竜の首
n本目の投稿…良い物が出来て満足、おやすみ。
『ヒッ、化物…!』
「…質問に答えろ、〝アレ〟は何だ…何が起きている」
心底から怯えたように俺を見る精霊、彼女にそう問いながら…陰から〝アレ〟を観察する。
――ブンッ!――
「グルルルッ、ガルルルルッ――グラァァァァァッ!!!!」
咆哮を上げ、木々を薙ぎ倒し…怒りに任せて暴れ狂う…悲鳴を上げて苦しむ〝人間〟を好んで食糧にする様な〝人喰い竜〟の様で有りながら――。
――『助けて、ドラゴンさん!』――
この娘と、ある程度良好な仲を築ける〝知性〟と〝温厚さ〟を有しているらしい…〝重傷を負った騎士達〟が全員回収された事も鑑みれば…本来のあの個竜は、比較的融和的な性格の筈。
(根本的な原因が外部要因で有るならば…或いは和解出来るかも知れない)
「――どうした、早く答えてくれ」
『ヒッ…いや、嫌だ…だって、貴方…貴方ドラゴンさんを殺す気何でしょうッ!?』
俺はそう考え、抱えた精霊に問い掛ける…しかし、そんな俺へ返ってきたのは、精霊からの拒絶だった。
「は?…そんな事を言っている場合かッ…アレを野放しにすればどうなるか、この森に根を下ろした精霊が分から無い筈も無いだろう…!」
その拒絶に俺はそう言い、何とか彼女を説得しようとする…しかし、それは益々精霊の怒りを刺激したらしい。
『――五月蝿いッ…お前なんか、信用出来るものかッ!』
「何を言って――」
子供の様に錯乱する精霊を、何とか抑えながら落ち着かせようとする…だが。
『――お前の様な〝人殺しの化物〟の言う事は信じないッ!』
精霊の子供の放つ…その一言に、俺は一瞬…ほんの一瞬だけ…思考を止める。
『化物』『大鬼の子め』『怪物』『人殺し』『殺人鬼』『虐殺者』『魔王』『化物』『化物』『化物』『バケモノ』『バケモ―。
しかし、その一瞬が不味かった。
『ドラゴンさんッ!』
「ッ!?――不味いっ!」
精霊の声に、俺は我に返る…そして、自分の失態に気付き、直ぐに精霊を止めようと走り出す。
○●○●○●
『ドラゴンさんッ!』
荒れ狂うドラゴンに、私は呼びかける…。
「グルゥッ…」
その声に反応した彼が、暴れるのを止めて私の方を見る。
『ドラゴンさん、ねぇ!…本当はまだ、其処に居るんでしょ!?――死んでなんかないよね!?』
きっと、私の目に見えないだけ…未熟な私には分からないだけで…彼の意識はまだ、きっと…魂の奥底に眠っているだけだ。
『私だよヒューイだよッ、覚えてるでしょ!?』
私の呼び掛けに、ドラゴンは答えない…ただ、私を静かに見ている。
『ねぇ、ドラゴンさん!…聞こえてるなら返事を――!』
そして…私がそう言ったその時…ドラゴンさんが吼える。
「ガアァァァァァァッ!?!?!?」
『ッドラゴンさん、待って――!』
その咆哮に、私が静止の声を上げた時…彼の尾が…私目掛けて振り降ろされる。
『ヒッ…!?』
その怒気と殺意に、私は固まり目を閉じる…その時。
――ギュッ!――
『ッ!?』
「グゥッ!?」
私を抱き締める感覚に驚いて目を見開いた瞬間…凄まじい勢いで私は遠くに吹き飛ばされる。
世界が一瞬で過ぎ去り…森の木々に激突しようとした、その時…誰かが私の身体を引いて…私に覆い被さる…その正体は。
――ズガガガガガガッ!!!――
「――ガフッ…!?」
『嘘……何で…!』
私を追って、ドラゴンさんを殺そうとしていた…あの人間だった。
●○●○●○
痛い……痛い……痛い……痛い。
苦しい…息が出来無い…怖い…辛い。
違う…違う、俺は…ただ…皆を…。
俺は…■■なのに――。
「――ハァッ!」
意識が戻る…あぁ、そうだ…戻らなければ…果たさなければ…仕事だ…役目だ…己の意思で…押し通した選択だ…。
「……殺さなければ…民が死ぬ…仲間が死ぬ…皆が死ぬ――」
『――待って!』
「――大丈夫、俺が〝守るから〟」
〝殺せ〟……お前は〝怪物〟だ。
――ダンッ――
大地を抉り…蹴り進む…一瞬…景色が飛び…目の前に〝竜〟が映る。
「――〝斬る〟」
標的が俺を見る…だが、捉えた所でもう避けられない。
――ブンッ!――
「――グラァァァァァッ!?!?!?!?」
〝14撃〟…竜の身体を一息に刻む…だが。
「恐ろしく硬い…」
(硬度は中級竜以上か)
その鋼を遥かに超越した鱗の守りも有ってか、傷は浅く…竜の再生力で血は直ぐに止血される…連撃では仕留め切れないか。
――グッ!――
「――なら〝一撃〟ずつ…その骨を確実に断つ」
切り替え、次の手を試そうとする…しかし、そんな俺を、明確な脅威と捉えたのか…将又〝人間に傷付けられた〟事が己の矜持を傷付けたのか…竜は憎悪と殺意…親しみ慣れた感情を俺へ注ぎ…怒りに任せて吼える、暴れる。
――ブンッ!――
「――鈍い」
――ゴンッ!――
竜の爪を剣で押し返す…それに態勢を崩した竜は、その姿勢を利用して俺へ尾の一撃を見舞う…しかし。
「――悪手だな、竜」
その行動は俺にとって願ってもない好機だった。
――ブゥンッ――
迫りくる尾に対して、両手に握った剣を上段に構え…時を待つ…尾はそんな俺へ躊躇無く肉薄し…再び俺の身体を打ち据えんと迫る…だが、ソレが俺へ触れる刹那。
――バツンッ!――
その尾は…骨諸共に剣の一閃に断ち切られ…竜は苦悶と共にバランスを崩して転ぶ。
「〝威力〟は申し分無い…武器は揃った…後は首と心臓を落とす…!」
○●○●○●
――ズウゥゥゥンッ!――
地面に転びながら…己は胸中に沸いた疑問と痛みに叫ぶ。
「ギャオォオンッ!!!」
〝何だ…この痛み〟は。
〝何だ…この屈辱〟は…と。
驚きと共に見てみれば…其処には己の断ち切られた尾と、矮小な人間が一匹…あの小さな身体で、よもや己の攻撃を受け流し…剰え尾を断ち切ろうとは…。
有り得ない、意味が分からない、夢幻、現実じゃない、到底…認められよう筈がない。
「グルオォォォッ!!!」
怒りに喉が熱く猛る…如何に、アレが優れた武勇を有していようと…如何にソレが凄まじい剣技を有していようと…〝最強の魔物〟の放つ炎は防げまい。
――バチッ――
「――ガアァァァッ!!!!」
そうして放った、その炎は矮小な人間を焼き尽くし――。
――ゴウッ!――
森林を己の業火で焼き尽くした。
「――ギャウッ!」
コレで死んだだろうと…己はそうして炎を吐くのを止めると…その瞬間。
――ブワッ!――
炎の中から現れた〝人間〟が…己へ肉薄する。
「グルァッ!?!?」
殺したと思っていた筈の奴が生きていた…その事実に己は思わず身を捩り…それが幸か不幸か己の傷を最小限に押し留める…それでも、己の疑問は止まらない。
「――チッ!」
何なんだ、コイツは!?!?
●○●○●○
――バサッ…バサッ!!!――
「グルオォォォ!!!」
咆哮と共に、翼をはためかせ…その強風が空中に居た俺を吹き飛ばす。
「…飛ばれたか、面倒だ」
(だが逆に攻撃方法が絞られる)
「――〝叩き落とす〟か」
そして、飛翔する竜と俺は睨み合い…第にラウンドを開始させる。
「グルオォォォ!!!」
先行は竜から、俺に物理戦闘は惨敗した為か…奴の顔に警戒が露わになる…攻撃も竜の吐く炎の吐息と、単純で強力な一手だ…だが。
――ボンボンボンッ!――
炎の速度は音より遅い、ならば避けるのは雑作もない。
「――次」
「ッ――ギャオォォッ!?」
俺がそう言い、駆け出すと…竜は警戒してそう叫び、炎を溜める…成る程、〝点の動き〟では俺を捉えきれない…ならば〝面制圧〟でと言う訳だ。
――カッ!――
手としては悪く無い…何も対応策が無ければな。
――グッ!――
地面目掛けて拳を思いっ切り振り抜くと…大地が隆起し、分厚い岩盤が盛り上がる。
――バキッ!――
ソレを盾に炎を受け流し…俺はその岩盤を蹴り上げる。
――ドゴォッ!――
蹴り抜かれた岩盤はそのまま炎の中を突き進み…空中に居る竜の頭蓋へと激突する。
――バコンッ!――
「ギャウッ!?!?」
その一撃で撃沈すれば楽だったが…どうやら、ソレにはまだ足りないらしい…だが、それなら次の手を打てば良い。
――ドゴォッ――
2つ目の岩石を蹴り上げ…蹴り砕く。
岩石は石の塊となり、空へ投げ出される…コレで〝道〟は出来た。
「――ッ!」
世界が歪む…足が踏むのは〝大地〟から、〝岩盤〟へ、〝岩盤〟から〝岩石〟へと移ろい…空を舞う岩石の道を通じて、竜の元へ肉薄する。
「ガァッ!?」
「――驚いたか竜…だが、種も仕掛けもない」
驚きに満ちた竜へ、俺はそう言い…竜の頭上を取る。
「――〝墜ちろ〟」
そしてそのまま、岩石を蹴り抜き、真下の竜の背へ落下し…同時に剣を振り抜く。
――バツンッ!――
「〝翼〟は邪魔だな」
「ガァッ!?」
翼を喪った竜の末路は虚しく空から落とされ…森に凄まじい砂塵を撒き散らし…呻く。
「ガァッ…グルルルァッ!」
しかし、まだ怒りの炎は消えていないのか…殺意と憎悪は俺へ注がれ…奴は最後の抵抗に…炎を俺へと放とうとする。
「――大人しくしろ…そうすれば、苦しまずに殺してやる」
「グルルルルゥッ…!」
互いに見合い…次の動きを待つ……コレで戦いは決着だと…そう予感したその時。
『――待って、殺さないで!』
その声によって、均衡は崩れ…〝戦局は動き出した〟…。
「ッ――グルァァァッ!!!」
竜が炎を吐き出す…その炎に身構えていた俺は…その瞬間炎を防ごうとする…だが。
――ジッ!――
〝その違和感〟に…全身がゾクリと産毛立ち…竜の炎の矛先を追う……その狙いは。
「ッ――チッ!!!」
幼い精霊の娘だった。
――ダンッ!――
防御の有利を捨て、精霊の方に駆け寄る…精霊も迫る業火を前に、何とか耐えようと風の膜を展開する…だが、精霊の出力している魔力の膜では精々熱を和らげる事しか出来ず…到底竜の炎に耐えられるとは思えなかった。
――ジュッ!――
故に…俺は精霊と炎の間に立ち…精霊に炎が行かぬ様にと立ちはだかる。
『ッ!?』
「グッ――ウゥゥゥゥゥッ!?!?」
熱で皮膚が焼け焦げる…鎧は熱した鉄板の様に熱く張り付き…その苦悶と、肉が焼ける臭いに耐える。
その放射は、僅かな5秒程の物だったが…その苦痛は何十分にも感じる程に過酷だった…だが。
――ブワッ!――
炎は枯れ…奴の最後の抵抗も終わった…ならば…後は〝首を刎ねるだけ〟――。
「ハァ…ハァッ………は?」
…だった。
――ゴンッ、ゴンゴン、ゴンッ!――
竜が、自身の頭を地面に打ち付ける…己の爪で、己の身体を引き裂き…血を撒き散らす。
「グウゥゥゥッ、グルゥゥッ――グルァァァッ!!!」
苦悶の声が木霊し……その〝悲鳴と奇行〟に…俺は思わずそう、言葉を漏らす…すると。
「グルゥッ…グゥゥッ――ニン……ゲンッ……!」
「ッ!…喋った…」
「――ハヤク……コロセ…!」
竜が、苦悶の叫びの中でそう、ポツリと俺へ告げる…その言葉に、俺がそう言うと背後に居た精霊が、竜へ叫ぶ。
「ドラゴッドラゴンさん!――戻ったの!?」
「――ヒュー…イ……!」
「ッドラゴンさん!――」
「クルナッ!!!」
その言葉に、精霊が駆け出そうとする…だが、その行動を竜が制止する。
「ワレ…ハ、モウタスカランッ……ワレノニクタイガ…ソノイノチ、カレハテルマデアバレクルウ…オマエヲ、殺、コロスマエに…〝ニンゲン〟…オマエガワレヲコロセッ!!!」
『そんなッ…嫌だ、待ってよ…殺さないでよッ!』
竜の言葉に、ヒューイが俺を見てそう叫ぶ。
「コロセ」
『駄目ッ』
「コロセッ!」
『やめてッ!』
「殺せ、人間!」
『絶対駄目ッ!』
死を求める竜の理性と、友を殺したくない精霊の言葉が…俺へ矛盾する選択肢を求める…。
「……」
…………選択の、余地は無い。
「……………」
――ザッ…――
『ッ…やだ』
「………ソレデイイ」
巫山戯るな。
『ッ待ってよ…待ってよぉッ……嫌だよ、駄目だよッ!』
「……」
巫山戯るな。
『お願いだから止まってよ、殺さないでよッ……ドラゴンさんは、私の初めての友達何だッ……私が…私がきっと、もっと強くなったら、ドラゴンさんの〝呪い〟だって何とか出来るからッ…それまでは――!』
何故……何故、何故こうなる。
「……それまでに〝何人が死ぬ〟」
ただの竜退治であった筈だろう。
『ッ…!』
ただ竜と和解するか、追い払えば良かった筈だろう。
「…………彼が…理性を保てるのは、この、ほんの一瞬だけだろう…人を襲わないと、保証出来無い以上……〝様子見〟では済ませられない……――」
何故、こうなる…せめて――。
――カチャッ――
〝化物〟で在れよ…魔物だろう…!。
「……〝その首貰い受ける〟」
「……タノム」
『ヤダ、ヤダッ、ドラゴンさ――』
――ブンッ!――




