あの日の告白
中学三年秋。文化祭の準備期間だった。
クラスの出し物はお化け屋敷に決まった。零と紗月はくじ引きで看板作りの担当になった。
「零、絵下手すぎない?」
紗月が零の描いたお化けの絵を見て腹を抱えて笑った。
「うるさいな。芸術は爆発なんだよ。」
「それ絶対違う意味の言葉だよ。」
放課後の空き教室で絵の具まみれになりながら二人は看板を仕上げていった。
窓から差し込む夕日が教室を橙色に染めていた。
絵の具の匂い遠くから聞こえる吹奏楽部の練習音紗月の笑い声。
その全部が零の中で一つの大切な情景として記憶に刻まれていった。
文化祭の当日。
準備の疲れが出たのか紗月は来場者が途切れた合間に教室の隅でうたた寝をしていた。
零はその寝顔をしばらく黙って見ていた。
いつも明るく誰にでも優しい紗月がこうして無防備な顔を見せるのは珍しかった。
この時間がずっと続けばいい。
そう思った瞬間自分の気持ちの正体に零は初めて気づいた。
文化祭が終わった夜後片付けを終えた二人は誰もいない校舎の非常階段に並んで座っていた。
空には少し欠けた月が浮かんでいた。
「今日楽しかったね。」
紗月が伸びをしながら言った。
「疲れたけど楽しかった。」
零は頷いた。
沈黙がしばらく続いた。
心臓が痛いくらいに鳴っていた。
「あのさ。」
零は絞り出すように口を開いた。
「紗月のこと好きだ。」
言ってしまってから心臓が止まりそうになった。
紗月は少しの間目を丸くしていた。
それから月明かりの下で零がこれまで見た中で一番柔らかい笑顔を見せた。
「――うん。私も。」
その一言で世界の色が変わった気がした。
零はこの夜のことを何度も思い出した。
紗月の照れた横顔。夜風の冷たさ。月の光の角度。
全部はっきりと覚えていた。
この記憶だけは絶対に消えてほしくない。
零は暗闇の中そう強く思った。




