ドキュメンタリー番組
注:この話は、「おかしなおかしな教師近藤が何やらとても悩んでいるご様子です」の続きです。
佐伯詩織は、テレビ局に勤めていて、ディレクターをしています。
そんな彼女のもとに、ある人が会いたいと言ってきたので、時間をつくってカフェで顔を合わせました。
「やあ、佐伯さん。ごめんね、呼びだして」
「大丈夫。それで、何なの? 話って。近藤くん」
そうです。彼女に連絡を入れて、やってきたのは近藤でした。
「この前の、同窓会で出た話だけれど」
「ん? うん……」
何のことだろう? と思い、詩織は小首を傾げました。
「ずっと気になってしまってね。オワコンだっていうのが」
「ああ」
彼女はそのことかと理解しました。今の会話にあったように、彼らは少し前に同窓会に出席したのです。つまり、二人は同じ学校で、クラスメイトでした。
そして、「オワコン」というのは、ご存じの方も多いでしょうが「終わったコンテンツ」の略であり、テレビは落ち目の業界で、過去のものになったとして、その言葉を使われることが少なくなく、詩織も同窓会の場で、半分本気、半分冗談といった調子で、自らの職場をそう嘆いたのでした。
「世代的に私もテレビにはたくさん楽しませてもらって、お世話になった身だ。なんとか元気になってもらいたい。だから、作ってきたんだ、これを」
近藤はタブレットの端末をカバンから出して電源を入れました。
「え? 何なの?」
相手はあの近藤です。詩織は嫌な予感がしながら尋ねました。
「私が作った動画さ。もしよかったら、ぜひ番組で使ってくれ」
えー……。
詩織は目にする前から引きました。なにしろ、あの近藤なのですから、期待などできるはずがありません。おかしなVTRを披露されるに決まっています。
とはいえ、成り行きじょう仕方がないので、観ることにしました。
「うーん……」
近藤は、煮詰まると、必ずミルクセーキを飲みます。
「そうだ」
どうやらひらめいたようです。
「よし。完成、と」
ペンを置き、さっそくできた詞を曲にのせて歌います。
「素敵すぎるぜ、近藤~。我らがヒーロー、近藤~。
かっこよすぎだぜ、近藤~。我が心のラバー、近藤~」
…………。
詩織は絶句しました。
「な、何なの? これは」
その問いかけに、近藤は自信満々な態度で答えました。
「いや、観ればわかるだろう。私が、趣味の曲作りで、その歌の詞を考えている模様を映した、ドキュメンタリーだよ」
いやいや、素人が作詞しているサマを撮影したドキュメンタリー番組を、どこの誰が観たがるっていうのよ。この人、ほんと、何歳になっても変わらぬクレイジーさね。
彼女はそう思いました。
「悪いけど、ドキュメンタリーは間に合ってるから」
「え? 本当かい?」
近藤は怪訝な表情で言いました。
「ええ。今、ドキュメンタリーって流行らないのよ。観る人が限られてるから、制作本数も少なくて、足りてるってわけ」
完全にテキトーに、彼女はそのように拒む理由をつくりあげました。
「そうか。なら、しょうがないな」
近藤は納得した様子で帰っていき、詩織は安堵しました。
しかし、何度も申しますが、相手はあの近藤です。これで終わるはずがないのでした。




