09-b1
「漸く諦めた様ね」
葵はそう言うと、一つ溜息を吐いた
「あはは、まあ翠ちゃん達も悪気が在ってやっている訳じゃ無いから」
「悪気が在ってやられたら堪らないわよ」
茜達は、夕方になってやっと翠達との追い掛けっこから解放された
「それで、これからどうするの?」
「これから?うーん、家に帰ってー」
「そうじゃないわよ!コレでしょう!?」
そう言うと葵は、茜の目の前にリングを突き付ける
「あはは、もちろん判ってるよ」
「貴方ねぇ・・・」
屈託無く笑う茜に、葵は顳顬を抑える
あの日から葵は、茜達と共闘することを選択した
初めは意地を張っていた部分もあったのだが、ここ最近の妖魔は確実に強くなってきていて一人では手に余るというのも事実であったし、何よりも同じ秘密を共有し合える仲間というのは思いの他悪いものではないと感じる自分を葵は最近になって自覚し初めていた
"だけど・・・だけどそれでも、私にはへべれけだけで良かったのでは?"
と今でも葵は思う
今迄意図的に他人を遠ざけて来た葵にとって、人懐こく距離を詰めて来る茜の存在には戸惑う事も多かった
実際、今でも人付き合いには抵抗が有る
この街に来てから其れ程長い時間が経っている訳では無かったが、此れ程長い時間一緒に居る人間は、家族を除けば茜だけかもしれなかった
だからと言って一人で居る事が寂しく無い訳では無い
唯、妖魔の存在すら知らない人達とどう接して良いのか判らなかっただけだった
そんな葵にとって人の言葉の話せる動物と云うのは理想的な友達候補だったのかもしれない
だが、今は違った
葵には、茜という友達が出来た
ソレは葵にとって面倒で煩わしい事だったが、同時に今迄感じた事の無い感覚を葵に齎していた
"だから・・・だから私は"
とも葵は思う
この"今"を失いたく無いとー
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茜と二人での帰り路
最近は割と日常化して来たこの時間を、葵は割と気に入っていた
もちろん今後の妖魔対策に於ける意見交換という名目は有ったが、実際には他愛の無い雑談に終始する事が殆どで、これといった成果等は何も無かったのだが、葵はそんな事は特に気にしていない
今日は余計な邪魔が入ったせいで話せる時間が減ってしまったが、それでもまだ茜と別れる迄には僅かな時間が有り、葵は茜との雑談を愉しもうとした時、その感覚は突然襲って来た
しかし、今回のソレは何時もの感覚とは少し違った
その感覚は間違い無く妖魔が現れた時のソレではあったのだが、葵はその中に何時もとは違う違和感の様なモノを感じる
其れが何なのかは判らなかったが、例え其れが何で有ろうとも葵は自分が何を為すべきかは理解していた
「茜!」
「うん!」
葵は茜に声を掛け、茜が其れに応える
たったそれだけの事に高揚感を覚えている自分を自覚しながら、葵は駆け出した
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俺がその感覚を感じたのは、空き地からの帰り道だった
そうそう、空き地と言えば最近は子猫達もやんちゃの盛りで、相手をするのも一苦労だ
そこがまた可愛いかったりする訳でコレが父性本能ってヤツかと・・・
いや、そうじゃない
現実逃避をしている場合じゃないだろ、俺
だが、そんな現実逃避をしたくなる様な状況が目の前に在った
妖魔が現れた時の感覚を感じた俺は、直ぐにその場に駆けつけた
すると、妖魔を前に茜と葵が戦っていたのだ
其れも、かなりガチな感じで殺りあっている
「えーと、ダメだ状況が理解出来ねぇ・・・」
確かに理解は出来ない、だが予想は付く
何方かが、或いは両方が妖魔の精神攻撃にあっているのだ
しかし、このまま放置も出来無い
俺は最悪の事態を想定しつつ行動を開始した
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「あの中に翠ちゃんがいるの」
茜はそう言って俺を見詰めた
「あの中に翠が居るのよ」
葵はそう言って俺を見詰めた
「えーと、だいたい判った。つまり、あの中に翠が居るということで良いんだな?」
俺は二人の言葉を鸚鵡返しに繰り返して妖魔の方を見る
妖魔はピクリとも動かずに、唯そこに居た
まるで蛹の様に見えるその妖魔には半透明な部分が有り、そこから少しだけ内部を覗く事が出来た
そして、そこから内部を確認すると、まるで蔦の様なモノに絡みつかれている様な人影がそこに観えていた
だが、其れが翠かどうかまでは判らない
俺は二人と妖魔を交互に見比べて、頭を抱えた
二人が戦っているのを見た俺は、戦いを止めさせ様と決死の覚悟で近づいたが、二人は俺を確認するとあっさりと戦うのを止めた
始めは妖魔に洗脳でもされているのかと思ったが、しかしそうでは無かった
二人は自分の意思で戦っていたのだ
其れは、ある意味洗脳されている状況より悪いと言える
取り敢えず俺は二人の話を聞く事にした
「で、其れで何でお前達が戦う事になったんだ?」
「其れは、葵ちゃんがあの妖魔を攻撃しようとするから・・・」
「其れは、茜があの妖魔を攻撃するのを邪魔するから・・・」
俺の問いに二人は同時に答えて睨み合う
「それで茜は、どうして葵の邪魔をしたんだ?妖魔は倒すべきモノなんだろう?それに観えているアレは本当に翠なのか?」
「アレは翠ちゃんだよ。どうしてとは言えないけれど私には解るの。そして、葵ちゃんの邪魔をしたのは・・・葵ちゃんがいきなりあの妖魔を攻撃しようとしたから。嫌な、何か嫌な感じがするの。ハッキリとは言えないけれど、あの妖魔を倒してはダメな気がする」
俺の質問に答えた後、茜は黙って顔を背けた
「えー、其れで葵は何故いきなり攻撃しようとしたんだ?さっきの言葉からするとお前もあの中に翠が居ると感じていたんだろう?」
「確かにあの中に翠が居る事は感じていたわ。何故かは私にも判らない。でも、そう感じたの。そして、私が直ぐにあの妖魔を倒そうとしたのは、嫌な感じがしたからよ。はっきり言って、あの妖魔は異常よ。あんな状態の妖魔は今迄見たことがないわ。嫌な、何か嫌な感じがするの。ハッキリとは言えないけれど、あの妖魔は一刻も早く倒してしまわないとダメな気がする」
俺の質問に答えた後、葵も黙って顔を背けた
「・・・成る程な、つまり葵は何か嫌な感じがするから早急にあの妖魔を倒してしまわないとダメで、茜は何か嫌な感じがするからあの妖魔を倒してはいけないと・・・」
つまり二人は、あの妖魔に対してほぼ同じ感覚を持ちながら正反対の判断を下したという事になる
何故そんな事になったのか?
それは多分、其れがそのどちらの可能性も含んでいるからだろう
彼女たち魔法少女の感覚というのは、人のそれとは明らかに違う、ある種の未来視の様なものだと俺は考えている
実際、過去の妖魔との戦いに於いて、彼女たちの直感による行動は須く正確であった
其れはもう、正確過ぎる程に
まるで既に正解を知っているのか如く・・・
だとするなら、二人が一致している以上あの中に居るのは翠という事でまず間違い無いだろう
・・・・・
どないせーちゅんじゃい
俺は本気で頭を抱えた




