だ
しかし、妖魔の守りを崩せない
魔法的な結界ではない?
だが、単純な防御力でも無い
そして、その複合的なモノでも無かった
最大の謎は、此方の攻撃は一切通じないのに、向こうは触手を使って攻撃して来る
結界にしろ何にしろ、あの触手はどうやってその境界を超えている?
「解らない・・・。一体何なのよ!もう!!」
ゆっくりと迫り来る妖魔を前に、葵は軽い絶望感に襲われていた
━━━━
「今のは何だ?」
妖魔と二人の闘いを観察していた俺は奇妙な違和感を覚えた
茜が地面を凪いで土砂と礫の散弾を妖魔が受けた時、土砂の一部が妖魔の上空で止まった様に見えたのだ
それはまるで、透明なガラスの上に土を被せた様な、そんな感じのモノだった
「あの妖魔、周囲を透明な何かで覆われている?」
結界的なモノでは無い
もっと、こう、物理的な何か
"唯の思い過ごしかもしれない、だが・・・"
この状況を打破する為に、やれる事は全てやるべきだ!
俺は念話の回線を開くと茜と葵に考えを告げた
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爆散した土砂が妖魔を穿つ
しかしそれは、妖魔の身体に届く前に透明な壁に弾かれてしまう
だが、葵にはそれで充分だった
「そう、そう言う事なのね」
へべれけから連絡を受けた後、葵は視点を変えて考えてみた
要は固定観念を捨てて、現状を再現出来る状況を消去法的に洗い出したのだ
後は、その一つ一つをしらみ潰しに検証して行けば良い
茜と協力して其れを行なった結果導き出された答えはー
「魔力・・・障壁」
葵はボソリと呟いた
術式なんて高度なモノじゃ無い
唯、単純に魔力を集積しただけの代物
アンチもカウンターもディスペルも効かない?
当然だ、其れらは全て対抗"術式"なのだから
術式ですらない唯の魔力に効果なんてある訳無い
妖魔の触手に干渉し無いのは、ソレが何方も妖魔を構成する"要素"の一部だからだろう
状況は判った
手品のネタは破れたのだ
だが、如何すれば良い?
物理的な攻撃を防ぐ程に集積された魔力の壁
しかも其れは元が同じである為に魔法にも効力を持つ
もし、アレを打ち破れる方法が有るとしたら、其れはアレと同等以上に集積した純粋な魔力を打つけるしか無いだろう
だが、ソレは不可能だ
人の詠唱速度には限界が有る
唯でさえ希薄で拡散し易い魔力を物理干渉が出来る程高密度に集積する事など、翠の"賢者の瞳"を持ってしても不可能に違い無い
第一、仮にソレが出来たとしてその後は如何する?
如何やってアレを打ち破る?
解らない
解決策が見つからない
やれる事をやった結果が"もうこれ以上やれる事は無い"とは中々洒落が効いているわね・・・
そんな事を考えていたその時ー
「葵ちゃん!」
茜の叫ぶ声が聞こえて、葵はハッと我に返った
迫り来る触手を寸での処で躱し、妖魔との距離を取る
闘いの最中に物思いに耽っていた
自分の不甲斐無さに軽く舌打ちをすると、下唇がズキリと痛んだ
無意識の内に噛み締めていたらしい
周囲を確認し状況を再認識すると、茜は飽く事なく妖魔へと突撃を繰り返している
その瞳に諦めの色は無い
「そうだった・・・わね」
頭を振って雑念を払う
「私ではダメでも・・・」
視線だけを動かし少し離れた処で此方を見守っている翠を、その肩口にいるへべれけを見詰める
其れはもしかしたら唯の現実逃避
例え時間を掛けても如何にもならない事なんか幾らでも有る
だけど、へべれけならー
「だったら、私はー」
葵は軽く深呼吸して息を整えると妖魔へと駆け出した
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「魔力障壁・・・」
俺は独りごちた
葵の言った事が確かなら魔法も物理攻撃も効果が無いと言う事になる
「そんなモノ一体如何やって・・・」
「へべちゃん?」
その声に振り向くと翠が心配そうに俺を見詰めている
その時になって初めて自分が考えを口にしていた事に気付く
「大丈夫だ、俺が何とかする!」
翠にというより、自分に言い聞かせる様に俺は大きな声で言った
だが、どうする?
如何したら良い?
様々な考えが頭の中を巡る
しかし、其れらは全て断片的なものばかりで何一つ纏まらない
"如何する?撤退するか?だけど其れでは・・・"
「きゃあぁぁぁ!」
その時、俺の耳に茜の悲鳴が聞こえた
慌てて声のした方を見ると、触手に弾かれる茜の姿が目に入った
コスチュームの一部が斬り裂かれ風に舞っている
茜自身は空中で一回転して態勢を立て直すと、再び妖魔へと向かう
本来なら茜の身を案じる処だが、俺の意識は風にはためくコスチュームの切れ端に向けられていた
頭の中でバラバラだった様々な知識や考えが、まるでパズルのピースが組み上がって行く様に纏まって行く
「出来る・・・のか?」
そうじゃない、やるんだ!
「翠!お前の力が必要だ!」
俺は、翠を真っ直ぐに見詰めると、その考えを話し出した
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「時間を稼げとは、簡単に言ってくれるわね!」
葵は触手を斬り払うと後ろへ跳んで妖魔との距離を取った
「でも、やるんでしょ?」
入れ違いに茜が妖魔に突撃する
そのすれ違い様に茜は葵に語り掛けた
茜の放ったロッドの一撃は妖魔の魔力障壁に防がれてしまったが、その反動で妖魔が後ずさる
しかし、茜は追撃する事無く後退した
「当然よ!」
後退した茜に変わって葵が再び前に出る
茜と葵の二人による相互連続攻撃
その圧倒的な手数は、妖魔の手傷を負わせる事は出来なくとも、その動きを完全に封じ込めていた
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翠の掲げるスタッフの先に7つの円環が有った
其れは、スタッフの先端を共通の基準点として設定され、其々がルーンリーダーとルーンを有する独立した詠唱ユニットとして構成されていた
其々の詠唱ユニットは、その円環の中心軸がスタッフの中心軸に同期されている事を除けば、魔力を集積するだけの極めて単純なモノだ
翠は、唯、黙ってへべれけを見つめた
へべれけも、唯、黙って翠を見つめ返す
数瞬の後、小さく深呼吸をすると、翠はスタッフの先端を妖魔へと向けた
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妖魔の攻撃で斬り裂かれた茜のコスチュームの切れ端を見た時、何故か俺の頭に浮かんだのはタルチョの事だった
タルチョとはチベットで使われている五色の祈祷旗の事だ
その旗には経文が書かれ、その旗が一回翻る毎に其処に書かれた経文を一回読経したのと同じ事になるらしい
何故俺がそんな事を知っていたのか?
多分、ネット色々で調べている時に見た事があったのだろう
だが、重要なのはそこでは無い
本当に重要なのはソレから俺が連想したモノだ
ソレから俺が連想したモノ、其れはニマ車だった
━━━━
マニ車
其れはチベット仏教で使われる仏具の一つ
マントラの刻まれたドラムの中に経文を納めたモノだ
そして、このマニ車はタルチョと似た特性を持つ
つまり、そのドラムを回転させると回転させただけ中の経文を読経したのと同じ事に成るのだ
ソレがルーンリーダーを使用した詠唱システムに似てると俺には思えた
元々、翠が幾ら練習を重ねてもある時点から効果が上がらなくなった理由の一つにルーン制御の複雑化がある
上から下へ、左から右へ、単純な2次元上の動作に思えても複数の動作を適切なタイミングで切り替える為には其れなりの集中力が必要になる
増して、複数のルーンを並列的に制御する場合、その労力は乗数的に膨れ上がる
だが、もしソレが円環状のルーンであったなら?
十数文字程度のルーンの終わりと始めを円環状に繋げる事が出来たなら?
その円環の中心軸に沿って回転させる事で極めて高速で詠唱可能なのではないか?
つまり、俺が考えたのはそんな思い付き程度の事だったのだ
だが、其れで十分だった
もちろんその程度の文字数ではまともな術式は展開出来ない
しかし魔力を集積させる事位は出来る
そして、俺の考えが正しいならー
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ルーンの円環が回り始める
始めはゆっくりと、しかし時間と共にその速度は上がって行き、仄かに輝くルーンの判別すら出来なくなる
軈て其れは一つの光の帯となったが、その加速は止まらない
一回転に付き一回の詠唱
其れが可能であるならば、その詠唱速度は円環の回転数に比例する
そして、その回転数が一定数を超えた時、その詠唱速度はー
音速を突破する!
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其れは小さな変化だった
スタッフの先から伸びた円環の中心に陽炎の様な揺らぎが生まれたのだ
しかしその揺らぎは時間と共に大きくなり、やがて光を放ち始める
其れこそは魔力の光
本来、感じる事さえ叶わぬ程希薄な魔力が、超音速の詠唱に寄って視覚化する程高密度に集積されたモノだ
そして其れは俺が求めたモノでもあった
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「あっ!」
茜のロッドが地面を叩き爆音と共に土砂を巻き上げる
本来、妖魔を後退させ一時的にしろ動きを停める筈だったその一撃は地面に小さなクレーターを穿っていた
茜がその一撃を外した理由は、攻撃が当たる直前に妖魔が動きを変えたからだ
しかし、其れは妖魔が攻撃を回避したと言うより、偶然に近いモノだった
実際、妖魔は急に茜達を無視して戦闘エリアから離れた所で様子を伺っていた翠の元へと向かっていた
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恐らく高密度の魔力に気付いたのだろう、妖魔が此方へと一直線に向かって来る
だが其れは好都合だった
今の翠に回避行動をする相手を狙撃する事は不可能だ
だが、真っ直ぐ此方に向かって来る相手であれば可能性は有る
チャンスは一度
外せば相手は次の攻撃は回避しようとするだろう
そうなれば最早手の打ち様が無い
茜と葵には既に連絡を入れて待機させている
「落ち着いて狙うんだ」
俺は翠の耳元で囁いた
ふと、前を見ると翠の顔の前に魔方陣の様なモノが浮かんでいる
その魔方陣に顔を近づけると前方の景色が大きく見えた
"此れは・・・スコープ?"
その中心には妖魔が写し出されている
俺は妖魔の姿をもっと良く見ようと、翠の頬に押し付ける様に顔を近づけた
「へべ ちゃん・・・」
「ん?」
「お髭が・・・」
「おっと、済まない」
慌てて顔を離そうとする俺を、その手でそっと押さえる
「ううん、良いの。だからちゃんと私を観ていてね」
翠はそう言うと迫り来る妖魔に意識を集中した
━━━━
爆音と共に最後尾の円環が崩壊する
其れが引き起こすのは集積された魔力の暴発!
だが、唯の暴発では無い
其れは計算され、制御された指向性を持った暴発だった
その威力は前方へと収束され、直前に配置された詠唱モジュールを崩壊させる
その崩壊は更なる崩壊を呼び、7つの詠唱モジュールを連鎖的に崩壊させた
本来ならそれで終わる筈だった
集積された魔力は速やかに拡散し、物理的な影響は殆ど無い筈だった
だが、視覚化する程に高密度に集積された魔力は拡散しない
いや、拡散しきれなかったのだ
結果、その魔力の固まりは連鎖的な指向性を持った暴発によって加速される事になる
正に"ソレ"は魔力によって形造られた砲弾そのもの
そしてソレを打ち出すその技は、強いて言うなら"魔砲"と呼ぶべきものだった
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凄まじい衝撃が周囲の土砂を吹き飛ばし土煙を巻き上げる
高密度の魔力と魔力の激突が衝撃波を発生させたのだ
其れ等は、互いに同種のモノで有るが故に相互に侵徹し侵食し、そして崩壊した
或いは、妖魔がその衝撃に身を任せていればその衝撃を受け流し結果は違っていたかもしれない
だが、妖魔は抗った
その細く長い脚を地面に打ち付け耐えようとした
その結果、魔力障壁の崩壊に自身の外殻迄巻き込まれ、その無防備な核を晒す事になった!
「今だ!」
へべれけの声に応える様に、土煙を貫いて二つの影が飛び出す!
そして、その影が交差した時、妖魔の核が砕け散ったー
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「今回は・・・本当にギリギリの勝利だったわね・・・。いえ、今回も・・・かしら」
帰り道の途中で葵が誰にともなく呟いた
「そうだね、へべくんと翠ちゃんが居なかったら、私達・・・」
葵の呟きに茜が応える
「最近、妖魔が強くなって来ている。其れも異常な速さで」
「それは・・・。でも、きっと大丈夫だよ。 へべくんも居るし、私達はもう一人じゃ無いんだから」
そう言って茜は葵に微笑み掛けた
「そうね、でも・・・」
葵はそこで言い淀む
今はまだ力を合わせれば対応出来る
しかし今後もこのまま勝ち続ける事が出来るのか?
いつか限界が出来るのではないのか?
そんな不安が頭から離れない
でも、どうしたら良いのか判らない
葵は、ちらりと茜を見た
その視線に気付いた茜がにっこりと笑う
葵はその笑顔を見て少しだけ心が軽くなった様に感じた
「そうね、私はもう一人じゃないんだものね・・・」
小さな声でそう呟くと、葵は話題を変える為に翠へと話を振った
「ところで、翠」
「何?葵ちゃん」
「貴方、さっきからずっと締まりの無い顔で笑っているけど、どうかしたの?」
「え?そうかなぁ?そんな事ないよぅ」
にへらっとした顔のまま翠が答える
「そう言えば、左のほっぺたをずっと抑えているよね?」
茜も翠の様子が気になっていた様だ
「これぇ?これはねぇ・・・へべちゃんがちゅって・・・///」
「「「はぁ!?」」」
翠の予想外の発言にその場が凍る
「「へべくん(れけ)!?」」
「いやいやいやいやいやいや、翠さん!?」
「えへへへへぇ///」
ダメだ・・・なんかダメだこの子!
二人の視線が痛い
背後には燃え盛る炎が見える様な気がする
考えろ!考えろ!!考えろ!!!俺!!!!!
第一俺はそんな事・・・
その時、翠が魔砲を打ち出す時の記憶がフラッシュバックする
あの時、翠は俺を自分の左頬に押し付けた
そう言えばその時口元が触れた様な・・・
「あ・・・」
「「あ?」」
二人の声がハモる
「"あ"って何?ねぇ、"あ"って何?へべくん!」
「違う!事故だ!そう、事故だったんだよ!」
「へぇ、事故?事故ねぇ・・・だったらその事故に付いて、詳しく聴かせて貰いましょうか!?」
二人に鷲掴みにされる俺
「だから~、ヒゲは引っ張らないでぇ~~」
夕暮れの街に俺の悲鳴が木霊した




