第三十六話「偽装事件 中編」
その日のうちに、エミルは「現場検証に付き合ってもらいたい」と、バルツァー警部に呼び出された。
疑問はあるが、誰かが、自分を殺人現場に呼び寄せようとした理由は知りたい。
エミルは渋々と、警部と一緒に馬車に乗った。
数名の警察官が、アパルトメントの一室から出てくる。
部屋はガランとしており、家具らしきものは無かった。唯一、カーテンだけが備えられている。
カーテンレールに通された、首吊り用のロープと、その近くに倒れた椅子があった。
「現場はそのまま保存してある」と、バルツァー警部は言う。「此処にある品から、何か探れないか?」
そう言われ、エミルは考え込んだ。
カーテンから何か読み取れるだろうか?
エミルはバルツァー警部に、外に出るように合図した。
エミルがカーテンを叩くと、ボソボソと言う男性同士の会話が聞こえてきた。
「至極簡単な事だ。ワインの中に数的混ぜれば良い」
「奴が部屋を出ようとしたら、どうする?」
「つまみを壊しておこう。壊した部分には、塩水を塗りつけておく。錆びてしまえば、何時壊されたのかは分からない」
「しかし、最近の警察に協力している、術師が居るらしい。そこから情報が洩れるかもしれない」
「ならば、そいつを犯人に仕立ててしまおう」
エミルを呼び出そうとした理由は、そのような事らしい。
バルツァー警部を呼び戻し、ドアレバーの下に、鍵を開けるための、つまみが無い事を確認した。
「塩水か」と、バルツァー警部は言う。「すっかり錆びているから、数年前に壊れたものだと思っていた」
エミルは少し考えてから、こう聞いた。
「貴方達が部屋を訪れた時、外に誰かいませんでしたか?」
「男が一人いた。確か、ルドルフと言う名の男だ。それがどうかしたか?」
「彼は、この部屋の鍵を、持って居ませんでしたか?」
「さぁ。そこまでは知らないな」と言ってから、バルツァー警部は部下に声をかけ、アパルトメントの何処かに、ルドルフと言う男が住んでいないかを調べろと、指示を出した。
結果、そのアパルトメントに、ルドルフは住んでいなかった。
その男は、エミルが部屋に入った途端、外側から鍵をかけて閉じ込めるつもりだったのだろう。
その状態で警察を呼べば、エミルは第一発見者であり、容疑者になる。
エミルは言う。
「私が来ていないのに、先に警官が到着していたので、ルドルフと名乗る男は、鍵を閉め損ねたのでしょう」
バルツァー警部は、次のお手柄を予想し、目を輝かせた。




