第四十一話「花瓶に咲く花 2」
エミルが店で繕いの仕事をしていると、マリーナが仕事を持って来た。
彼女のお気に入りの、紺の薄衣を重ねた「夜を示すドレス」の裾の一部が、焦げてしまっている。
「質の悪い悪戯をされたのよ」と、マリーナは言う。
他のドラァグ・クイーンの嫉妬を買い、衣装に悪戯をされると言うのは、よくあるらしい。
エミルは、焦げがある部分の布を縦に断裁し、縫い目が襞に隠れるように、同じ色と質感の布で縫い直した。
「舞台の世界では、他人を罵ったり、陥れたりする事は、常なんでしょうか」と、エミルが聞くと、「誰かを蹴落として、役にありつこうって言う、浅はかな奴は、確かに居るわ」と、マリーナ。
エミルはレナータの失踪を、マリーナに告げた。
マリーナはきょとんとした顔をして、「その子なら、隣町の劇場で、舞台に立ってるわよ」と言う。
何でも、髪を短く切り、少年の役をやって居るらしい。
エミルは、レナータの流れるような金髪を思い出した。あの美しい髪を、切ってしまったなんて。
「何かあったのでしょうか?」と、客に問いかけると、マリーナは、「以前いた劇団の、役者のファンから、髪を切られたからって、言う話を聞いたけど」と答えた。
エミルは刺繍をしながら、「同じ劇団員のファンから、敵意を向けられていたのなら、別の劇団に避難するのは、当然のことか」と、頭の中で纏めた。
翌日、エミルに衣装の繕いを頼みに来た、ディーターが吹聴していた。
「俺のファンに、俺の困りごとを打ち明けたら、『私が敵を討ってあげる』って言って、息をまいてたぜ。何をするかと思ったら、あの不細工のきんきらの髪の毛を、切り落としたんだ」
エミルは「そうですか」と受け答えただけだったが、マリーナからの情報の答え合わせは出来た。
刺繍を作り上げたエミルは、それをレナータに渡すために、隣町の劇場に足を運んだ。
観覧のための料金を払い、幻想神話の、主人公の少年役を演じている、彼女の姿を観た。
演技のために気を張っているとは言え、落ち込んでいる様子は全く見せていない。
エミルは、差し入れを集めるボックスに、包装紙で包んだ刺繍のハンカチーフを投じた。
「レナータへ」と書いたカードをリボンにさして。
翌日の伝聞紙での事。レナータが少年役を務めている劇場で、事件が起こった。
二名の男女が刺殺されたのだ。
目撃者はおらず、またしてもレナータは、その劇団から失踪した。
バルツァー警部は、彼女を容疑者として追っている。




