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へべれけ!  作者: へべれけ
第8話
44/72

08-b2

妖魔の咆哮が耳朶を打つ

そして妖魔は、ゆっくりとその羽を動かして宙に舞い上がる


「It's a wind!It'll be one thousand blades of blade,mince my enemy!」

葵の詠唱が響き無数の光の刃が妖魔に降り注ぐ

光の刃は妖魔の体躯を切り刻むが、その傷口は直ぐに塞がってゆく

それは霧に穿った穴を周囲の霧が塞ぐ様に酷似していた


キャアアアアアァァァァァ!!!!!

妖魔の絶叫が響き渡る

まるで敗者を嘲笑うかの様に


━━━━━━━━


妖魔はその巨大な羽から無数の礫を飛ばして来る

其れを寸での所で躱しながら茜が宙を駆ける


「どうしよう、これじゃ近づけ無い」

茜が小さな声で呟く

その声には明らかな焦りが滲んでいた


だが、俺はその声に応えられ無い

葵の方を見ると、葵は光の刃を妖魔に向かって放ち続けていた

しかしその攻撃は、効果が有る様には見え無い

そして、その手数は明らかに落ちている


「あれじゃ、そう長くは持ちそうに無い・・・」

そんな俺の呟きを聞いたのか、茜が何かを言おうとした刹那


「キャッ!」

茜が小さく悲鳴を上る

その途端、茜の身体がグラリと揺れてそのまま地面へ向けて落下した


「な、何んだ!?」

俺は余りに突然で対応が出来なかった

もし、フードに半身が入っていなければその時点で放り出されていただろう

俺に出来たのは、唯フードにしがみ付く事だけだった

だが、次の瞬間目の前に光の足場が現れ、茜はくるりと1回転すると、その足場の上にふわりと着地する


「もう少しで当たる所だったよ」

茜がそう言って息をつこうとした時


「危ない!避けて!」

葵の叫声が聞こえたかと思うと、急に周囲が陰った

反射的に上を見ると、妖魔が此方に物凄い勢いで迫ってくる


「クッ」

茜が身を翻して妖魔の突進をギリギリ躱す


妖魔はそのままの勢いで地面近くまで降下すると、周囲にばら撒く様に礫を放ってきた

その闇雲な攻撃を避ける様に、茜は上空へと駆け上がる

途中、足場に使っていた光の板の幾つかが礫に当たって相殺されるが、茜は飛び石でもするかの様に躱してゆく

その光景をフードにしがみ付きながら観ていた俺は、妖魔の行動に奇妙な違和感を感じていた


俺と茜は高度を上げて、一旦妖魔との距離を取る

妖魔は俺達を追撃はせず、低空に居座ったまま礫を飛ばしているが、今は葵との撃ち合いに注意が向いているせいか、距離を取っている此方には殆ど攻撃が来ていない

そんな状況の中、俺は妖魔がこの結界の中に閉じ込められてからの行動を思い返していた

そこに葵の攻撃に対する妖魔の対応を加味すると、そこから俺は一つの仮説を導き出す


「確かにそう考えれば全てが繋がる・・・だけど其れを証明するには・・・」

そう呟いて茜の方を見ると、茜と目が合った


「何?」

俺を真っ直ぐに見つめながら、茜はそう言った


「い、いや何でもない」

そんな真摯な視線に耐え切れず、俺は目を逸らす


「ハァ・・・」

そんな俺の煮え切らない態度に、茜は一つ溜息を吐くと俺を掴み上げ

そして、顔の前まで持って来ると真剣な表情でこう言った


「ねぇ、へべくん。私は、確かに子供で解らない事も一杯有るから、頼り無いかもしれないけど・・・。其れでも私は・・・、私はれっきとしたへべくんのパートナーなんだよ。だからお願い、一人で悩まないで!」

その顔はどこまでも真面目で、あまりにも真剣だった

だから俺は、その顔を見て本当の事に気付いてしまった

今迄、無意識に避けていた事実

気付いていたのに、気付かない振りをして目を背けていた真実


「ぷっ、くくくくっ、あははははあはははは」

「な!何でそこで笑うかな?私、何か可笑しな事言った!?」

いきなり笑い出した俺に茜が憤慨する


「いや、そうじゃない。そうじゃないんだ・・・ごめん」

茜に謝りながら、俺は自分の誤りを漸く自覚した

"あゝそうだ。俺は子供よりも弱い唯の小動物だったじゃないか。妖魔を倒すのは茜だ。何時だって俺は、茜の肩の上に乗っかっているだけだった。そんな俺が茜を守る?護られていたのは始めから俺の方だったじゃないか、とんだお笑い種だ!"


「へべくん?」

急に黙り込んだ俺を心配したのか、茜が顔を近づけて来る


「大丈夫だよ」

俺はそう言って顔を上げる


"俺は無力だ。多分、俺はその事を認めたくなかったんだ。だから一人で足掻き続けていた・・・。だけど、今の俺は無力じゃない。何故なら、今の俺は、一人じゃないからだ!だから・・・"

「茜、試してみたい事が有る。俺に力を貸してくれ!」

「うん!」

俺の唐突な要求に茜は笑顔で応えた

そして茜が宙を駆ける、何処迄も真っ直ぐな瞳で


━━━━━━━━


「あぁ、もう!キリが無い!」

葵は、今日何度目かになる文句を叫んだ

目の前の妖魔には何度も攻撃を当てている筈だった

否、確実に攻撃は当たっている

だが、まるで手応えが無いのだ


「何なのよ、本当に何なのよ、もう・・・」

礫を回避しながら葵は呟く

今までの妖魔は簡単に倒せた

もちろん手こずる様な事は何度もあったけど、こんなどうしようもない状況に陥ることは1度もなかった

だから自分は優れていると思っていた

たった一人でどんな困難も突破できると・・・


「手はまだ有る。手はまだ有るわ」

葵は目の前の妖魔を睨みつける

"だけど、これは切り札・・・これがダメならもう後が無い"

だが、最早他に方法が無かった

そして葵が覚悟を決めて呪文を詠唱しようとした時、上空から葵を呼ぶ声が聞こえた


「葵ちゃん!」

声のする方を見ると、茜がものすごい勢いでこちらに向かって来ていた

そして、茜は傍のへべれけを掴み上げると

「「え?」」



「受け取ってぇぇぇ!!」

「「えええええぇぇぇぇぇ!!!!!?????」」

葵に向かって放り投げた





「バカなの!?ねぇ、バカなの?あの子は!」

「俺に聞くんじゃねぇよ!」

葵が辛うじてへべれけを受け止めた後、へべれけと葵は涙目で怒鳴り合った


「そんな事よりー」

「そんな事って何よ!」

「いいから聞け!あの妖魔を倒せるかもしれない」

「ー!」

その瞬間、葵の眼の色が変わる

其れを確認すると、へべれけは自分の仮説を葵に話し始めた





「本当にそんな事が?」

「コレは唯の仮説だ。だけど、今迄闘ってきた妖魔の中に、似た特性を持っているのがいた。それに、今こうして俺達が呑気に話せている事自体がその証左だと思う」

そう言ってへべれけは茜の方を見る


茜は地上で妖魔と対峙していた

妖魔の攻撃は茜に集中している

その所為で此方には牽制程度の攻撃しか来ない

一方で茜は妖魔の放つ礫を躱し一撃を放つ

しかしその一撃は大振り過ぎるのか、妖魔を抜けて地面に穴を穿っている


「だけど、 今のままではダメだ。 俺達の力だけでは、あいつを倒せない。だから頼む葵。お前の力を貸してくれ!」

へべれけが葵を見つめる

葵がへべれけを見つめ返す

暫くの沈黙の後、葵は溜息を一つ吐くと呪文を詠唱した


「The shield against which I'm defended,change its form to a condition of willful hope. 」

すると葵のドレスが光り、肩口にフードが追加される


「ここに入りなさい。それで私はどうしたら良いの?」


━━━━━━━━


光の刃が地面を抉りながら妖魔に迫る

しかし妖魔はその一撃を躱す事無くその身に受ける

光の刃は妖魔の身体を切り裂くが、その体躯が大きすぎてその一部しか傷付けられ無い

しかもその傷は直ぐに塞がれてしまっていた


「まだなの!?」

葵が叫ぶ


「あと少し、もう少しだ!」

俺は葵の限界が近い事を理解していた

その顔には明らかな疲労が見て取れる

だが、それでも今止める訳にはいかない

俺は自分の無力を噛み締めながら葵に攻撃の指示を出す

葵はそれに答えるかのように不敵な笑みを浮かべて詠唱を始めた




茜は足元を見下ろしていた

葵とそのポジションを交代した後、茜は全体が見渡せる上空へと一気に駆け上がっていた

茜が見下ろす遥か下では、葵が妖魔と今も闘っており、辺り一面は茜が穿った穴と葵が削り取った傷跡が埋め尽くしていた

そして又、葵の放った一撃が地面に傷跡を穿つ今や穴や傷跡が開いていないのは、妖魔のいる場所を中心とした円形の部分のみとなっていた

次の瞬間、茜は何もない空中に一歩を踏み出すと重力にその身を委ねた





「来た!」

俺の言葉に葵が反応して後方へ飛ぶ

同時に妖魔も茜に気付いたのか、上空へ向けて礫を打ち出す


「させない!」

葵が放つ無数の小さな光の刃が、妖魔の礫に殺到し相殺する


その中を茜は駆け抜け、一筋の光の矢となって妖魔の真芯を貫く、茜が持つ残りの魔力全てを注ぎ込んだその一撃は妖魔を突き抜けそのまま地面に突き刺さり爆煙を上げ大地にクレーターを穿った


やがて土煙が落ち着くと、其れはそこにいた

クレーターの中心に蹲る茜の直ぐ近く

木の根の様な脚を大地に突き立て昏く脈動する霧を纏った妖魔の"核"

その頭頂からは、とても細く透明な一本の糸の様な物が伸びていた

土煙の干渉によって漸く認識出来る様になった其れは、途中から枝分かれして頭上の妖魔の各所へと繋がっていく





要は本体を地中に隠し、分身を戦わせるという単純なトリックだ

しかも、本体が地脈から魔力を吸い上げ分身に送る事で分身はほぼ無限の回復力を持てるのだ、後は威嚇して注意を分身に集め持久戦に持ち込めば良い

気付けなければそれで終わり

気付いたとしても本体の位置が判らなければ対処のしようが無い

そして本体の位置を特定出来たとしても、分身の相手をしながら本体を倒すのは至難の技だ





実際、俺達だけなら負けていた

茜の渾身の一撃は躱され、最早茜に戦う力は残っていない

俺に至っては戦力以前の問題だ

そして、分身は再生を終えつつある

正に絶対絶命


だがー





俺達は一人じゃない!


「「葵(ちゃん)!」」

「判って・・・いるわよ!」


詠唱が響く!

日が翳り藍色に染まり行く空に詠唱が響く!!

澄み渡る空を飛ぶ猛禽の鳴き声の様に詠唱が鳴り響く!!!

「It's the atmosphere!Respond to my voice and show me its power!Thunder of a god, in this hand!Blade of the lightning!!!」







キャアアアアアァァァァァ!!!!!!!!!!

妖魔の核が砕け散り絶叫が響き渡る

それは妖魔の断末魔の叫びだった


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