第二十話「人気商売の伝聞紙」
今日も、ポストに伝聞紙が投函された。
笑気ガスパーティーと言うものが、世間で流行っているらしい。
吸い込むと、大声で笑ったり叫んだりしたくなる不思議なガスを吸って、そのガスを吸った人物の滑稽な仕草を見て、観衆も笑い転げると言うパーティーだ。
また、ヒキガエルパーティーと言うものも流行っているらしい。
ソノラ砂漠ヒキガエルと言う、蛙の一種が背中から分泌する油を舐める事によって、幻覚を見るパーティーだ。
あまりに何度もヒキガエルを舐り続けて、心不全を起こして病院に運ばれた人物もいたと言う。
伝聞紙を見ながら、エミルは世の事情を憂いた。
そんな事をする以外に、楽しみと言うものが無いのだろうか。
昔通りの、音楽と料理とダンスと、少々のアルコールのパーティーでは、物足りなくなっているのだろうか。
それとも、一部の富豪に独占されている「娯楽」の代わりに成るのが、薬品文化と言うものなのだろうか。
しかも、薬品パーティーの記事の終わりには、「あなたにも、お気に入りのパーティーがあるでしょう?」と書かれている。
エミルは、思わず眉間にしわを寄せて目を閉じ、伝聞紙を放り投げないように、静かに折り畳んだ。
近年のエーヴィヒ伝聞紙は、記事の質が悪くなったと言わざるを得なかった。
発行したばかりの頃は、「新しい世紀のための新しい波を」と謳って、科学技術の発展を連日報道しているような、熱の入った伝聞紙だったのに。
その科学技術の一環として、「薬学の今日」と言うコラムが組まれるようになってから、エーヴィヒ伝聞紙の内容はどんどん侵食されて行った。
何処の国でどんな薬品が発見されて、どのような使い道がありそうだと言う内容から、「眠らなくても働ける薬品」や、「死んだように眠れる薬品」と言う、怪しげな内容に変わるまで、そう時間はかからなかった。
今では、「楽しむための薬品」として、先のような、人間の気を触れさせる薬の話題が報道される。
「憂鬱を晴らしてくれる薬品」や「陶酔感を味わえる薬品」と言った、強烈に脳に作用する薬品も取り上げられ、薬局ではそれ等の薬品が、低価格で販売されていると言う。
「貴女の瞳に究極の美を。ベラドンナ点眼液」と言う広告を見て、エミルは心に決めた。
もうエーヴィヒ伝聞紙は取るのを止めようと。
電話で伝聞社に連絡を入れ、来月からの配達をやめてもらった。
そんなわけで、エミルは新しく「まともな記事」が読める伝聞社を探している。




