第六話「薔薇のようなあなたの・上」
真上から見ると、華麗な薔薇の花達が、美しさを競っているように見えた。
舞踏会のドレスとなると「軽やかで裾の広がるシルエット」が好まれるようだ。
二階のシャンデリア横から、宴の席を見下ろしたエミルは、注文の品であるカーテンの設置を終え、富豪の屋敷を去ろうとしていた。
「エミル。君も一杯いかがかね」と、健康的な富豪はワイングラスを差し出してくる。
「いえ。仕事がありますので」と、断った。
「少しはくつろいでも良いだろう?」と、エミルと年の近い青年が声をかけてくる。「狭い店に籠ってたら、人生が退屈になる」
エミルはスッと息を吸うと、考えてから答えた。
「様々な商品に触れる事が、私の中での『人生』になっているんです」
青年は表情を硬くし、「あくまで、職人の生き方を選ぶのか?」と、問い詰めてくる。
「騎士の称号は、兄が継ぎましたよ」と、差し障り無く返すと、エミルは宴を邪魔しないように、裏口へ向かった。
その背を見送りながら、「分からず屋め」と、青年は小さく罵った。
出て行こうとするエミルに、侍女が声をかけた。
「エミル様。これを」と言って、油紙の包みを渡してくる。「材料の残りで作ったんです。ベリーはお好きだったでしょ?」と、侍女は笑みを向けてくる。
その材料を余らせるために、色々と「工夫」をしたのだろう。
「ありがとう、イルザ。髪飾りを新調したくなったら、教えて。そのリボンも、大分お古でしょ?」
侍女は、髪を纏めている飾り紐に触れて、少し顔を赤らめた。
宴が済んでから、富豪の息子アーデルベルトは、深酒に溺れていた。
ワインの瓶をひったくって、「兄様。もう、おやめになって」と、妹が声をかけた。
青年は眉間に皴を作りながら、椅子の肘掛けに寄りかかり、目を閉じる。
「あいつは、剣術に興味を無くしてから、腑抜けに成った」
「エミル様のこと?」
「あいつ以外、フォン・アルマを捨てた者など、居るものか。家も剣も捨てて、誇りすら失った」
そう青年が笑うと、妹は「いいえ」と反発する。
「エミル様は誇りを失ったりしていません」
青年は妹の反発に、苦い顔をする。
「布や糸と戯れて、闘う事を忘れた」
「いいえ」と、妹は譲らない。
「フローラ。お前、エミルに惚れてるのか?」
妹は首を横に振る。
「私は、あの方が聡明な方だと知っているだけです」
青年は黙り込んだ。アルコールの起こす酔いと頭痛が、同時に襲ってくる。
それから、「明日、エミルの店に行く」と、告げた。




