第二十八話「テレージアの宝飾店」
宝飾品店の一室に通されたエミルとフランツは、夫々に宛がわれた一人掛けソファに座った。
「見事なものだ」と、フランツが零す。
彼が感心しているのは、ケースの中の宝石の数々ではなく、壁一面に貼られた最新版の壁紙と、ビンテージの振り子時計だ。
「コルネリアの勧めで買ったらしい」と、エミルはフランツに解説する。「そしたら、店は大繁盛」
「やはりな」と、フランツは感心したように頷いた。
ごつごつと、ヒールの踵を床に叩きつけるような音を立てて、パウラと比べてもだいぶ恰幅の良い夫人が、奥の間から現れた。
「ああら。見目麗しい男性が二人も」と、野太い声で彼女は言う。「ご機嫌はいかが?」
「悪くないよ。それで、テレージア」と、エミルが呼び掛けると、夫人はニヤニヤしながら、片手の指を一本立てた。「お願いは、まず、代償を提示してからよ?」
その言葉を聞いて、エミルは一度視線を天井に向け、それからフランツを見た。
フランツは、自分が刺繍を施したハンカチーフを取り出す。
「君は、アイリスの花が好きだったね?」と、フランツは言葉を添えた。
テレージアはハンカチーフを受け取り、まるで写真のような美しさの花の刺繍を見て、満足したように微笑んだ。
「コルネリアを呼んで来る。お客様達は、そのままご着席で」
エミルとフランツは、同時に「頼んだよ」と声を返した。
フリルの豪華なドレスを着たコルネリアは、ねむたげな瞼を掻き、下唇を吸っていた。
「コルネリア。頼みがあるんだ」と、エミルは明るく声をかけた。「この伝票と書類から、『読む』事は出来るかい?」
コルネリアは、明後日の方向を見ている。自分の長い巻毛の先を目の前に持ってきて、それから爪を見る。口元は、ずっと下唇を吸っている。
「十八の娘とは、思えんな」と、フランツは敢えて文句を口にした。「少しはこちらを見なさい」
コルネリアの肩がピクリと揺れた。
彼女の口元が開き、緑の瞳が正気づき、ゆっくりと客の方を向く。
その口から、幼女のような声を発した。
「告白の場を待っている。法の裁きを待っている。しかしそれは叶えられぬ。ならば奪い返すまで」
エミル達は、息を飲んでその言葉を聞いた。
コルネリアは続ける。
「奪われた財は我等が元へ。国傾こうとも、反逆と呼ばれようとも、それは成さねばならぬ事」
そこまでで、彼女は再び眠たそうな顔になり、下唇を吸い始めた。
彼女の言葉は、確実にエミル達が欲していた情報を射止めていた。




