第二十一話「毛皮のコート」
銀色の毛皮で出来ているコートが持ち込まれた。コートの丈は短いが、袖は長い。
「何の毛皮でしょう?」と、エミルが問いかけると、「狐よ」と、持主は答えた。
そのコートの背を縫っている糸がほつれている。どうやら、銀狐の毛皮を何匹か分使ったコートのようだ。
内側を覆っている繻子の背を解いて、毛皮のほつれを繕った。ひっくり返した内外を元に戻し、繻子を縫い合わせる。
作業中にぼさぼさに成った毛皮を、埃取りで撫でて均す。
出来上がってから、作業台に乗せたコートの肩をポンポンと叩いた。
コートは宙に浮き、両手を左右に降り始める。ハイヒールの踵の音が聞こえる。歩いているようだ。
左側の袖が、腕を九十度折り曲げているので、ハンドバッグでも持って居るのだろう。
コートの肩が半身を横に向ける。ショーウィンドウ中に何か見つけたのだろうか。
店内に入ってから、コートは一度脱がれて、ハンガーにかけられた。
「金色フォックスの毛皮です」と、店員の声が聞こえる。
「良いわね。丈からして、冬用かしら?」と、依頼人の女性の声が聞こえる。
「ええ。腰を覆えるようになっております。よくお似合いですよ」
「それじゃぁ、これ頂くわ」
「ありがとうございます」
そのやり取りの後、銀狐のコートはハンガーから外された。
「あら」と、持主の声がする。「これ、背中がほつれてる」
そこまで再現してから、銀狐のコートはふわりと作業台の上に着地した。
繕いが仕上がった、狐のコートをトルソに着せ、夜中に眠ろうとしていたエミルは、階段の方が明るい事に気付いた。
階段から下を覗いてみると、先のコートを着せてあったトルソの周りに、白い光に包まれた子供の狐が数匹居る。
瞬間的に数を数えると、銀色の子狐が三匹、金色の親狐と思われるものが一匹、暗闇に浮かび上がっている。
事情を悟り、エミルは静かに階段を下りた。
狐達が彼の方を向く。
「お前達」と、エミルは言う。「ようやく会えたんだね」
銀狐の親子は、穏やかな表情でエミルを見つめ返し、一声「ケーン」と静かに鳴くと、煙が消えるようにスゥッと姿を消した。
服飾の仕事をしている上で、エミルも「毛皮製品に反対する」わけには行かない。
兎の毛皮の手袋等も、度々繕いの仕事として持ち込まれる。
今回のような幻視は、毎回起こる物ではないにせよ、何となくエミルの心持に重い物を残した。
何時か、命を奪わない毛皮製品が出来たりはしないだろうか。
そんな事を思い浮かべた。




