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葬儀



 篠原香織の通夜が近くの斎場で行われることを零は学校の噂で知った。


 行くべきかどうか何日も迷った。


 自分が直接手を下したわけではない。会ったこともない見ず知らずの相手だ。行ったところで何ができるわけでもない。


 それでも零は行かずにはいられなかった。


 斎場の入り口には篠原香織の遺影が飾られていた。


 制服姿の明るい笑顔。年齢は確かに十六歳。零や紗月と同い年だった。


 参列者は多かった。友人らしき同年代の子たちが涙を拭いながら順番に焼香をしていく。


 零はその列の一番後ろに並んだ。場違いだと分かっていた。それでも動けなかった。


 焼香を終え遺族に一礼して離れようとしたとき隅で泣いている小さな女の子の姿が目に入った。


 小学生くらいだろうか。制服姿の女性――母親らしき人がその子の肩を抱いていた。


「お姉ちゃん今日一緒にプリン食べようって言ってたのに。」


 女の子の声が耳に届いた。


「約束したのに。」


 母親は何も言えずただ娘の背中を撫でていた。


 零はその場に立ち尽くした。


 ――俺が紗月を助けたから。


 その事実が初めて抽象的な数字ではなく一人の確かな人生として零の前に突きつけられた。


 篠原香織には日常があった。約束があった。プリンを一緒に食べる予定のある妹がいた。


 その全部があの夜途切れた。


 零の代わりに紗月の代わりに。


 斎場を出て零はしばらくその場から動けなかった。


 雨は降っていなかったが空は重く曇っていた。


 ――俺はこれから先も同じことを続けるのか。


 初めてその問いが零の中にはっきりと生まれた。


 紗月を救ったことを後悔はしていない。それでもその代償をこれほどまでに具体的な形で見せつけられるとこれまでの自分の判断があまりにも軽率だったように思えてならなかった。


 その夜零は一人で泣いた。


 誰にも話せなかった。紗月にも言えなかった。


 この重さを誰かに背負わせたくなかった。

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