騎士の仕事
――ザッ…ザッ…ザッ…ザッ…――
「おい、待て…!」
恨みは無い…ただ、巡り合わせが悪かったんだ。
「俺、俺には家族が…娘だって、まだ…!」
あぁ、分かるよ…家族を遺して死ぬのは、身体が張り裂ける程辛いよな。
「い、ひ…嫌だ…だって、こんな死に方…!」
〝人間の死に方じゃない〟…あぁ、そうだ……こんな死に方を認めるべきじゃない。
――ザッ…ザッ…ザッ…ザッ…――
だから、降れ。
『捕虜は不要だ、処分しろ』
だから…逃げてくれ。
『逃がすな、殲滅しろ!』
だから…どうか。
「『結局、お前は人殺し何だろう』」
この地獄を終わらせてくれ。
――パチッ――
「……」
空が白み始めている、半分濁った思考で考える…〝俺〟は何者だ?…。
「あぁ…そうだ……俺は〝フロディ・オーガー〟…〝イルズ東方王国〟の騎士だったな」
その役目は〝命を賭して民を、国を守る事〟…。
『最後の命令である…その命を国に捧げよ』
『貴方は、生きて下さい』
「……生きるのは、難しいな」
――ジ〜ッ――
――バサバサバサッ!――
○●○●○●
「良し、お前達全員居るな!」
『『『『は、ハッ!』』』』
空が青さを見せる頃、王城の近くに建てられた〝兵舎棟〟と、訓練場に…総勢20人程の兵士達が集まり、威勢良く声を上げていた。
「それではコレより、〝合同訓練〟を開始する!」
「り、リズ隊長ッ発言宜しいでしょうか!」
そんな彼等をとりしきる人物、リズ第3騎士団隊長へ一人の兵士が挙手し発言を求めると、リズは彼の名を呼び発言を許可する。
「ツヴァイ、発言を認める」
「ありがとう御座います!――合同訓練とありますが、一体どの騎士団との合同訓練なのでしょうか!」
その言葉に、ツヴァイと呼ばれた彼以外の他の兵士達も疑問の視線を投げ掛ける…すると、彼は己の首に掛けていた時計を手に取り、ツヴァイの質問に答える。
「良い質問だッ、だが私からの説明よりも実際にその姿を見たほうが早いだろう!」
――ゴーンッ…ゴーンッ…ゴーンッ…ゴーンッ…――
その言葉と共に、7時を告げる鐘が鳴り…リズがその指を、王城前への入口へ指し示す。
「彼が、今回第3騎士団の合同訓練相手だ!」
その言葉に、兵士達が指の先へ視線を向ける…其処には。
――ザッ…ザッ…ザッ…!――
「へカティア様…過度な密着はお控え下さい…護衛に支障が出る可能性が有ります」
「ウフフッ、仕事に真面目でステキ♡」
『『『『…はぁ?』』』』
王女に腕を抱かれ、困った様に眉を顰める仏頂面の男が、彼等の方へと歩んでいた。
「すまないリズ殿…へカティア様がどうしても此処に来たいと言って…止むを得ず」
「……いや、構わないフロディ殿」
リズへその男はそう言い頭を下げるが、リズはソレに対して特に何を咎めることもなく対等に接する…そんな彼へ兵士達の疑問が一挙に集まると、リズは彼へ合図を送り…皆へ視線を向ける。
「さて、皆も顔馴染みは無いだろう…いや、ある者は有るだろうが…兎も角、フロディ殿彼等へ自己紹介をしてやってはくれないか」
「心得た……俺は〝フロディ・オーガー〟…つい1週間程前、リズ殿に拾われ、このイルズ東方王国で〝へカティア第一王女の専属騎士〟として働く事になった者だ…この国に仕える上では、貴殿等よりも若輩故、何卒宜しくお願いしたい」
フロディの自己紹介に、兵士達は何処か当惑した様に其々を見やる…そんな彼等の心中を察したかの様に、リズは部下達へ忠告を送る。
「さて、入って数日の新人だとお前達は侮っている様だが…残念ながらその慢心は命取りだ…彼こそは〝リノベルト最強の兵士〟…〝伝説の英雄〟…〝リノベルトの白龍〟その人だぞ」
『『『『は…はぁぁぁ!?!?』』』』
その忠告に、兵士達は一瞬呆けた様な表情で男を改めて見据え…そして、言葉の意味を理解してそんな声を上げ、信じられない物を見るような目で男を見据える。
「実際、私は彼に斬り掛かったが成す術なく打ちのめされ、剣を折られてしまった…」
『『『『ッ!?!?』』』』
そう言うと、リズは己の携帯している剣を見せる…確かに普段彼女が振るっていた業物とは違う剣を帯剣しているらしく、部下の彼等は三度の驚きに固まる。
「――そう、フロディ殿は強い…恐らくこの国に存在するどの騎士、冒険者よりも優れた戦闘能力を有しているだろう…〝その強さ〟が欲しい!」
そんな部下達へ、リズはそう言うと…彼等の側に進み…それからフロディの方へ向き直り、頭を下げる。
「フロディ・オーガー殿、我々に貴殿の鍛錬を御教授願いたい!」
「…成る程……合同訓練とは、そう言う事か」
リズの嘆願に、フロディは顎に手を当て考える…しかし、ソレはそう長くは続かず…フロディはリズの頼みを軽く快諾する。
「――構わない…と言っても、そう特殊な鍛錬では無いのだが…俺で良ければ貴殿等に力を貸そう」
「ッ!――感謝する!」
その言葉に、リズは嬉しそうにそう感謝を述べ…己が部下達に指示を出す。
「さぁ貴様等も、今日一日彼を教官とし、彼の技術を一つでも多く会得するのだ!」
『『『『ハッ!――宜しくお願い致します、フロディ教官殿!』』』』
「…あぁ、宜しく頼む」
画して、第3騎士団と王女専属騎士による合同訓練は幕を上げた…。
この時、彼等は…リズでさえ気付く由も無かった……この訓練が、彼等にとって〝地獄の釜口〟と…なる事を。
●○●○●○
俺は、フロディ・オーガー…イルズ東方王国の騎士…それも、へカティア王女の専属騎士となってから初めての仕事が始まった……と言っても、その仕事は王女の護衛ではなく…。
「先ずは〝走ろう〟か…全員軽くストレッチをして…スタート地点に並んでくれ」
〝合同訓練〟の教官という仕事なのだが。
「ほう、走り込みか」
「あぁ…言ったろう…鍛錬の基本は貴殿等とそう変わらないと」
俺がそう言うと、リズは自身の身体を軽く伸ばしながら俺の隣に並ぶ…その横に一人の部下が並び、彼が俺へ話し掛ける。
「フロディ教官、私はハラルド・ジャックマンで御座います…質問宜しいでしょうか?」
「あぁ、構わない」
「ありがとう御座います…それで、走り込みとの事ですが…具体的な時間と、どれ程のペースを目安にしているのでしょうか?」
その言葉に、俺は少し考え…それから、訓練場のトラックを見る。
「1周が大体1km程…良い目安になるな…この範囲なら、大体〝2時間〟だな」
「2時間ですか…案外短いのですね」
「まぁ…〝準備運動〟の様なものだからな」
そうこうしている内に、皆がスタート地点に立ち、俺を見る。
「全員準備は良さそうだな…それじゃあ…リズ殿、始めは〝70%〟程の力で走ってくれるか…皆はリズ殿のペースに合わせる事…俺は最後尾から貴殿等を追う…1周進む毎にペースを上げていくので、最後尾の俺が肩に触れた者は皆+十周走る様に……そうだな……制限時間は2時間、残っていた3名には、冷えたエールを馳走しよう」
俺がそう言うと、最後の一言に皆の顔が引き締まる…とうやら、やる気十分の様だな。
「――では、早速始めようか」
そして、俺の宣言と共に…リズは一呼吸置いて走り出した…。




