09-a2
胸の奥の方がチクリと痛んだ
その日私達は、夕方になる迄茜ちゃん達を追いかけ回してしまった
茜ちゃん達は、私達が追いかけ回している事は気付いていたみたいで、結局これと言って特別な事は判らなかった
そして私は京子ちゃん琴音ちゃんと別れた後、何時もの帰り路を少し外れて回り道をして家に帰る事にした
「ヤキモチかぁ・・・」
京子ちゃんの言葉が蘇る
「そうなのかなぁ・・・私は葵ちゃんにヤキモチを焼いているのかなぁ?」
自分の気持ちなのに良く判らない
そんな気もするし違う気もする
唯、京子ちゃんの言ったその言葉がやけに私の心に引っかかる
"私は何がしたいんだろう?"
ふと、そんな事を考える
胸の奥の方がとチリチリと痛んだ
日の傾く帰り路、私は家路を急ぐ
「あれ?」
私は脚を停めて回りを見回す
「此処は何処?」
周囲には見慣れない家々が有った
見知らぬ家
見知らぬ路
見知らぬ灯
何かが変だ
何かがおかしい
「路、間違えちゃったかな?」
不安を振り払う様に考えを言葉にする
"大丈夫、今来た路を戻ろう"
そう考えて振り返ろうとした時
胸の奥の方がズキリと痛んだ
呼吸が浅く速くなる
額に薄っすらと汗が滲む
胸を押さえてうずくまる
"何?何なのコレ?"
目の前の景色が歪む
世界が歪んで逝く
胸の奥、心の奥底から何かに覗かれている様な感覚
ソレはゆっくりと、しかし確実に私の心を蝕んでゆく
以前、これと似た様な経験をした事が有った
あの時はー
期待を込めて空を仰ぐ
しかしそこには誰もいない
期待が失望に変わり
失望が心の侵食を加速する
世界が昏く染まる
"これは罰なの?私がヤキモチを妬いたから罰が当たったの?"
薄れ行く意識の中で翠は考えた
"もし、回り道をせずに何時もの帰り路を行っていれば、こんな事にはならなかたのかな?
・・・・・・
あれ?
そもそも何で私は回り道をしようと思ったんだろう?"
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茜ちゃんと初めて出会ったのは、幼稚園の時
あの頃も私は人見知りする性格で、幼稚園で何時も一人で遊んでいた
そんな私に初めて話掛けてくれたのが茜ちゃんだった
茜ちゃんとお友達になって一緒に遊び始めると、他の子達とも遊ぶ事が増えて来て
その中に京子ちゃんと琴音ちゃんがいた
そして、私は何時の間にか二人ともお友達になっていた
それ以来、私達は今に至るまでずっとお友達だ
そんな私にとって茜ちゃんは憧れだった
何時も明るくて優しい茜ちゃんは、人見知りで余り上手に話せない私にも優しかった
私が上手く喋れ無くて時間が掛かる時も、私の話が終わる迄、黙って聞き続けてくれた
私が困っている時は何時も助けてくれた
私が泣いている時は何時も慰めてくれた
私が・・・・・・・
私が・・・・・
私が・・・
だから・・・
だから私はー
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誰かが何かを囁いた
「え?」
その声に私は思わず振り返る
しかし、そこには誰もいない
夕焼け空の帰り路
翠はあの日の事を思い出す
それはとても嫌な記憶
思い出したくも無い怖い想い出
幸い、今は人の気配が有った
路に沿って建っている家々からは、夕飯の支度だろうか?
美味しそうな匂いが流れて来る
「今日の晩御飯は何かなぁ?」
私は家路を急いで脚を早めた
誰かが何かを囁いた
「え?」
私は脚を停めて振り返る
しかし、そこには誰もいない
仄昏くなった帰り路
翠はあの日の事を思い出す
不気味な絶叫が響き渡る空
思い出したくも無い不快な想い出
昏くなり始めた空に街路灯が点き始める
灯りが路を照らす
その内の一つがチカチカと明滅する
"今時、蛍光灯の街路灯なんて珍しいなぁ。でも、何で彼処だけ?"
そんな事を考えながら私は、家路を急いで脚を早めた
誰かが何かを囁いた
しかし私は振り返らない
早めた脚はやがて駆け出す
宵闇の迫る帰り路
翠はあの日の事を思い出す
あの時、私が見た影は二つだった・・・
そう、一つでは無く二つだった!!!
思い出したくも無い哀しい想い出
誰かが何かを囁いた
誰かが何かを囁いた
誰かが何かを囁いた
誰かが何かを囁いた
誰かが何かを囁いた
違う!
囁いているのは私だ!
囁いているのは私の中のもう一人の私
彼女は、病んだ様な笑みを浮かべながらゆっくりと私に手を差し出す
怖い
なのに私は逆らえない
何かとても不吉な感じがする
恐い
私もゆっくりと手を差し出す
その手を取ってはいけない気がした
強い
そして私はその手を取った
だって私は・・・
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世界が昏く歪む
"あれ?なんだろう、頭がクラクラする"
世界が昏く澱む
"なんか・・・とても眠いや・・・"
世界が昏く閉じる
"あゝそうか、私は・・・"
翠は無意識におばあちゃんから貰ったお守りを握りしめた
全てを棄てた世界、全てを失くした世界で、その感覚だけが翠の心を落ち着かせる
そして翠は、その後ろめたい様な、切ない様な感情と一緒に、仄昏い闇の中へと意識を手放した




