偏屈な鍛冶師
2本目、そろそろ本名義の方も執筆しなければ。
「やっと来やがったか、テメェはそっち持て!」
「ダァクソッ、こんな馬鹿大剣発注したのは何処の馬鹿だ!?」
――ググググッ――
2人のドワーフが、顔を赤くしながらその大剣を掴み、炉の側に…恐らく特注で用意したのだろう、巨大な冷水の詰まった水桶運ぶ。
「1、2の3で持ち上げるぞッ!」
「応ッ!」
「1、2の…」
「「3!」」
そして、赤熱した大剣を一際高く持ち上げたドワーフが、その大剣を水桶に放り込んだ、その瞬間。
――ブワッ!――
凄まじい蒸気と共に、冷水が泡立ち…2人のドワーフは腹に溜めた疲労の息を吐き出して、一息付く。
「ブハァッ…これで、終わりか親父ィ」
「師匠と呼べアホンダラ…ハァ…後は仕上げだけだ…冷えたらまた呼ぶ、店番してろ」
「あぁ…それはそうと、リズ様が来てるぜ…其処に呼んでる」
そして、ハンテンはそうガイデンへ言うと、汗を布で拭いながら俺達に会釈し表へと戻って行く。
「応リズか…其処の坊主は連れか…何の用だ、テメェの武器防具の点検は来週だった筈だが」
そして、ガイデンが椅子に腰掛けてリズ殿と俺を一瞥すると、そう問い掛けながらパイプを吹かす。
「あぁ、実は私の剣が壊れてしまってな…私の剣の新調と、彼の剣と鎧を揃えたいんだ」
そしてリズ殿がそう言い要件を伝えると、パイプを吹かしていたガイデンは目を見開き、吸っていた煙を吐き出してリズを見る。
「ブハッ、ゲホッゲホッ!――俺の剣が壊れただぁ!?…アイツぁ俺の傑作の一つだぞ!?――丹精に造った〝ガキ〟だッ、ソレが壊れたってテメェ…竜か地面に矢鱈に打ち据えたんじゃねぇだろうな?」
その目は万が一にもそんな事はあり得ないと言う風だったが、自身の確かな腕前への自負も込められており…その目は力強くリズ殿へと向けられ、真偽を確かめようとしていた。
「あぁ、〝龍〟と言えば龍だった…全く凄まじい光景だったとも」
そんなガイデンの言葉にリズ殿がそう笑い、肩を竦めて俺を見ると、ガイデンの視線が今度は俺へと向く。
「…その坊主が俺の剣をブチ壊しただとぉ?」
「……あぁ、すまない…悪気は無かった」
疑問を呟くガイデンへ、俺はその事実を認め頭を下げる…しかし、それでも彼の中の疑念は拭えなかったらしい。
「ハンッ、にわかにゃ信じられねぇが…だが、リズが嘘を吐くとも思えねぇ……良し、ちょいと待ってろ」
彼は何を思い立ったのかそう言うと、日照りの中、工房の隅にある、樽に乱雑に突き立てられた剣の山を樽ごと運んでくると、ソレを俺達の目の前に置く。
「ソイツ等は、後で店に並べようと思ってた〝二流品〟だ…大半はハンテンの粗末なモンだが、ちっとは俺の玩具も入ってる」
『んだとゴラァ糞親父!』
「――本当にテメェが俺の傑作を潰したってんなら…この中に有るモン、〝潰してみろ〟や」
その言葉に、俺はリズ殿へ視線をやるが…彼女はただ肩を竦めるばかりで促す様に手を振る…どうやら、ガイデンの望み通りにする他無いらしい。
「構わない…だが、店の商品を壊しても弁償は出来ないぞ?」
「ハッ、大層な自身だな坊主舐めてんのか?…だがまぁ安心しろや、この程度の二流品なら工房で十でも百でも作れる…仮に全部壊したってんなら、そのときゃお前さんの武器防具、なんならリズの剣もタダで見繕ってやるよ!」
――キラキラキラッ!――
その言葉に背後のリズ殿から凄まじい期待の籠もった視線を感じる…確かにあの時の剣は業物と言って良い代物だった…凄まじい値が付いたのも推し測れる…新調すればソレと同等の値が付く代物を買わねばならんし、その期待も理解出来る。
「〝タダで〟と言うのは気が引けるが…正直助かる…持ち合わせがそう多くはないのでな…その話、乗らせてもらう」
「応」
俺はガイデンへそう言い、剣の山を一瞥する…軽く30本は有るが…手始めに使うなら。
――スラッ――
この…標準的な規格の長剣だろう。
「コレが先だな」
「ほぉ?…ソイツか…理由は?」
「…コレが一番〝脆い〟――ッ!」
そう言い、片手で剣を振り抜く…素振りの形で放つ、雑な力だけの一振りは…その瞬間。
――バキンッ――
「「ッ!?」」
「…本当に、良いんだな?」
ただの一振りで、柄を握り潰し…剣身は砕け散った。
――カランカランッ――
2本目…コレまた〝脆い〟ものを手に取る…雑な一振りで壊れるだろう。
――バキンッ――
3本目…先刻よりやや丈夫だが誤差の範囲だ…力だけで潰れる。
4本目…3本目より長く、重い…だが剣の鋭利さでは負ける…まだ軽い。
5本目、軽く、鋭さに特化した一振り…力押しではその真価は発揮し切れないだろう。
「ガイデン殿…試し斬りがしたい…何か切れる物は有るか?」
「……売れ残りの鎧を使え」
「助かる」
――ヒュンッ――
5本目の剣は、空を切り裂いて試し切りの的を切り裂く…15分割…この剣が出せる最大を出して5本目は潰える。
6、7、8…一振り潰して、次の一振りへ移ろう毎に、その出来は上がっていく。
「何だ何だッ!?――おい親父、何やってんだ!?」
「〝試し切り〟だハンテン…よぉく見てろ」
剣撃を放っては、砕け、振り抜いては砕け…次々に剣を潰していく…そんな〝試し切り〟を試みること1時間と少し。
――カランッ――
「……最後の一振りか」
30本は有った剣山は、すっからかんに空け放たれ…最後の一振りだけが其処に残る。
――グッ――
「ッ…コレは…」
その最後の一振りを手に持ってみれば…俺はその〝出来〟に驚く…コレは〝二流品〟では無い。
――スラッ――
長剣にしてはやや長く、並の長剣の2倍は重い…刃の鋭さは言わずもがな…叩き切るだけでなく、〝撫で斬る〟事にも扱える…理想的な〝剣〟の、1つの形言える代物だ。
「…フゥゥゥッ!」
ソレを手に、試し切りの鎧を前に…息を吸う…そして、〝奮った〟…。
――〝ズガンッ〟!――
響く音は、たったの一つ…両断された金属鎧が空に落ちる…手に握られた剣は、〝折れていない〟…。
――カチャッ――
剣を地面に投げる…金属鎧と同じに、剣もまた地面へ落下を始め…そして、鎧と剣は同じタイミングで地面へ激突し――。
――パリーンッ――
そんな硝子の様な音と共に、鎧も長剣も、粉々の鉄の破片に成り果てたのだった。
「フゥッ……終わったぞ」
軽く呼吸を整えて、ガイデンの方に進む…すると、俺の試し切りを見ていたガイデンはハッと我に返り、額に汗を流しながらも、感心した様に俺を見る。
「マジか…耐久力だけなら、リズの傑作品も上回るレベルの物も詰めてたんだが…マジで全部潰しやがった…」
「〝壊せ〟と言われたから、そうしただけだ…普通に使う分なら、加減すれば問題無い」
俺がそう言うと、ガイデンは何か考え込む様に顎を手に当て…眉間に皺を寄せる。
「……ンンッ、何はともあれ…賭けはフロディの勝ちだなガイデン」
そんなガイデンに、リズ殿がそう言うと…彼は考え込みながらも、途切れ途切れにリズ殿へ答える。
「……応、俺の負けだぁ…男に二言はねぇ、オメェ等の武器防具は、俺の奢りで仕上げてやる…が、おい…坊主…お前名前は?」
そして、ふと俺の方に視線をやり名を問うので俺はガイデンへ名乗る。
「フロディ・オーガーだ」
「フロディか…うし、お前さんみてぇな〝剣士〟は初めて合うな…お前さん、アレでまだ〝全力〟じゃねぇだろ」
「…あぁ」
「最後の一振り…ありゃ、俺が仕込んだ無理難題の〝傑作品〟だった…アレを握って、お前さんどう思った…〝何が足りなかった〟?」
その目を、俺は時偶見たことがある…ソレは、優れた匠の目…最高の物を生み出そうとする物の餓獣にも似たギラついた目だ。
「…〝重さ〟と〝長さ〟…〝耐久度〟だな…長さは〝バスタードソード〟の規格が良い…重さは…アレの3倍…鋭さはアレで通用する…耐久性は、高ければ高い程良い…〝壊れない武器〟が前提として欲しい」
「ふむ…そうなると、そんじょそこらの鉄じゃ足りねぇか…良し分かった…久し振りに〝良い仕事〟を見付けたぜ…俺の剣を使って加減しねぇと壊すなんざ生意気な奴ァなぁ!」
俺の要望を紙に書き留めて、ガイデンはそう言うと…ニッと牙を見せて笑い、俺達へ言う。
「取り敢えず、繋ぎの武器は明日にゃ用意しておく…明日また取りに来い」
「……分かった、感謝する…〝ガイデン殿〟」
「よせやいアホンダラ、〝ガイデン〟で良い、俺もテメェをフロディって呼ぶからよぉ」
「そうか…なら頼んだ、ガイデン」
「任せろぃ」
そして、俺達は鍛冶工房を出る…すると、工房のドアベルに閉店の木板が掛けられ、工房の巨大な炉の煙突からは黒煙が轟々と吹き荒れていた。
戦場での主人公の戦い方は、殺した相手の武器を奪っては一振りで殺してを繰り返すスタイルだったとか。




