ドラマ
その日の詩織は、明らかにこれまでとは様子が違っていました。
忙しいなどと理由をつくって散々近藤と会うことから逃げていたというのに、自ら近藤に連絡を入れて顔を合わせたのです。
「どうしたんだい? ずいぶんと積極的になったじゃないか」
普段は他人の気持ちなんて気に留めない近藤も、さすがにその詩織の態度の変化を不思議に思って尋ねました。
「ごめんね、今までは。実のところ、近藤くんの厚意はありがたかったけれど、『素人に何ができるのよ。こっちは忙しいんだから』って感覚だったの。でも、何度も観せてくれたあなたの動画を改めて鑑賞するうち、『頭ごなしに否定していただけで、可能性は十分あるな』って気づいて。だから」
「そうかい。それはよかった。別に謝ることなんかないよ。私だって、外部の人間から『自分は良い授業をできる自信があるから教師をやらせてくれ』って言われたら、『そんなに簡単じゃないぞ』って憤るだろうしね」
「ありがとう。で、今度はバラエティーをお願いできないかな?」
実は、詩織の狙いはそこにありました。近藤はクレイジーで迷惑、しかし、バラエティーなら、それが吉となって、本当に面白くて使える番組を手に入れられるかも、と思い立ったのです。
ところが、近藤の内心はハンサムの割合が高く、その申し出を不快に感じてしまいました。
「なぜにバラエティーなんだい?」
詩織は近藤が快く思わなかったのを察知しました。
「だ、だって、近藤くんってとても愉快な人だし、面白いことを考える才能があるなーって、ずっと思ってたから」
「ふうん。でも、今日用意してきたのはドラマなんだ。それを観てくれよ」
あちゃー。何だよ。
詩織はそう思って、頭を抱えたい心境でしたが、ひとまず動画に目を通すことにしました。
始まったドラマは、なぜかフランス風でした。
どうしてフランス? と、当然彼女は首をひねりました。
「マドモアゼル」
ドラマのなかで、近藤扮する女性が頻繁にその台詞を口にしました。
それが言いたいだけだろ、このアホ男!
詩織はまたもや心の中で毒づきましたけれども、これ以上近藤の機嫌を損ねるわけにはいかないので、黙って笑顔を浮かべ続けました。
そして、次のチャンスをうかがうことにしたのでした。




