第十七話「舞台衣装」
暖かい昼下がり。
繕い屋では、古着に向かって針と糸を操るエミルと、その仕事ぶりを眺めて、お茶を飲んでいるマリーナ、そして熱心に新聞を読み上げるファルベが居た。
ファルベの音読が止んで、マリーナが質問する。
「その『アンゼーエン』って言う怪盗が、王室を狙ったのは、今回が初めてじゃないの?」
「そうなるね。陰湿な過激派じゃないかって言う、説もある」
この二人、既に顔見知りのように話しているが、出会ったのはつい三十分前である。
衣装の繕いを依頼しに来たマリーナと、新聞を握りしめて駆け込んできたファルベが鉢合わせ、暫くしどろもどろしてから、「初めまして」と、互いに挨拶をしていた。
ファルベも、最初はマリーナを「エミルの恋人?」と聞いたものだが、マリーナは淑やかに笑った後、「私、男なの」と白状した。
夜の酒場でショーを披露する仕事をしており、その舞台衣装の繕いを頼みに来ているのだと。
「舞台衣装? 見てみたい!」
そう言ってはしゃぐファルベの声を聞き、エミルは困ったようにマリーナの方を見る。
「見せてあげても、構いませんか?」
マリーナは艶っぽくティーカップを手に取り、「どうぞ?」と答えた。
マリーナが持ち込んでいた商品は、透け感のある紺色の、薄衣を重ねた衣装だった。
衣装としては地味だが、「この衣装を着けた私が、コーラスを歌う前でね、羽飾りをつけたクイーン達が踊るの。私は彼女を包む、『夜』の役割なのよ。夜の中で、彼女達は艶やかに舞い続けるの」と言うのが、マリーナの持論である。
「私は、ステージの手前では踊らない。けど、何時でも『背景』として、みんなを見守っているの」
そう語る彼女は、何処か誇らしげだった。
マリーナが頼みに来たのは、簡単なほつれの修復だったので、その日のうちに依頼品を持って帰ってもらう事が出来た。
彼女が去った後、ファルベはぼんやりと呟く。
「『背景』である事に満足感を見出すって、どう言う事だろ?」
「どう言う事だろうね?」と、エミルは誤魔化した。
実際、ファルベは分からなかった。
自分が、照り映えるような「一等星」ではなく、他の人が照り映えるのを手伝う、「夜」になること。
ファルベとしては、それでは全く自尊心が満足しない。
舞台に立つなら、群舞役より主人公が良い。
自分は一等星なんだと言う自信に満ちて、注目するみんなを魅了出来たら、最高なのに。
口には出さなくとも、そう願ってしまう彼女は、まだ十五歳であった。




