屋上
放課後零は忘れ物を取りに教室へ戻った。
誰もいないはずの校舎で屋上への扉が少しだけ開いていた。
覗くと紗月がいた。
一人で泣いていた。
声を殺すように肩を震わせて。
「紗月……?」
声をかけると紗月はすぐに顔を上げ涙を拭った。
「あ……見られちゃった。」
いつもの笑顔にすぐに戻る。
「大丈夫。ちょっと感傷的になっただけ。」
「何かあったのか。」
「ううん何にも。」
「泣くくらいだから何かはあるだろ。」
零が食い下がると紗月は困ったように笑った。
「風が強くて涙出ちゃっただけだよ。」
今日は風なんてほとんどなかった。
零はそのことを指摘しようか迷ってやめた。
「……そっか。」
「心配してくれてありがとう。」
紗月はそう言って屋上の扉から先に出ていった。
零はしばらく一人でその場に残り紗月が座っていた場所を見つめていた。
コンクリートの床に小さな水滴の跡がいくつも残っていた。
風で乾いた涙にしては量が多すぎるように思えた。
紗月はそれ以上語らなかった。
零は聞くことができなかった。
ただ紗月がこうして一人で泣いていることがこれが初めてではない気がした。
理由のない確信だった。
忘れ物を取りに教室へ戻る。
自分の机の周りを見渡していたときふと紗月の机の上が目に入った。
いつもそこにあったはずの小さな写真立てがなくなっていた。
誰かと二人で写っている写真だったと思う。紗月ともう一人。誰だったかは思い出せない。
でも確かにあったはずだった。
零は机の引き出しの中もそれとなく覗いてみたが見当たらなかった。
教室に残っていた担任に零は何気なく聞いてみた。
「先生紗月の机に前写真立てありましたよね。」
「写真立て?」
担任は怪訝そうな顔をした。
「そんなもの最初から置いてなかったと思うが。」
「……そうですか。」
零はそれ以上聞けなかった。
自分の記憶違いだろうか。それとも――。
教室を出ながら零は妙に落ち着かない気持ちを抱えていた。
誰も気にしていない小さな違和感。
でも零だけはそれをはっきりと覚えていた。
その日から零は紗月の笑顔の裏にいつも何かを探すようになった。見えないはずのものを見ようとするように。




