10-i
細く小さな指が宙を滑る
その軌跡を追う様に光の線が何も無い空中に描かれてゆく
やがて其れは奇妙な象形文字を像作り、その列なりは文章の様なモノを像作った
「わぁ、すごいすごい!」
「えへへへへぇ〜」
茜が手を叩いて褒めそやすと、翠は照れくさそうに笑った
「あっ!後ね、こんな事も出来るんだよぉ」
今度は図形の様なモノを空中に書き出すと、その図形の様なモノが空中を動き廻る
「すご〜い!お魚さんだぁ!」
「あとねあとね、こんなのもぉ」
「!!、へべくん!?」
そんな、少しばかり超常的な部分に目を瞑れば年相応の少女達の会話を横目で見ながら、俺と葵は頭を抱えていた
「まさか、treble meaningだとはね」
「・・・とれ?」
葵の言葉を聞き返す、流石帰国子女とでも言うべきか、発言に英語が混じると発音が良過ぎて聞き取れない
「直訳するなら三通りの意味って処かしら。この場合は三通りの魔法を使うって事ね」
「三通り?」
「spell caster、つまり術者にも色々なスタイルが在るのよ。普通は一人に一つなんだけど・・・翠はspell enchant、rune description、diagram drawingの三つが使えるみたいね。まあ、実際には何れもまともに使えないみたいだけど」
そう言って葵は茜と翠の方を見た
二人は空中に浮いた動く絵を囲んではしゃいでいる
「まともに・・・か」
俺も二人の方を見ながら呟く
「なあ、翠」
俺は意を決して翠に声を掛けた
「なぁに?へべちゃん」
「生麦生米生卵って言ってみてくれるか?」
「?、別に良いけどぉ。にゃマムみ、みゃみゃっみょ・・・ガリッ」
「へべくん!」
口元を抑えて蹲る翠を葵が慰める
俺は茜に怒られながら今後どうするかを考えていた




