08-b1
霧が渦を巻いていた
その霧の中に光の奔流が吸い込まれて行く
光の奔流が当たった処の霧は、一時的に霧散するが、直ぐに周りの霧がその隙間を埋めて行く
そして、仄昏いその霧はゆっくりと、しかし確実にその領域を広げていた
「何が目的何だ?」
考えが思わず口を突く
「え?なに、へべくん」
俺の呟きが聞こえたのか、茜が聞き返して来る
「いや、あの妖魔は何がしたいのかと思って」
「妖魔のしたい事?」
茜は不思議そうに尋ねる
そう、それが解らない
俺は上空から、ゆっくりと広がって行く霧を見ながら考えた
あの霧は確かに厄介だ
此方の攻撃をほとんど受け付け無い
だが其れだけだ、此方を攻撃して来る事も無い
だとしたら目的は何だ?
あの広がり続ける霧に一体何の意味がある?
「解らない。情報が少なすぎる」
「へべ・・・くん?」
又、茜が不安そうに俺を見る
駄目だ、此処で俺まで不安そうな態度は取れない
「大丈夫だ、心配するな。俺が何とかして見せる」
そう言うと俺は、無理に笑みを作って茜を見る
"だが、どうすれば良い?どうしたら答えを見つけ出せる?"
「考えろ、考えろ!考えろ!!」
答えを見つけ出せない焦りの中で俺は、"考えろ"という言葉を呪文の様に繰り返した
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「You be my sword, and subjugate my enemy.Raptor blade・・・」
葵が呪文の詠唱を終えると、手に持つワンドの上に光の刃が形成される
だが、其れを直ぐに打ち出す事はしなかった
淡く光る刃を見ながら乱れた息を整える
「何なのよ・・・何なのよ、アレは!」
暫くの沈黙の後、葵は急に声を荒げた
いったい、どれほど攻撃を繰り返したのか
しかし、その全てが無駄に見えた
実際、目の前の霧は消え去る何処か、目に見えてその範囲を広げていた
葵は、数度深呼吸を繰り返して気持ちを沈めると、ゆっくりと渦巻きながら広がり続ける霧を見つめる
「このままではダメだわ」
葵は一人ごちた
でも、どうすれば良いのか解らない
この状況を打開する方法が思い浮かばない
その事実が余計に葵を苛立たせた
葵はふと、茜の方を見る
茜は少し離れた所で霧を見下ろしていた
その顔は何処か不安そうに見える
その時、茜の肩の所で何かが動いた
良く見ると、へべれけが茜の肩から身を乗り出して霧を見下ろしている
そのへべれけの姿見た時、葵の中にへべれけならこの状況を何とか出来るのではという考えが浮ぶ
"まさかね、幾ら喋れるからと言って、唯の小動物にそんな事出来る訳無いじゃない"
葵は、直ぐに頭を振ってその考えを降り払った
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其れは小さな変化だった
パチッっと言う泡の弾ける様な小さな音と共に、霧の中で何かが光る
始め、霧の中の奥底で起こったその小さな変化は、時間の経過と共にゆっくりと、しかし確実に霧の中全体へと広がっていった
そして、その変化をへべれけ達が認識できる様になる頃には、ゆっくりと広がっていた筈の仄昏い霧は、周囲に放電を繰り返すドス黒い積雲へとその姿を変えていた
ボコボコと泡立つ様に積雲が脈動する
その中心に一際大きな泡が産まれた
しかしその泡は、弾ける事無く脹らんでゆく
やがて、その泡は広がり続けた霧と同じ大きさにまで膨らむと、パチンと弾けた
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「ねぇ、へべくん・・・。私は何もしなくて良いの?」
茜が呟く
「あゝ」
漸くの思いで声を絞り出し、俺は茜に応える
葵の方を見ると、葵は膨れ上がる泡へと攻撃を繰り返していた
しかし、その攻撃は全て泡の表面で防がれている様で、そのドス黒い泡は何事も無いかの様に膨らみ続ける
心臓が早鐘の様に打ちつずける
呼吸が浅く早くなり息苦しい
頭がガンガンとする
まるで、頭の中でドラを打ち鳴らされている様だ
考えが纏まら無い
何をして良いのか解らない
唯、本能が叫ぶ様に警告を発している
"危険なのは理解している!この状況がヤバく無い訳が無い!"
俺は横目で茜を見た
"だが、どうする?だからといって、どうすれば良い?茜は葵の様に距離を置いて攻撃する手段が無い。其れはつまり、茜をアレに近づけさせるという事だ。駄目だ、リスクが高過ぎる"
思考が混乱する
考えが纏まら無い
俺は唯、ドス黒い泡が膨れ上がって行くその光景を呆然と眺めていた
そして、泡は弾ける
俺が何も出来ずにいる内に
そして、泡は弾ける
俺は唯、其れを観ている事しか出来なかった
そして、泡は弾ける
俺の無力を嘲笑うかの様に
そして・・・
その泡が消えた後には、何倍にもその体躯を巨大化させた妖魔がそこに居た
妖魔がゆっくりとその羽を拡げると周囲の景色が歪んだ
茜は黙ってその巨体を見つめていた
葵は黙ってその巨体を見つめていた
俺は・・・
俺は呼吸する事さえ忘れて、唯その巨体を見つめていた
キャアアアアアァァァァァ!!!!!
妖魔の絶叫が響き渡る
その叫びは妖魔を封じる筈の結界さえ揺さぶる程のものだった




