評論番組
詩織は、近藤に呼びだされて、カフェで再び彼と顔を合わせました。おそらく一回では済まないだろうと、近藤の魂胆はわかっていましたが、「奴を無下にすると、後が怖いかも」と考えたからでした。
「用件は何かしら?」
一応、彼女は訊きました。
「いやね、この前の、同窓会で出た話だけれど」
え? そこからもう一回やるの? なぜに?
詩織は慌てて口を挟みました。
「前回会ったときみたいに、テレビ業界を思って、番組を作って持ってきてくれたんじゃないの?」
「ああ、実はそうなんだ」
近藤は使命感にあふれた男前な顔つきで答えました。
「実は、じゃねえよ。それ以外ねえだろうが」と彼女は心の中で思いきり毒づきました。その直後に、「そうか。テレビ業界を心配する、自分が善い人だというのをもう一度やりたかったのか」と気づきました。
「じゃあ、観せてくれる?」
詩織はとっとと話を終わらせる目的で、近藤に動画を早くよこすよう要求しました。
「ええ? どうしようかな……。そんなに期待されても、たいしたことないし……」
近藤は臆病になった少年のようにもじもじしだしました。
期待してねーよ! さっさと終わらせてーからだよ!
詩織は怒りで自身の頭の血管が切れるのではないかと思いました。
ともあれ、ようやっと、近藤はタブレット端末を取りだし、自ら撮ってきた動画を再生させました。
「先生、本日のテーマは食です」
「うむ」
メガネをかけた、真面目そうな若い女性のアシスタントからの言葉を受けて、着物を身にまとい、大物感を漂わせた近藤が、話し始めました。
「先日、スーパーマーケットに行ったのだけれども、あることに気づいたのだよ」
「何でしょう?」
「肉まんが売られているスペースで、あんまんが置かれていないのだ。ピザまんはあるというのに」
「あら、どうしたのでしょうか」
「あんまんがたまたま売り切れていたという雰囲気ではない。私が子どもの頃は、中華まんといったら、肉まんとあんまんが盤石のツートップを形成していた。もしや、今はピザまんがあんまんを追い抜いてしまったのでは? と心配になったのだ。で、他の店でも見てみたところ、そこにはあんまんも陳列されてはいたが、やはりピザまんのほうが主力商品という置かれ方をしていた。どうやら、やはりピザまんのほうが現在は売れ筋のようなのだ」
「そうでしたか。私もその事実は存じ上げませんでした」
「でだ。問題は、ピザまんの人気が上がっているのか、あんまんの人気が下がっているのか、だ。あんまんの人気が落ちている場合、果たしてそれは中華まんに限ったことなのか。あんこは日本の甘いものの代表的な存在だったけれども、もしやそれが揺らいでいるのでは? だとするならば、見過ごすことはできないのでな」
「先生はあんこも大好物ですからね。たしか、今はホイップあんパンにハマってらっしゃいましたよね?」
「いや、そこから派生して、現在最も気に入っているのは、ホイップクリームパンだよ」
「あら、すみません、そうでしたか」
「うむ。ホイップクリームパンは素晴らしい。なにしろ——」
そこから近藤がホイップクリームパンについて延々と語る場面を詩織は鑑賞する羽目になったのでした。
「……これは何?」
ようやく終わって、彼女は近藤に尋ねました。
「見ての通り、評論番組だよ。若者のテレビ離れが顕著だからって、フランクな番組を増やすのではなく、敢えてこういう堅いものをやるほうが受けるんじゃないかと思ったんだ」
あんまんやらホイップクリームパンやらについてしゃべって、どこが堅いんだよ! と詩織は思った後で、近藤に言いました。
「確かに斬新で興味を持たれるかもしれないわね。じゃあ、これ、借りていいかしら? 会社の人と相談して、良かったら使わせてもらうから」
「そうかい。どうぞ、ぜひ持ち帰ってくれたまえ」
「ありがとう」
詩織は、断るとまた新たなくだらない動画を観させられるに違いないからと、そうして事を収めたのでした。
近藤は、もう採用が決まったような、満たされフェイスで去っていき、詩織はぽつりとつぶやきました。
「アホ」




