第七話「薔薇のようなあなたの・中」
店の前に豪華な馬車が停まり、エミルは窓の外に目を向けた。
降りてきたのは、アーデルベルトだ。
「狭苦しい店だ」と、青年は挨拶を言う。
「何か御用が?」と、エミルは返す。
「仕事を持ってきた」
そう言って、青年は受付のカウンターに、古い帽子を投げる。
エミルは商品をよく見て、何処を直すべきかを尋ねた。
青年は言う。
「新品同様にしてくれ。思い出のある品なのでね」
「買ったばかりのようには、なりませんよ?」
「構わない」
「畏まりました」
品物を引き受け、幾つかの項目の欄が印刷された書類に、記入とサインを求めた。
受付の椅子に座り、書類を書きながら、青年は切り出した。
「何故、こんな店を作った?」
意味を測りかね、エミルは目を瞬く。
青年は問い質す。
「何故、剣より、針と糸を選んだ?」
「何故と言われても……」と、エミルは言葉に悩む。「これが天職だから?」
「針仕事は、女のする事だ」と、青年は説得するように言う。「何故、そんなお遊びを選んだんだ?」
その言葉を聞いて、エミルは眉を寄せる。
青年は言葉を続ける。
「フローラは、お前が『聡明な人間』だと信じている。私も、お前が決して軽々しい気持ちで、この仕事を選んだとは思いたくない。だからこそ、理由を教えくれ。私の疑心を覆せるだけの理由を」
それを聞いて、エミルはゆっくり目を閉じ、諦めたような溜息を吐いた。
「他人に見せるのは、あまり好きじゃないけど」
そう言ってから、エミルは椅子から動かないように指示を出し、つい先日、繕い直したばかりの黒い喪服のドレスを作業台に置くと、ポンポンッと服の肩を叩いた。
服は人が着ているように膨らみ、動作を始める。
葬儀の列に並び、目元をハンカチで拭い、棺に花を手向ける。
牧師の祈りの声を聞き、土に埋められる棺に家族が一掻きずつ土をかけ、参列者達は夫々の家に帰る。
ドレスの婦人は、途中まで帰路の歩を進めかけ、思い切ったように、新しく作られようとしている墓に駆け寄った。
「ホルガー! 愛してるわ!」と、墓の中の屍に声をかける。「愛してるわ、永遠に!」
膝から頽れた婦人は、泣き声で、「愛してる……」と呟き続けた。
「術」が切れた衣服は、ふわりとその場に崩れた。
青年は言葉を失くして店を去った。
夢遊病者のように、無言で馬車に乗り込む。
そして思った。
私が預けた帽子からは、何が見えて聞こえるのか。
彼が、既に自分がエミルの「仕事」に魅入られていると気付くのは、まだ後の事だ。




