竜と精霊
3本目…4本目、待て次回。
――ザッ…ザッ…ザッ…――
「……ただの森…だな」
目の前に広がる森林を見て…俺はそんな感想を抱く。
――ザァァ…!――
――ピーヨピヨピヨピヨ――
風に揺られる木の葉、木漏れ日差す森林道…命の気配は穏やかで、特別何か竜の目を引くような物は無い様に感じる。
「……〝違和感が無いのが違和感〟か」
だが、俺はその気配に改めてそう認識を改め…森の中へと一歩、踏み出した。
――カチャッ――
剣は事前にガイデンから借りた代替品を借り受けている…斬れ味は悪いが、特別頑丈らしい。
「竜と戦う前に、実戦での使用感を試したいが…その為に無闇に命を奪うのもな…」
――バサバサッ――
そうして、俺は森の中を進み…件の竜と遭遇した場所へ向かっていると…。
――『……!』――
「ッ!」
不意に俺の耳に〝何かの声〟が聞こえてくる…その声は小さく微かだが、〝人の声〟の様な物を感じ取り…俺はその声の方へと駆け抜ける。
――ドッ!――
風景が歪み、道行く先の木々を躱しながら進むと声はすぐ近くにまで響き…茂みを越えたその先に〝声の主〟は居るらしい…そして。
「ゲギャッ、ギヒャヒャッ」
「ギャアギャアッ!」
『来ないで!』
茂みから抜け出し、声の主を探してみれば…其処には無数のゴブリンから逃げ惑う子供の姿が有った。
「ッ――此方だ!」
『ッ――人間!?』
その姿に俺が声を掛けると、少女は俺の事を認識する…しかし。
「来い!」
『ッ…!?』
俺が手を差し伸べ呼び掛けるが…少女は何故か俺とは反対の方へ逃げて行く。
「ッ…待て、此処は竜が出――」
その姿に俺が何か言おうとした…その瞬間。
『――〝風よ、吹き飛ばせ〟!』
少女は空中を飛びながら森の奥へ消えていき…そして、トップでゴブリン達を俺の方に吹き飛ばしてきた。
――ブオォッ!――
「ッ今のは…〝精霊〟…!?」
(南方の森の魔力は普通だと言っていなかったか…いや、違うな)
風に吹き飛ばされない様に身体を踏ん張りながら…今さっき逃げた少女の姿を思い出す。
(内包する魔力が少ない…まだ若い〝流れの精霊〟が…此処を住処に選んだのか)
成る程…此処最近の個体なら調査記録と一致しない筈だ…それに、流れとは言え精霊が住処に選んだなら、自然に流れる魔力も豊満になる…其処ならば、竜が寄り付く事も珍しくない。
「――ならば、あの精霊に話を聞く価値は有る」
此処に居着いた竜の居場所が分かるかも知れない。
「げ、ゲギャッ?――ゲギャァッ!!!」
「「グギャッ、ギイギィッ!」」
強風が収まり、改めて追い掛けようとする…しかし、そんな俺の目論見を阻むように、ゴブリン共が俺の前に立ちはだかる。
「邪魔だ、退け…と、言っても分からないか」
(ゴブリンは嫌いだ…知能がない上に、数が多い…何より…〝殺す他に選択肢が無い〟)
「……お前達に構ってる暇は無い」
そんなゴブリン達を目の前に…俺は駆け出し…〝剣を振るう〟…。
――ザザザザザンッ――
その刃は、全てのゴブリンの首を跳ね…地面にゴブリンの血溜まりを作り出す。
「…見失わない内に追うか」
ソレを尻目に…俺は再び、遥か遠くに見える精霊を追って駆け出した。
●○●○●○
『――アレが、少精霊の言っていた〝人間〟…!?』
森の奥地へ逃げながら、少女はそう言葉を紡ぐ。
――『此方だ!』――
精霊たる彼女は、己が見た〝人間〟の…その〝悍ましい姿〟に冷や汗を流し…呟く。
『あんなにも〝淀んだ魂〟…見たことが無い』
彼女の脳裏にこびり付くのは、あの一瞬で見た…男の〝魂〟…。
――ゾゾゾゾゾゾッ――
黒くて、暗い…悪意が纏わり付き、へばり付いた〝淀んだ魂〟…一体どれ程の恨み辛みを抱けばあんな魂が生まれるのか…幼い精霊がそう、思慮していると。
――ダンッ!――
『ッ!?』
不意に、己の背後で響いたその音に…精霊が後ろを振り向く…彼女の背後には、その遥か遠方から凄まじい勢いで此方へ駆けてくる〝人影〟が居た。
『――嘘ッ!』
「――ッ〜〜〜!!!」
ソレは、彼女が見た〝悍ましい魂の人間〟…ソレが何かを発しながら鬼気迫る様相で己の元に迫ってくる…その光景に精霊は恐怖に駆られ逃げる足を速める。
『何、何、何あの人間…!?』
(怖い、怖い、怖い、怖いッ!)
しかし、そんな逃走は意味をなさず…男の声は徐々に近付いてくる。
「――待て――待てッ―!!!」
『ッもう追い付いて来た…!?』
(嘘でしょ、五百メートルは離れてたのに…!)
ソレに驚き、精霊が後ろを確認すると…其処には今にも己を捕まえんとする人間の腕が迫っていた。
『ヒッ…!?――〝風よ、吹き飛ばせ〟!』
その恐怖に、精霊が力を行使して…人間を吹き飛ばさんと魔術を行使する…すると。
――ビュンッ――
「グッ――クソッ!?」
その突風が、男を押し留め…精霊との距離を遠ざける…しかし、それも時間稼ぎにしかならない。
『どうする、どうする…どうすれば良いの…!』
精霊は取り乱し…そして、助けを求めるように〝あの場所〟へと向かう…そう。
『……ドラゴンさん…!』
己の住まう森に現れた…〝大きな友人〟の元へと。
○●○●○●
「ッ…クソ!」
(完全に警戒されている…)
突風による後退と、全力で逃げる精霊によって引き離される距離に舌を鳴らす。
「…どうにかして誤解を解きたいが」
残念ながら…俺がこの手の幼い子供に嫌われなかった試しがない…その事実が重く伸し掛かる。
(――だが四の五の言っては居られない、何としてもあの精霊に話を聞きたいッ)
その為にも…なるべく足止めをしなければ。
――ダッ――
強風を凌ぎ…再度疾走する…かなり距離は離れているが、先程の速度ならば追い付くことはそう難しくない。
「掴む前に吹き飛ばされる…なら」
――ガッ!――
(物を投げて転ばせる…!)
剣を鞘に収め…全力で追い掛ける…その狙いは精霊…何時でも剣を投げ込める様に構えつつ…大地を、木々を蹴り進んで加速する。
――ダダダダダダダッ――
グングンと精霊の背が近づいて来る…同時に精霊も俺の気配に勘付いたのだろう…先程以上に加速しようとするが、これ以上は速度を上げられないのか、距離は少ししか進まない。
「――今」
そして、遂に…俺が精霊を直ぐに捕らえられる範囲まで近付いた瞬間…俺は、鞘の付いた剣を掴み…投げ込もうとする…その刹那。
――ゾッ!――
不意に感じた〝嫌な気配〟に…精霊を呼び止める…だが、その瞬間。
『ドラゴンさん、助けて!』
精霊がそう叫んだその瞬間…精霊の真横から…木々を押し倒しながら…真っ黒な竜の〝口〟が…精霊を喰らわんとしていた。
「ッ―― !!!」
●○●○●○
『……え?』
その瞬間…私は、思わずそんな声を漏らす。
――ガバッ――
巨大な口、無数に生えそろった鋭い牙…私何かを丸呑みにするのは造作もない、その口と…彼から発せられる…凄まじい怒気と殺意に。
『なんで…ッ!……嘘ッ…』
私の声に、彼は答えない…けれど…私の目に映る〝彼の魂〟に…私は思わずそう言葉を漏らす…何故ならば。
――ゾッ!――
私の目に映る〝彼の魂〟からは…既に〝彼の理性〟が完全に消えていたのだから。
『そんな…』
私の言葉にも、彼は何の反応も見せず私へ迫る…その牙を避ける事は出来ず…私が目を閉じた…その瞬間。
――ビュンッ!――
私の背後から…凄まじい勢いで何かが突き抜け…彼の顔へと思いっ切り減り込み仰け反らせる。
「グオォォォンッ!?!?!?」
『ッ…何が』
その突然の出来事に、私が呆然とそう呟いていると。
――ガシッ!――
「――話を聞かせてもらうぞ、精霊」
『ッ!?』
そんな言葉と共に…その人間が、私を抱き抱え…其処から茂みの中に飛び込んだ。




