10-b2
ボフン!と派手な音を立てて魔力が暴発する
その後も翠は諦める事無く練習を続けていた
妖魔との闘いの際には俺のお守り役になって、離れた所から茜と葵の闘いを唯眺めているだけというのがプレッシャーになっているのかもしれない
俺としては翠が前線に行く事に少なく無い不安が有るのだが、一方で最近妖魔が急速に強くなっている様に思えるので、翠が早く闘いに参加出来る様になって欲しいとも思っている
実に悩ましい処だ
ボフン!
そんな事を考えていると、又魔力の暴発する音が聞こえてきた
「?」
「どうかしたの?葵ちゃん」
翠の練習を見ていた茜が葵に声をかけた
「なんか今の暴発おかしくなかった?」
怪訝そうな顔をして葵が茜の質問に答える
「おかしい?何処が?」
「う〜ん、なんて言うか・・・今、コッチの方に爆風が来なかったでしょう?」
「!。そう言えばそうかも!」
そんな二人の会話を聞きつけたのか、翠が二人の会話に割って入った
「あ、あのぅ・・・それは多分、暴発の方向を制御したからじゃ無いかなぁ・・・」
「暴発の方向を制御した?一体どうやって!?」
「葵ちゃん!」
申し訳無さそうに説明する翠に食ってかかる葵を、茜が間に入って止めた
「ごめんなさい。別に怒っている訳では無いの。ちゃんと説明してくれる?」
茜に諌められて葵が落ち着きを取り戻すと、茜の後ろに隠れていた翠がポツポツと話し始めた
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結論から言えば、それは指向性爆発に似た理屈だった
正直、俺は魔法についてはよく解らない
だから、翠の説明を多少は知識の有る爆発に例えて理解してみた
俺もそう詳しい訳では無いが、爆発の本質とは衝撃波だ
超音速の火炎伝搬によって発生する燃焼波、超音速の圧力伝搬によって発生する圧力波、爆発の破壊力はそれら衝撃波によって生み出される
此処でいう火炎伝搬とは大雑把な言い方をすれば燃焼の事だ
だが、別に燃焼に限った話では無い
何らかの原因で発生した変化が超音速で周囲に伝搬する際に発生する様々な衝撃波、其れが破壊を引き起こすのだ
そして、そこに"指向性"爆発の本質が有る
例えばモノが燃える場合、其処には明確な物理的ルールが存在する
均一な可燃物の一点に着火した場合、燃焼はその一点から同心球状に広がって行く
又、着火が点では無く面であった場合、その燃焼は着火面に平行に広がって行く
この様に"燃え方"は、燃料の特性等の正確な知識が有れば制御が可能なのだ
そして燃焼波が超音速の火炎伝搬、つまり"燃焼"によって発生する衝撃波で有る以上"燃え方"の制御によってそこから生み出される衝撃波の形状や方向性を制御する事は可能であり、コレを利用して物の燃え方を設計する事で発生する衝撃波を制御し、爆発のエネルギーを任意の方向に偏らせた物が指向性爆発なのである
翠のやった事も此れと大体同じ理屈らしい
魔法の事なので詳細は良く解らないが、術式を組み替えて本来均質に集積されるべき魔力を意図的に偏在させたらしいのだ
結果、本来均質に周囲に広がる筈の暴発時のエネルギーが指向性を持って解放されたという事だ
翠は何時も練習の際、暴発で周囲に迷惑を掛けているのを気にしていた、其れをなんとかしょうとして"ちょっと工夫しただけ"と言っていたが、葵に言わせれば「非常識この上ない」そうだ
う〜ん、何だろう?このアンバランス感
だが、此れは使えるかもしれない
俺はこっちの方向からも考えて見る事にした
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知恵熱が出ました
うん、出たよ知恵熱
大体、魔法も使え無い俺が"魔法の使い方"何て判る訳無かった
いや、幾つかアイデアを出して試しては見ましたよ?
例えば、魔力の圧縮比を高めて暴発時のエネルギーを直接相手に当てられないか?とか・・・
だが、どれもダメだった
理由は幾つかある
先ず、俺の中に有る知識は基本的に"科学的なもの"であり、魔法の知識なんて全く無い
この二つを照らし合わせて類似性を見つけ出し近似的に使用方法を提案は出来るが、逆に言えばそれ以上の事は出来ない
つまり、俺が翠に出来るアドバイスには自ずから限界が有る
又、翠の場合記術後にスペルリーダーを使用して詠唱する為、キャスティングタイムが長いのだ
加えて暴発の効果範囲はレンジが短く、翠自身完全なスペルキャスタータイプの様で茜や葵の様に近接戦闘は期待出来そうに無いから事実上お手上げ状態だ
翠も頑張って色々試してはいるらしのだが、余り芳しく無い様子だ
この前は複数のスペルリーダーを展開させて、同時並行詠唱というのをやって葵を驚かせていたが、基本魔力の集積しか出来ないので結局暴発するのが増えただけだった
其れでも挫けず練習を続ける翠を観ていると何とかしてやりたいとは思う
何とかしてやりたいとは思うんだけど・・・
「何とかなるのかなぁ・・・」
又、魔力を暴発させた翠を眺めながら、俺は独りごちた
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「そう言えば」
翠が練習を終えて帰り掛けた時、俺はふと思い立って前から気になっていた事を翠に聞いてみた
「翠、お前変身している時に眼鏡していないけど大丈夫なの?」
「え?う、うーんとぉ。変身すると眼鏡が無くてもちゃんと視える様になるの。遠くの方を見る時も、意識を集中するとまるで望遠鏡で見ているみたいに良く視えるんだよぉ」
翠は俺の質問に屈託無く答えた
その答えを聞いて俺の中に有った仮説の一つが確信に変わる
やはり彼女達は変身するとその身体的能力が強化される様だ
しかも其れは彼女達の基本的な特性で有り、魔法が使える使え無いというのは関係無いらしい
今迄茜達が妖魔と闘ってこれたのも、単に魔法が使えたからでは無く、この身体能力が強化されていたというのが大きな要因の一つだろう
そして多分、その強化の方向性は個人によって異なる筈だ
彼女達の魔法の特性が一人ひとり異なるのと同じ様に
其れはまるで誰かが最初からそうなる様に決めていたみたいだ
なら、翠にも最適な闘い方が用意されているのではないのか?
本人も俺も気付いていないだけで、今出来る事だけで何か出来る事がー
「へべちゃん」
俺の考えは、翠に声を掛けられて中断した
「へべちゃんは、眼鏡をかけている方が好き?」
「へ?眼鏡?」
「もし眼鏡をかけている方が良いなら・・・ううん、何でも無い。其れじゃまたね」
そう言うと翠は俺の返事も聞かず家に帰って行った
そして後日、其処には変身後も眼鏡を掛けている翠の姿が有った




