喪失者は野に垂れて
週一投稿(2本目)…小説の書き始めは筆がノリまくる現象、有ると思います。
幸い明日は休みですし、少し羽目を外して眠気が来るまで投稿しまくろうかな?
――ザッ…ザッ…ザッ…――
国を追われた者の末路は三つ…一つは、兵達崩れの賊となって討たれ死に、一つは力尽きて魔物の糞に成り果てる、そしてもう一つは…。
「……」
――ザッ…ザッ…ザッ…バタンッ――
兵隊崩れにもなれず、魔物の血肉にもなれず…野晒しに枯れて死ぬ。
「……」
あれから一体…どれ程の道を歩いただろうか?…日はとうに五度沈み六度登った…前に襲って来た国境兵を殺して奪った食糧は三日前には底を突いてしまったし、飢えを凌げそうな魔物もめっきり見掛けないどころか、本来人を襲う魔物、暴れ猪さえ、己を見て逃げ出す始末。
「…国を追われても、全て喪っても…血の匂いだけは残るのか」
とんだ笑い話だな…あぁ、本当に滑稽だ…何百何千、〝万人殺し〟と言われた殺人鬼の末路が…仲間を見捨てた〝英雄様〟の結末が…こんな野晒しの枯れ死体か。
「…〝生きて下さい〟……か」
瞼には何時も浮かび、離れない〝仲間の死〟…マトモに眠れる事などあろう筈もない。
目を閉じれば耳に戦場の悲鳴が満ちる、見たくもない死が目の前に迫る、鼻腔には腐った血肉の臭いがこびり付いて剥がれない、舌に広がる血と栄養の詰まっただけのエサの味が広がる。
そして開けば、其処に残るのは〝何も無い〟…住んでいた国も、家も、愛していた、〝俺だけが愛していた妻〟も……あぁだが、民の目に映る俺への恐怖や、他の兵士や貴族達からの妬みや憎悪が無いのは…少し嬉しいな…………。
………
…………
……………
「………結局は、こうなのか」
託された命は、仲間を捨てて得た命は…結局、塵芥に帰するのか。
「……悪い…悪いな……俺が…〝化物〟だった為に……俺が〝怪物〟だったから……お前達に託された生命を……無意味に、して…しまった…」
申し訳無い、悲しい、悔しい…なのに、なのに…あぁ、やはり俺は怪物だったのだろう……こんなにも、苦しいのに――。
「………涙の一つも、流せやしないか」
――カッ!――
照り付ける陽光が、俺の身体を熱していく…立ち上がる力も気力も無い、抵抗する意思も無い…ただ迫る〝死の刻限〟…暗い穴の底の先…〝地獄の釜口〟が俺を待っている。
「……あぁ…………本当に……俺は、惨めだな……」
その油煮立つ、苦悶の中へ身を投じる最中の最中まで…俺は本当に、何処までも惨めで、滑稽な男らしい。
『はいフロディ♪、あーん♡』
もう、何処にも無い…〝まやかしの愛〟を…何時迄も縋って居るんだから…。
「……リリシアの………ビーフシチュー……温かくて………やさ…しい……味…の……」
●○●○●○
――ガラガラガラッ――
「――本当に大丈夫ですかねぇ、隊長?」
夏日に照らされ、馬車が砂利道を揺れながら進む…その道中に部下がそう言い、私へ問い掛ける。
「――文句を言うな、そう言う命令だろう?」
私はそう言い、部下を窘める…何時もならコレで部下も引き下がるのだが…どうやら、今日此処に至ってはその限りでは無かったらしい…だが、ソレを責め立てまい。
「いや、ですがねぇ…幾ら王命とは言ってもですよ?…流石に〝リノベルト〟の国境付近を彷徨くのはヤバイですって!…特に〝停戦直後〟なんですから、向こうも気が立って何時〝我々〟に侵攻してくるのか分かったもんじゃない!」
「そうですよ隊長ッ!――国境付近に派兵した結果、龍の尾を踏む事になったら命が幾ら有っても足りません!」
何せ、我々が今いるのは…あの悪名高い〝リノベルト北方王国〟の国境間際…リノベルトを十数年で〝大陸有数の大国〟へと押し上げた〝リノベルトの白龍〟が守護する〝戦争国家〟だ。
「――はぁ…お前達の言いたい事は良く分かる…だがなコレは王命…何よりも〝第一王女〟たっての命令なのだ」
「ッ…第一王女様が…?」
その言葉に彼等は顔を引き攣らせて黙り込む…聡い部下で助かる…私だって胃が痛い。
『リ〜ズ♪――急だけど、今からリノベルトの国境に行ってちょうだい♪』
『――は、はぁ!?』
「あの時は国王陛下の面前で驚きのあまり叫んでしまった…今思い返しても胃が…!」
「「「「お気の毒に…」」」」
「だ、だが…王女様が言うには危険は無いし、直ぐに帰る事になると〝予見〟されたらしい…我々はほんの少し国境付近を撫でて帰るだけ、良いな!」
そんな風に、我々が馬車を走らせていると…不意に馬を引いていた部下が、声を上げる。
「ん?…た、隊長!」
「ど、どうしたぁ!?」
「出たのかキッド、〝リノベルトの白龍〟が出たんだなキッド!?」
「に、逃げましょう!」
「えぇい落ち着けバカ共!」
その言葉に部下が騒ぐ、ソレを一喝し…操縦士の部下の言葉に顔を出す…正直私も緊張しているが、だが万が一が有る。
「それで、どうした…まさか本当に白龍が出たとは言わんよな?」
「い、いえ!…ですが、アレを!」
部下の否定にコレほどの安堵を覚えたのは…いつ振りだ?…と、そんな悠長な事を考えていたが、部下の言葉に我に返り、指が指し示す方に視線を送る…すると其処には路上に倒れる〝人影〟が有った。
「ッアレは…!?」
「い、行き倒れです…いや、死体?…兎に角血塗れの人間が倒れていますが…どうしましょう」
その言葉に良く観察する…確かに血まみれで、衣服の所々…特に腹辺りが酷く破れている…ソレに傷だらけだ…だが、そんな異様な出で立ちにも関わらず、その周囲は驚く程綺麗だ…つまり。
「――〝確認〟するべきだ、もしかすれば生きている可能性が高い」
「ハッ!」
「ソレに……王女様の言う〝直ぐ帰る事になる〟とは、この事やもしれん、そうであって欲しい!」
(((願望…でも分かる!)))
○●○●○●
――パチッ…パチッ…パチッ…――
火花が散る音…焼け焦げた血と肉の音…苦悶の叫び。
「…地獄か」
今更、絶望などする必要も無い…こうなる事は分かっていた。
――ゴゴゴゴゴッ――
足元が揺れ動き、灼熱と共に爛れた腕と…見覚えのある顔が俺へ縋り付く。
「隊長、隊長おぉぉぉぉぉ…!」
「何でェ、何でェ貴方が死んでェェ」
「俺、俺れ、俺、達、の…約束…!」
「あぁ…やっぱりこうなるのかよ…」
「「「「隊長、俺達はアンタを信じてたのに」」」」
ソレはかつての俺の部下であり…俺が見捨てた…〝仲間の成れの果て〟…。
「……あぁ、地獄だ…間違い無い」
それの言葉が、俺の心を抉り…俺の腕を引いて炎の中に沈んで行く…気づけば、俺を引き込む腕は、一の位を超え、十の位を超え…百を、千を超えて〝万〟に昇る…ソレは、俺が戦場で殺した者達の姿だ。
『死ね、死ねよ化物』
『お前の所為で俺達は、私達は、僕達は』
『ようこそ英雄…お前も一緒に堕ちようゼ』
抗うつもりは毛頭無い…とっくの昔に俺の予約席は埋まっている…今更、殺戮の罪を逃れようなんざ思っちゃいないさ。
「……報いは、受けるよ……〝好きにしろ〟」
俺がそう言うと、万の亡者の腕が俺を引き込む…ソレと共に炎に包まれた…その時――。
――バシャッ――
『は、はわ、はわわッ!?――な、なんてことを…!』
不意に、冷たい水の感覚が顔に飛び散り…意識が引き剥がされる…そして、今までの光景が夢だと理解したその瞬間…俺の瞼は開かれた…次に浮かんだ疑問は――。
「………〝生きている〟…?」
生への疑問だった…身体を起こし、自身の状態を確認する…なんともない…すこぶる健康体だ、空腹感もなければ朦朧とした意識もハッキリと冴えている…。
「……」
――ガリッ――
「血が出た、微かな痛みも感じる……〝現実〟か?」
「――なーにやってんですか!?」
指を噛み、痛みの有無を確認していると、今度は横合いからそんな声が響く…此処が現実なのは理解した…ならば次は、所在の確認だ。
「――貴殿が助けてくれたのか」
俺はそう問い、声の主を見やる…其処に居たのは一人のメイドだった。
「ハッ!?――っていうか意識戻ったんですか、戻ってますね!…直ぐにリズねぇ―リズ様を呼んできます!」
「……そうか」
そのメイドは随分とそそっかしいようで…落ち着きが無く何かを考えながら俺の側をウロウロとしていた。
「――ってそうじゃないッ、先ずは患者様を水浸しにしたのでお着替えと清掃を…!」
「……俺が代わりにしておくぞ」
あまりにも忙しないので、俺がそう申し出ると…その娘はパッと顔を明るくさせて、俺を見る。
「本当ですか!?――って、患者様に手伝って貰う訳には行かないでしょう!?――良いからジッとしてて下さい、まる1週間も寝通しだったんですから!」
しかし、直ぐにそう言い申し出を断ると、またどうすべきか思案を始める…しかしそうか、俺は1週間も寝ていたのか。
「えっと、先ず掃除…掃除して着替えを持って来て、あ、でも1週間寝ていたなら食事も必要よね、それからリズ姉を呼べば――」
「……取り敢えず、リズと言う御仁を呼ぶのはどうだろうか」
「そうですね!――御助言ありがとう御座います!」
一先ず、そそっかしいメイドの娘へそう言うと…メイドは風の様に部屋を出て行く……出て直ぐ後に先輩らしき女性から叱られている声が聞こえるが…大丈夫だろうか?…。
「いや…ソレはソレとして……先ずは状況の把握が先決か……その前に」
その事は一先ず置いておくとして…俺はベッドから出て、自身の衣服と水浸しのベッドを確認する。
「先ずは清掃からだな」
緩い騎士達とそそっかメイドちゃんの登場…因むまでもなく騎士達の隊長はそそっかメイドちゃんの姉です。




