第二十五話「金色の林檎 下編」
息を細く吸いながら、エミルとマリーナは、何処かに転がってしまった金色の林檎を探した。
院長はひどく怯えていて、両手を握り合わせたまま「神よ。許したまえ」と唱えるだけで、全く役に立たない。
辺りが暗い上に、ライトは一つしかない。
二人は、記憶の再燃の中で見た、猫の像の周りを丹念に調べた。
金の林檎の姿は何処にもない。
「真ん丸な形だから、転がるとしたら……」と言って、マリーナは率先して林檎のありそうな場所に首を突っ込み、エミルは彼女が行動しやすいように、ライトを操った。
息苦しさを感じ始めた頃、「あった!」と、マリーナが叫んだ。
金貨の山の中に隠れるように、金色の林檎が転がっている。
マリーナはそれを手にして、猫の像の前に進む。
「じゃぁ、はめてみるわね」と、緊張した声を出し、そっと金の林檎を猫の像の瞳に収めた。
外で水の流れる音がし、再びガコンと言う、仕掛けの起動する音が聞こえた。
階段の方から光が差し、風が吹き込んでくる。
「やったわ!」と、マリーナは胸の前で手を組み合わせた。「エミル、出られるわよ!」
「ええ。それは良いんですが」と、エミルは渋い顔をした。「さっきの人は、どうします?」
「心配しないで」と言って、マリーナは自分のコートのベルトを外すと、「ちょっと縛り上げて来ましょう」と言って、地下室の奥へ向かった。
その後、バルツァー警部のお手柄がまた一つ更新された。
窃盗罪で捕まった院長は、「魔女が私を操って居たのだ」と主張している。
院長が盗もうとした宝石は、全て陶器の像の瞳に戻した。
一体、誰が献金を人参にして、院長をロバにしたのか。
「私は、ベネディクタが怪しいと思う」と、マリーナは言い切った。「生前のドローテが『護符』を作ってもらってた『賢い女性』が居るんだけど、その女性がドローテから地下室の事を聞いていないとは限らないもの」
「その『賢い女性』の名前は分かりますか?」
エミルの問いに、マリーナは眉を寄せる。
「それが、一度もドローテから名前を聞いた事は無いの」
「それじゃぁ、不確実ですね」
「あら。ベネディクタの肩を持つの?」
「疑いだけで罰する事は出来ませんから」
「そう言われれば、その通りね」
そんなやり取りをしていると、またしてもファルベが伝聞紙を握って、店の中に飛び込んできた。
「聞いて!」と、ファルベは言う。「アンゼーエンが、また王室を狙ってるって!」
どうやら、金の林檎事件は未解決に成りそうだ。




