生命の別れ、友との別れ
――ゴトンッ――
竜の首は…分かたれた…眠るように目を閉じるその姿は…コレが本当に、兵士達を襲い、先程まで暴れ狂っていたあの暴竜なのかとさえ感じ入るほど…穏やかだった。
――ドクンッ――
身体が重い…頭が痛い、吐き気と、行き場のない怒りが満ちて今にもこの口から、耳から、ありとあらゆる穴から溢れだし…叫び狂いたい気分だ…。
――ジッ――
「いや……いやだよ…、そんな…だって…まだ彼は生きてた……」
視線の先に居る、精霊の娘と目が合う…あぁ…やはりそうなのか。
俺は永遠に…〝変われない〟らしい。
「……後日、国の者が竜の遺体を回収する…せめて首だけでも弔ってやれ」
俺はそう精霊の娘へ言い、背を向ける…。
「……貴方なんて…大っ嫌い…!」
「…………あぁ………〝知っている〟」
「ッ…!」
ソレがあの娘の悲しみを癒すのならば…受け入れよう。
何……憎悪や殺意を向けられる事には慣れている…幼子から嫌われるのも、いつも通りだ。
好かれよう等……怪物には、あまりに分不相応な願いだろう……だから、コレでいい。
――ピキッ…!――
●○●○●○
――ガラガラ…ガラガラガラ…――
「お嬢様、どうやら彼が帰還した様です」
「えぇ、そうみたいね」
「たった〝1日〟で竜を討伐したとか…流石の武力です」
「……」
眼下から朧気に見える、馬車から降りる、一人の男を…〝彼女の騎士〟を見て、リズは尊敬と憧憬を込めて見下ろす…その主であるへカティア王女もまた、愛しい騎士の凱旋に視線を落とす…しかし、彼女の表情は優れず…酷く苦しげに眉を顰めて静かに男を見下ろしていた。
「…リズ、悪いけどもう少しだけ〝私の護衛〟に付いてちょうだい」
「?…私は構いませんが…彼はどうされるので?」
「少し、彼には休憩が必要でしょう……〝疲れている〟見たいだし…ね」
「?……承知致しました」
…………………
……………
………
「――竜に何らかの異常が起きていた…か」
玉座の間で、白髪の男が跪き…その男から届いた報せに、国王は顔を顰め…考え込む様に虚空を見詰める。
「はい…あの森に流れ着いた幼い精霊が〝呪い〟に掛かっていたととれる発言をしていました…恐らく、その呪いによって正気を喪っていたと…思われます」
そんな王の言葉に、男は肯定し…言葉を選びながらそう王へ事の経緯を説明する。
「ふむ…呪いに患った竜…森に棲み着いた精霊か……ただの暴れ竜が出たと言うだけかと思ったが…中々釈然とせん結末だな……して、その竜はどうした?」
その言葉を聞き、王は男を見据えそう言うと…騎士は一瞬…深い沈黙に浸り…それから、王の問いへ嘘偽りの無い言葉を紡ぐ。
「………殺しました、遺体は南方の森の奥に………首は精霊の幼子が供養の為にと」
「…そうか」
その言葉に二人の間に長い沈黙が続く……時を経る毎に重く、深まる沈黙に…一言の歪を投げ入れ、沈黙を打ち破ったのは…王だった…。
「――〝調査隊〟を、南方の森へ向かわせる…この件が単なる〝暴れ竜退治〟だったなら…俺の方で処理出来たが…〝呪いに侵された竜〟とあっては、その呪いの出所を探らねばならん…お前の名と功績も…俺の家臣等に知れ渡ってしまうだろう」
その言葉に、騎士は少し沈黙し…それから、王に返す。
「…私は騎士です…命令ならば、如何様にも」
その返答に王は男の跪く姿をジッと見つめ…感謝の意を告げる
「……悪いな………報酬は多く取らせる…休息もな、後の事は俺の方で処理しておく…今日はもう休むと良い」
「…有り難く頂戴致します」
その言葉に、騎士はゆっくりと立ち上がり…王へ感謝を伝えると…静かな足取りで、王に背を向け、玉座の間から立ち去る…その姿を王は、ただ静かに見詰めていた。
●○●○●○
――カラカラカラカラッ――
馬車が、晴れ日の空の下を進む…無数の馬と、大きな荷台を引き連れて。
――ガタンッ――
やがて、その馬車の群れは森林の中へ進路を定めて進み…中程にまで進んだ頃…馬車の中から屈強な兵士達が幾人と、如何にも学者然とした様子の人間達がぞろぞろと現れ、その中から偉そうな雰囲気の男が森の中に響き渡る声量で言葉を紡ぐ。
「我々はイルズ東方王国の者だッ、森の精霊殿…聞こえているか!」
その言葉に、私は返す……『聞こえている』と。
――ヒュウッ…――
「―――一体、何用なの?」
そう言い、私は彼らの前に姿を表す…彼らが来た理由なんて、とっくのとうに理解しているのに。
「ッ…精霊殿、お初にお目に掛かります…私はイルズ東方王国、第四騎士団団長のクライツと申します…お会い出来て光栄で御座います」
私の姿を認めると、人間達の視線が私に集まる…その顔が緊張で満ちる…人間にとっては私達は敬うべき相手であるのだと、樹の母様から教えられた…だから、彼等の様子に驚きは無かった…。
「そう…それで…此処に来たのは何故?」
「ハッ…実は、王より命が下されまして…この森に棲み着いた竜の遺体を回収する様にと命じられました」
けれど…改めてその口から紡がれた言葉に、私はほんの少し魔力を零す…ソレはほんの一瞬で…完全に魔力を抑え込んだけれど…その一瞬の魔力の放射に彼等は死の危機を感じたのだろう…顔を青くして私へ言う。
「お、お待ちを!……我々は貴殿と争うつもりはもうとう有りませんッ!…ただ〝呪いを患った竜の遺体〟を回収し、呪いの根本原因を解決する為に此処へ赴きました!」
「――御免なさい、そんなつもりはなかったの…でも…あのドラゴンは私の大切な友達だったから…」
「ッ!…それは…」
私は彼等謝罪しながら、彼等へ付いてくるよう促す。
「……本当は…分かってたの」
「ッ!」
「あの人間の言っている事は正しいって……でも、私は大切な友達を失いたくなくて、彼を否定した…彼へ八つ当たりをしてしまったの…」
そして、私は隊長さんへそう言い…彼へ聞く。
「…もし、頼めるなら貴方に伝言をお願いしたいの……白い髪の騎士に…謝りたいと」
「……えぇ…承知致しました」
そうこうと言っている内に…私は道行く先の〝広間〟に着く……そして、その目に映る〝友人の骸〟を見ながら、人間達へ言う。
「あれが…私の友達…〝呪いに掛かった竜〟の亡骸…彼の首は埋めてお墓を作ったから…身体は貴方達に譲る……ちゃんと役に立てて…お願い」
「……お任せください」




